第344話
「完膚なきまでの勝利………」
リンフィアは隊長から大騎士長スカルバードの戦いの信条を聞かされた。
完膚なきまでの勝利といっても、具体的にどうこうするっていうのは定まっていない。
しかし、周りの人間の誰しもが、敵ですらそれを認めるような勝利を目指しているという。
(彼は一体、何を目指しているのでしょう)
スカルバードという人物の理念に純粋に興味がわいた。
先ほどのリンフィアは、少年を助けるために戦った。
しかし、スカルバードはもっと大きな何かのために戦っているのだろうか、なんて事を考えてみる。
この国の戦士の長となる人間の戦う理由。
そう考えると、ものすごくスケールの大きいものに思えたのだ。
うん、確かにそうだ。
リンフィアが集会で彼を見た時、よくは分からなかったが、確かに信念は感じた。
いや、信念を持つのはスカルバードだけに限ったことではない。
ここにいる騎士はしっかりと意志を持っている。
生徒達は、リンフィアも含めて若干ふわふわしているが、それでも何かは持っている。
しかし、
(彼は、何を考えているのか全く分からない………)
伝令役として現れ、私達を案内している生徒、ユノ・ハルトロス。
最初に彼を見たリンフィアは、何か得体の知れない寒気を感じた。
何も感じなかったからそう思ったのだ。
不明とか不詳といったものを体現するような男だと感じる。
分からない。
理解できない。
そして直感する。
「止まってください」
リンフィアはみんなに聞こえるようにそう言った。
「どうした? 敵か?」
隊長が真っ先にそう尋ねた。
確証という程のものではない。
何せ証拠がないのだ。
しかし、その直感は、確信とは呼べるものだった。
リンフィアはこう告げる。
向かうべき敵を指差しながら。
「はい………敵です」
ユノを指差すリンフィアを見て、騎士達はぎょっとした。
一体何を言っているのだと。
しかし、ニールや隊長はちゃんと耳を傾けていた。
「ぼ、僕ですか?」
演技くさい、とは言えない微妙な反応。
しかし、それでもリンフィアは指をさすのをやめなかった。
「確証はあるのですか?」
ニールがそう聞いた。
「いや、確証はないです。でも、“確信”はあります」
「そうですか………」
ニールは剣を引き抜いた。
そしてそれを男に向ける。
「あなたが言うのならそうなのでしょう」
「「!?」」
ニールは一切疑う事なく刃を向けている。
その事にみんな戸惑っていた。
しかし、時間がない。
いつ襲ってくる敵を前に悠長に構える余裕はないのだ。
「………」
ユノは黙り込んだ。
それを見た騎士達が、
「おい、黙ったぞ」
「本当に………敵なのか?」
「どうなってる………」
徐々に騒ぎ始める。
だが、ユノはそれについて一切反応を示さなかった。
すると、
「ハァ………もういいや、面倒くさい」
雰囲気が変わった。
少しおどおどした雰囲気は完全に消え、妙な圧を発している。
「違和感の正体は………」
「よく気づいたじゃんか。褒めてやんよ」
「「!!」」
その言動で全員が気がついた。
この男は本当に敵だったと。
「演技ってのもなかなか面倒じゃん? つーわけで正体を晒したのはいいものの、こりゃ多勢に無勢かねぇ」
「何を言っているのだ。ここで正体をバラしたのは貴様の方………」
「何言ってんだ? 無勢はお前らの方じゃん?」
そしてようやく気がつく。
地面で何かが蠢いている事に。
「何、だ………これは………!」
「かなりの数だ!!」
「この気配………まさか!!」
「お? わかるかい? まぁ、あんたならわかってもおかしくないじゃん?」
「!? 貴方は………」
この男の言葉にはどこか含みがある。
こいつはなぜか知っているのだ。
ニールの正体に。
「鑑定じゃないぜ? 俺は視えているだけだからな」
またもや見透かすような事をいった。
危険だ。
この男と深く関わってはいけない。
「さっさと戦ったほうがいいじゃん? 竜騎士ニールサン?」
「この男………っ、いや、まずは地龍からだッッ!! 全員備えろ!! 鱗の硬い地龍だ!! 力押しではなく考えて戦え!!」
「ニールの指示に従え!!」
「「「はッ!!!」」」
地龍が飛び出す。
ここは切り抜けねばならない。
だが、ニールに竜と戦わせるわけにはいかない。
そのためにも、
「ニール、サポートお願いします」
「! はい、お任せを!!」
(ニールに補助を任せ、私が前衛で戦うしかない!!)
リンフィアは弾倉に弾を装填し、銃を構えた。




