第342話
「本当に………効かないと言うの!?」
「ああ効かねぇ。お前の固有スキルはもう俺には一切通用しない」
俺はそう断言した。
霧乃がキッと睨みつけてくる。
無敵だと思っていた能力が破られたことによる不安や恐怖、それに加えて侮辱された怒りのような感覚を思っているのだろう。
そんなぐちゃぐちゃの感情を混ぜたような表情をしている。
「特別に教えてやるよ。お前の能力には決定的な穴があるってことをよ」
「!?」
その様子だと本人も気がついていない。
確かに、わからないかもしれない。
だとしても仕方ないだろう。
掛かったものにしかわからないのだから。
「何故眼を狙う技なのか理解しているか? 簡単だ。視覚を利用するからに決まっている。視覚のみを騙す能力なんだからな。では、使用中にやられた奴が動けなくなるのは何故か。刷り込みだからだ。靄が見せているのは映像じゃない。暗示そのものだ。一度でも目にした奴はその暗示に囚われちまう。だが、暗示だったら上書きが可能だ」
「あ………」
気がついたらしい。
確かに固有スキルは、無茶苦茶な性能がある。
このスキルも見るだけで効果を発揮するという無茶なものだ。
しかし、優先度という観点で見れば話は別だ。
より強い効果の魔法などがあれば、そちらにかき消される。
脆弱な炎のスキルなら、強力な炎魔法に飲み込まれてしまうのだ。
「………で、でも、あなたは魔法を使えなかった筈よ!? どうして1回目も効かなかったのよ!?」
「ハァ………言ったろ。俺は特異点だ。どうにでもする術がある」
それに、言ったところで理解できるわけがない。
「さて………」
俺は一歩前に踏み出した。
それを見た霧乃は怯えるように後ろへ退がっていく。
「こないで………来たら殺すわよッッ!!」
「やってみろよ」
一歩、また一歩と迫っていく。
霧乃を徐々に追い込むのだ。
「来るなって言ってるでしょ!!」
「!」
霧乃は引き抜いた投擲武器を俺に向けて投げた。
数は4本。
形状は忍者が使うようなクナイに類似している。
狙いはスキルによる軌道修正がある分かなり正確に俺の脳天と心臓めがけて飛んできた。
かなりのスピードだ。
が、
「やれやれ………」
俺は飛ばされてたクナイを指で挟んでキャッチした。
ほとほと懲りない女だ。
ブチッ
「………………………は?」
間抜けな声を出したのは、俺だった。
あまりに唐突。
なんの脈絡もない。
突然現れた“それ”に、霧乃が喰われたのだ。
事態は考えればすぐにわかった。
しかし、突然過ぎるほど突然だったのだ。
俺はただ純粋に驚いた。
「………こいつ」
その存在に関しては、霧乃の固有スキルを見てすぐに思いついていた。
奴の固有スキルは大人数に使えるような固有スキルではない。
あれは、対象人数が圧倒的に足りていない。
だから俺はこう考えた。
もう1人、暗示をかけるものが別にいる、と。
『爆発以外では、楽しくないもんね』
スピーカーのようなものだ。
音源は、奥の方だ。
『どうもだもんね、ミラトニアの特異点君。おれっちの名前は菅沼 惑。御察しの通り、盗賊たちに暗示をかけてた異世界人………でいいかな? だもんね』
「テメェ………」
おちゃらけた声がやたらと耳につく。
かなり鬱陶しい。
『どうだった? おれっちの暗示は』
「暗示? 何誤魔化してんだ。そんな生易しいもんじゃねぇだろ」
ある意味暗示より厄介。
契約という重たい儀式である以上、簡単に切れないし、上書きができないかなり厄介なものだ。
『あはは! いやいや暗示だもんね。第一こんな………』
「最初の盗賊に与えたそれは、特異点に負けた場合、ランダムに1人を残して自害せよ、ってところか。しかもそいつも後で自害。契約だろ? それ」
対人の儀式において最も効力の高いもの。
それを固有スキルに使うと言うことはほぼ解除は出来ない。
「………どうやら、小細工を弄しただけ無駄だったみたいだもんね」
声色が変わる
おちゃらけた口調は変わることはないが、声に棘を感じるようになった。
「改めて挨拶するもんね。俺っちはルナラージャ特秘部隊、菅沼 惑だもんね。」




