第334話
「ニールだ。最終部隊の隊員に組み込まれた学院生だが、見ての通り仕事がない。この隊に入れてくれないだろうか?」
ニールは隊長にそう尋ねた。
隊長は快く了承した。
ここの隊長は話のわかる人物だ。
他の部隊は知らないが、少なくともこの部隊では、隊長とは慕われてるような存在である。
「よろしく頼む、ニール。お前はおそらく私より強いだろう。だが、指示を出す際は可能な限り従ってもらえると助かる」
「安心されよ。私は初めからそのつもりだ。でなければわざわざ尋ねはしない。隊長殿、こちらこそよろしく頼む」
と、正式に加わった。
さて、なぜニールがここにいるのかと言うと、
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「ケンめ………自分ばかりしたい事をして………ふん! 私も自分がしたい事をさせてもらうからな!」
ニールのしたい事。
それはもちろん、リンフィアの護衛だ。
しかし、頭が悪いせいで地図が読めず、リンフィアの位置が全然分からなかった。
「………聞いて回るか」
すると、
「やや! 新入りちゃんかい? やっほー! アリアちゃん参上だぜ! 覚えてるかなー?」
変なポーズをとって現れたアリア。
キュピーンという効果音でもつきそうな決めポーズだ。
ニールはもちろん覚えている。
ここまでキャラの濃い奴も珍しい。
カオスな登場に面を食らったようだ。
イタイ。
凄くイタイ。
参上というより惨状である。
「………覚えてるぞ。で、なにか用か?」
「ほほー? リアクションは薄めかぁ。ま、いいや。何かお困りかとお見受けしちゃうけど、そこんとこはどうかな?」
ぶっちゃけ、ニールは相談する気は無かった。
絶対知らないだろうと確信めいた事を思っているニールである。
それでも、リンフィアの事なので手を抜けないニールはダメ元で尋ねてみた。
「リンフィアさ………殿がどこにいるか知ってるか?」
様と言うと面倒なことになりそうなので人前では呼び方を変えているのだ。
アリアは顎に手を当てて考えるポーズをしている。
ダメそうだな、とニールは諦めた。
しかし、 意外な事もあるものだ。
「あの先の道をまっすぐだね」
「そうか、すまな………ん!? え、わっ、わかるのか!?」
「えっへん! 何を隠そうこのアリアちゃんは総合科の総指揮に所属してるのだ! リンフィアちゃんは確かあの辺の班に所属してるっぽいから、20分後にあの辺の大路地を通るっぽいよ」
ほー、と感心するような声をあげるニール。
「お前、ケンみたいに頭がいいんだな」
「うん? 別の新入り君? へー? 本当にあの子頭いいんだ………やっぱ見えないね!!」
ナチュラルに失礼である。
が、それに同意するようにしみじみと頷くニールだ。
「本当にな。あのチンピラは見かけによらず頭がいいんだ。この前も、こんな分厚い法典をパラパラとめくっただけで暗記していたんだよ。それに、この前戦略シミュレーションで勝負をしたが、めちゃくちゃ手加減された挙句にボロボロにされてしまった。他はともかく戦闘に関しては頭が回る方だと自負していたんだがな」
アリアが目をパチパチさせて話を聞いていた。
「ん? なんだ?」
「いやぁ、楽しそうに話すもんですなぁ。アリアちゃんそういうの好きだぜ!」
親指を立ててそう言った。
「はぁ、まぁよく分からんが」
ニールはキョトンとしている。
アリアがこれはこれは………と言っているのでさらに訳がわからんと言った顔をしていた。
「ニールちゃん、これから苦労するよ? まったく、アリアちゃんは心配だよ」
「ますます何を言ってるのか分からん………む、余計な時間を食ってしまった。そろそろ向かうか。アリア、どちら側から来るかわかるか?」
「んーとねー、あっち」
アリアはリンフィアが来る方角を指差した。
ニールは神経を集中させ、気配を察知する。
すると、
グオオオオオオオッッッ!!!
「「!?」」
妙な気配を感じたニールとアリアは一斉に気配のした方角を見た。
そこには、ドラゴンに乗った盗賊たちの集団が本部に向かっている様子が見て取れた。
「本部に向かう気!?」
アリアの表情には焦燥が浮かんでいる。
確かに、これは緊急事態だ。
「急いだ方が良さそうだな!」
ニールはダッシュでリンフィアの方角へ向かった。
一刻も早く向かわなければ。
今主人の元にはケンはいない。
任せられる人がいない以上、自分が守るしかないのだ。
「あっ! ニールちゃんは大騎士長直属じゃないの!?」
「そんなことより優先すべき任務があるのだ!!」
ニールはそれだけ言うと、森の奥へ向かって全力で駆けて行った。




