第34話
外に出ると、もう既に夜になっていた。
「つー訳で、無事に冒険者になれたぞー」
あの後、ダグラスは熟考の末、俺たちを冒険者にすることを許可した。
流石に飛び級なんて事は出来なかったが、まあ最善といえば最善の結果だった。
「ありがとうございます、ケンくん」
「気にすんな。悪いのはこの思想だ。俺からしてみればお前はあって当然の権利を得ただけだ」
魔族を悪とする考え方ははっきり言ってクソだ。
誰が考えたか知らないがよほどのクズに違いないと俺は思った。
そこまでは思ってないにしろ、ダグラスはその辺の話を理解してくれる。
マイの方は納得しかねていたが、まあそれはしょうがない。
認めてくれただけ良しとしておくべきだろう。
「そういえばお前、おっさんからなんか貰ってなかったか?」
「はい、これを頂きました」
それはプレートにつけるチェーンだった。
「どれどれ………」
【道具鑑定】でチェーンを見た。
その効果はリンフィアの助けになるものだった。
「へぇ、あのおっさんもスゲェことするな」
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これはケンたちが演習場退出する前のことだ。
「そうだ嬢ちゃん。こいつを持っとけ」
「わ!」
ダグラスから投げられたチェーンをキャッチする。
リンフィアはマジマジと見たが何に使うのかさっぱり理解していなかった。
「?」
「がっはっは! わかんねぇよな。こいつをプレートに付けてみな。ここをこうだ」
ダグラスは手でクイっと指示を出して、その通りにリンフィアはチェーンを付ける。
すると、
「おお、光りました。これは?」
「このままステータスを見てみろ」
「はぁ」
リンフィアはプレートのステータス表示場所を見た。
そこにはぱっと見わかりにくいが、リンフィアにとってかなり重要な変化が生じていた。
「これは………!」
「変わってるだろ。半魔族から人間に」
ステータスの名前の下の種族の部分が人間になっていたのだ。
「あの!」
「おおっと、それ以上は言うなよ。これでも一応デケェ組織のトップだ。こういうのはマズイ。だが、一人のおっさんでもある。困った嬢ちゃんを助けてもおかしくはねぇだろ」
リンフィアはそれ以上何も言わずに、お辞儀だけをした。
ダグラスは頭を掻きながらそれを和かに見ていた。
「………」
マイは複雑な表情でそれを見ていた。
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「いい人ですね。ギルドマスターさん」
「ああ、いいおっさんだ」
リンフィアはチェーンのついたプレートを身につける。
「とりあえず、クエスト受けるにしても明日からだ。今日はもう、宿に戻るぞ」
「はい!」
俺たちはギルドを後にし、宿へと戻る。
そして、その帰りに妙な奴を見つけた。
「ん?」
「どうかしました?」
「ああ、いや、何でもねぇ」
俺はそいつをなんとなく目で追った。
全身真っ黒の鎧の冒険者。
直感だが、こいつは多分、人間ではない。
「………関わると面倒だな」
俺は少し歩く速度を上げて、宿へ向かった。
だが気になるので少し振り返る。
「何処だ………」
俺が見た鎧の冒険者は何かを探している。
全身真っ黒な鎧。
冒険者は頭に被っていた兜を取った。
その下は———女だった。
「真っ黒な鎧の女か………なるほど、あれが《女王》か」
後ろ姿しか見えなかったが、その強さは伝わってくる。
「もう、さっきからどうしたんですか?」
リンフィアが俺の裾を引っ張って尋ねてくる。
「ああ、もう大丈夫」
「あ! やっぱり何かあったんですね!」
「げ、失敗った」
リンフィアの相手をしている途中、もう一度振り返ると、女王は既に消えていた。
「………いでっ!」
耳たぶをぐいっと引っ張られる。
「人の話を聞くときはよそ見しちゃあダメなんですよ!」
その後もリンフィアの説教を聞きながら宿へと帰った。
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ギルドについて、少し整理をしよう。
「いいかよく聞けよ。まずギルドってのは何なのか分かってるか?」
「うーん、わかりません」
「マジかお前」
リンフィアは分からずにやってみたいと言っていたらしい。
こいつはどういうモチベーションで動いているのだろう。
「わかんねぇのかよ………ギルドってのはな、簡単に言うと、民間人や国からの依頼を受ける組織だ。その受けた依頼を達成するのが冒険者の仕事だ。ギルドはその謝礼で発生した金で儲けてるんだ」
かなり簡単に言ったが大体こんなものだろう。
「へぇ、そうなんですか」
「俺たちは旅に必要な金を得るために冒険者になった。そこでまず、邪魔になるのは、このランクだ」
「プレートに“Gランク”って書いているあれですか?」
「そうだ。冒険者はそのランクにあった仕事を受けるんだ。実力では不可能な難しい仕事をしても失敗するだろ? 逆に簡単な仕事をしてもダメだ。冒険者は一定の期間に数回は自分のランクのクエストを受けるよう義務付けられている」
これは低ランクの冒険者のための制度だと思う
高ランクの冒険者が楽ばっかりしていたら、低ランクの冒険者がクエストを受注できなくなる。
それを防ぐためのものだ。
「お金を稼ぐためにはランクを上げる必要があるんですね」
「ああ、そこで心配なのは、お前だ、リフィ」
「私ですか?」
「ランクアップには試験を受けなきゃだめなんだ。今のままじゃランクアップはちょっとキツイ」
今のリンフィアの強さは大体Gランク上位程度だ。Fランクはギリギリいけるかもしれないが、それ以上は、まあ歯が立たないだろう。
「だから、当面は金を稼ぐのと、お前の訓練に専念する。だから明日受けるクエストは、」
「モンスター討伐ですね」
俺はニヤリと笑った。
「わかってんじゃねーか。そうだ、忙しくなるぞ。リフィ」
「はい!」