第346話
「はぁ………はぁ………これであらかた、倒せたでしょう、か………」
そこら中に地龍の魔石が散らばっている。
あたりの地龍は殆ど倒したらしい。
「リンフィアさ………殿、お怪我は」
「大丈夫、です………ニールは、平気ですか?」
魔力の消耗により、息切れを起こしているリンフィア。
無理もない。
グループで戦闘する場合、戦える者の負担は自然と大きくなってしまうものなのだ。
「はい、大丈夫です。少し休まれては如何ですか? 奴は私が始末しますから」
「………ふぅ………そういうわけにもいきませんよ。彼はずっと私たちを見てました。おそらく何かあります。少しでも安全に勝てるよう、みんなで戦いましょう」
奥で目を瞑っているユノ。
思考をまとめ、最終的な処理に入った。
「………よっし。もういいや。これで勝てる」
ユノは自信たっぷりにそういった。
「疲れさせる作戦………というわけでもなさそうだな。貴様、何を考えている?」
ニールはユノにそう尋ねた。
「教えるわけないじゃん、と、言いたいところだけど、それじゃあ面白くないもんな。その前に………後ろのアンタら。アンタらだよ短剣構えてる3人。それを投げるのちょっと待ってくれない?」
「「「!?」」」
ユノの背後で武器を構えていた騎士たちは驚愕した。
気配を感じ取ったのか、と思ったがそんなレベルではない。
奴は武器と行動、それと人数も読み取ったのだ。
「不躾な連中だなぁ。俺が今会話しているのは見ればわかるじゃん………かッッ!!!」
「——————!?」
一瞬にして目の前に移動したユノに誰も反応できなかった。
「そんな不躾な手は………こう」
ボトっと、何かが落ちた音がした。
それは騎士の手。
6個の手が斬り落とされ、床に落ちた音だった。
「っ、 ァアアああああ!!!!」
「手がッ………ッ、俺の手が………ッッ!!」
「ぎ、ぃぃいいいい!!!!!」
リンフィアはその動きをかろうじて捉えていた。
見えたが故に、恐ろしく感じる。
あの無駄のない動き。
加えてあのスピードだ。
一瞬にしてあれには勝てないということを悟る。
——————
「これは………!!」
ニールは敵の戦闘力と自分の戦闘力を比べ、思考した。
通常状態では勝てない。
覚醒半魔にならねば。
いや、それですら怪しい。
幸い地龍は倒しきっているのでなるのは問題ない。
だが、このままではハーフまで使わざるを得ないのは確実。
最悪、最大まで出さねば——————
「おっと、アンタにはこいつの相手をしてもらうぜ?」
「何を………………なっ、んだと………!?」
空から竜が現れた。
小柄で、 人型の個体である。
「アンタに覚醒されたら困るんだよね。多分俺より強いじゃんか。だから、こいつがいれば問題ないっしょ?」
「こいつ………!!」
ドラゴヒューマ。
ランクSSの危険な獣だ。
属性としては翼竜だが、海竜、地竜の性質を持つハイブリットなドラゴン。
発生するのはかなり希で、見たことのある者はいないとされている。
何故なら、目にした者は、その場で殺されているからである。
記録や情報があるのは、魔族由来のものや、探索を行った冒険者の遺したものがあるからだ。
しかし、 それでも情報は不十分。
この国で、こいつの弱点をしっている者はいないだろう。
しかし、 ニールは別だ。
実物を知っているので対処のしようがある。
「なるほど、対処できるってか」
「!?」
思考を読み取られた。
そのことにひどく驚愕するニール。
「ご想像の通り、俺は思考が読める。いや、視える、かな」
(くそッ………だったら下手に何かを考えないようにせねば………)
「それは無理じゃん?」
ユノは再び思考を“視て”先に答えた。
「俺たちは動物でもモンスターでもない。思考し、想像する生き物だ。それがヒト。そこに魔族も亜人も人間も何ら違いはない。思考とは、ヒトのもつ最大の武器だ。あらゆる行動の源である。でも、俺の前ではそれが仇になっちゃうんだよなァこれが。最大の武器は最大の弱点に。だから俺は言ったんだよ、勝てるって。自信を持つのは当然じゃん?」
「くっ………」
状況は芳しくない。
ニールと同等の強さの敵に加え竜系統の特殊なモンスター。
それに思考を読み取られる。
かなり厄介だ。
(私以外で戦力になりそうな奴は………数名程かだったら、なんとか乗り切ってみせる!!)
「………いくぞッッ!!!」
パームカフに魔力を注ぎ、クインテットブーストを発動。
双剣を携え、目の前の敵に向かって駆け出した。




