第348話
あまりに唐突だった。
少し前に立っていた隊長とウォルスが視界から消えた。
「ウォ——————ウォルスーーッッッ!!!」
ガリウスは目を覚まさない親友の名を叫んだ。
不幸中の幸いか、ギリギリでガードしたおかげでまだ息はある。
ただし、そのままの意味だ。
ただ息があるだけ。
本当にギリギリ生きている感じだ。
「ウォルスッッ!! 眼ェ覚ませよォオ!!! 寝てンじゃねェッッ!!!」
やはり返事は返ってこない。
ガリウスはギリっと歯を食いしばってこう叫ぶ。
「このクソ野郎ッッッ!! ふざけたマネしてんじゃねェ!!!!!!」
それでもユノはガリウスの方を見ない。
代わりに、魔法を飛ばして無力化する。
「こっち向きや、がッ、ぁ………あ!!」
「殺されないだけマシって思った方がいいぜ。誰も死んでないのは俺のおかげじゃん?」
いけしゃあしゃあとそう言った。
「さてと」
ユノは目の前にいるリンフィアの顔をじっと見た。
「んー、とてもそうは見えねぇけど………ま、いいや。さてリンフィアちゃん。今俺が何したかわかる?」
「………」
リンフィアはただひたすら睨んでいた。
こんなことでしか抵抗できない自分を呪って。
「異世界転移者専用スキル。【無窮の闘志】。使用者のステータスを全て5倍にするとんでもスキルだ。勝てるわけないじゃん。“ノーマル俺”にすら勝てないのに」
5倍。
無茶苦茶すぎる。
強化魔法を重ね掛けするようなものだ。
冗談じゃない。
そう思っている。
しかし、まだ諦めるわけにはいかないのだ。
「………結構頑固じゃん。ここでポッキリ折れてくれるかと思っていたぜ。でもまぁ、関係ないけどね」
ユノは拳を振りかぶった。
しかし、その拳は、直前にとまることになる。
「気絶させる方針だから、殺しはしない。だから、寝て………………この魔力は!!」
「リンフィア様。申し訳ありません。ですが、ここで使わずして、 いつ使うと仰るかッッ!!」
ニールはバルムンクを手にしていた。
リンフィアから滝のような汗が流れる。
「やめて!! ドラゴン相手にそれを使っちゃダメですッッ!!!」
「いいえ、使います。私は主人を守るため、この剣を振るうのですから!!!」
鞘から剣を出そうとしている。
やはり、いつもの覚醒半魔化ではない。
魔力の質が大きく違うのだ。
もっと強大な。そして、禍々しい魔力が溢れようとしていた。
「ダメーーーッッッ!!!!!」
「ぁ、がッ、ァアアあ、ああああああああ!!!!!」
その瞬間だった。
「やめておけ、その剣では、護りたいものは守れん。ただの破壊者に成り下がるぞ」
ニールの剣を上から押さえた者。
それは、
「………!」
レイだった。
「おやおや、副会長じゃん。何しに来た?」
「決まっているだろう?………………生徒会副会長の名に於いて、学院の敵を排除する。ただそれだけだ」
レイの手の甲が怪しく光る。
「!! それは………」
ユノは珍しく表情を歪める。
リンフィアはうまく状況がつかめていなかった。
「ほう? 知っているか。ならば話は早い。私とこの女でそこな竜を一瞬でなぎ払い、2人で奥の手を使えば、なんとかお前に勝てるかもしれんな」
「メンドクセェのが来たもんだぜ………いや、戦う必要はないじゃん。俺の目的はこの子なんだからなぁあああああ!!!」
「っ………! しまっ——————」
ユノの拳が迫り、リンフィアはギュッと目を瞑った。
やられる。
誰もがそう思った瞬間だった。
キィィイイン………
「………………………あ、れ………?」
殴られていない。
これは一体どう言うことか。
「ぐ、ぉ………ンだよこれはァアア!!!」
リンフィアを球形の膜が覆っている。
超高密度の魔力がポケットの中から放たれていた。
「ハァアアアアッッッ!!!」
ユノは魔力の膜を斧で攻撃し続けるが、壊れるどころか、ひびが入る気配すらなかった。
「魔力障壁………いや、そんなモンじゃねぇ。これは………これは一体なんなんだ!?」
リンフィアは恐る恐るポケットに手を突っ込むと、そこには何かの破片と触り慣れた銃弾、そして一枚の紙切れが入っていた。
「手紙………あっ!」
差出人はヒジリケン。
手紙にはこう書かれていた。
『バリア発動ってな。あーあー、追い込まれたな。修行が足りねーぜ、リフィ。さて、お前がこれを読んでるってことは目の前に敵がいるって事でいいな? バリアはお前が危機的状況になったら自動発動するように出来ている。その中なら安全だ………………だが、もしお前にまだ戦う意志があって、誰かを護りたいと思うのなら紅い弾を自分に向けて撃て。3分間だけ戦う力を貸してやる。お前の事だ。どうせ戦うんだろ? だったら根性見せな、リフィ』
「——————!!」
沸々と湧き上がる闘志。
今、自分の手のひらには戦う力がある。
何が起きるかはわからない。
でも、これだけは言える。
あの少年は、いつだってリンフィア達を勝利に導いているのだ。
リンフィアは弾倉に紅い弾を詰める。
リンフィアは銃弾に触れて理解した。
これはきっと、私だけの武器なのだ、と。
「力を貸して下さい——————行きますッッ!!」
リンフィアは引き金を引き、戦いに挑む。




