第333話
「どうやら慌ただしいのは空ばかりじゃないらしいな」
隊長は武器を構えて部下にそう言った。
「はい、どうやら一帯の盗賊が総動員しているようであります。ここで一網打尽にすれば来年からはかなり減るものかと思われます」
「そうだな。では、連中をなぎ倒さねばな」
隊長は鋭い目つきで前を見据えた。
敵だ。
隊長達の前には、20人ほどの盗賊が立ちはだかっている。
「騎士団どもだ!! 全員ぶっ殺せ!! ガキは捕らえて人質にしろ!!」
「「ウオォォオオオオオオッッッ!!!!!」」
盗賊たちは無造作に突っ込んでくる。
やはり盗賊らしい戦い方だ。
しかし、連中は地の利を活かして変則的な戦闘を行う。
騎士団も決して油断は出来ない。
彼らはあくまでも魔法騎士だ。
接近されれば盗賊が有利。
しかし、遠距離戦なら騎士団が有利となる。
「土魔法で防壁を作りつつ、距離をとって攻撃しろ。近付かせたら終わりと思え!!」
「はッッ!!」
土魔法で防壁を立て、接近戦が出来る騎士が足止め、残るは後方から援護射撃をする。
しかし、盗賊達は木や茂みを利用してなかなか攻撃が当たらない。
「【フレイムアロー】!!」
「隠れろ!!」
援護射撃が入った瞬間、横に移動して木で身を隠す。
「木に隠れながら進め!! 攻撃が出た直後ならその方角でならある程度隙間がある!!」
反対側に出るのは禁物だ。
そちらには魔法の準備が完了した騎士が狙っている。
打ってすぐなら正面から狙われる事はあまりないし、横からでも木が防いで攻撃を減らせる。
隊長の言う通り、盗賊達はうまく地の利を活かしているようだ。
「っと………へへ、動きやす、っぐ、ァアア!?」
盗賊の方から血が飛び散った。
攻撃を受けた盗賊は正面を睨む。
「連射ができないと思ったら大間違いです。大人しくして下さい」
2丁の銃を構えたリンフィアが盗賊にそう告げる。
「くっ………あの女だ!! あの女を真っ先に殺せェェェェェ!!!!」
周辺の盗賊もリンフィアの銃を見て一瞬で標的をリンフィアに変更した。
そして、全員で一斉にリンフィアを狙って魔法や飛び道具を放つ。
「連中め………! 後衛は魔法を撃ち落とせ!! 前衛はそのまま無防備になった盗賊を1人でも多く討ち取るんだ!! ボサッとするな!!」
騎士団はリンフィアの頭上に降る魔法を撃ち落とした。
しかし、それでも全て撃ち落とすことはなく、数発はそのまま突っ込んでくる。
「………!」
だが、リンフィアはそちらへ走っていった。
「!? リンフィア何をしている!! 戻れ!! 」
隊長の声にも従わず、そのまま直行する。
死にたいのか? と隊長は思った。
いや、違う。
隊長は直後にそう考えを改めた。
手に持っている銃。
攻撃する気満々だ。
だが、あれでは防げない。
その時だった。
「——————ニールッッ!!!」
「参ります——————ッッ!!」
突如、ものすごいスピードで木の上からリンフィアの下まで降下してきたニール。
ニールはリンフィアの頭上の魔法の悉くを斬り裂いた。
「そのまま前の盗賊を制圧します!」
「お任せを!!」
ニールは防壁も構わず壊しながら盗賊達の目の前まで迫る。
あまりのスピードで一瞬硬直した盗賊達は、気がつくと、
「あ、れ………?」
床に倒されていた。
「く………怯むんじゃねぇえ!!! 囲んじまえばこいつも………」
ヒュンッッ!!!
「ぐぁああッッッ!!!?」
指示を出すために目線をそらした盗賊の足に銃弾が入った。
盗賊は膝を地面について足を抑えている。
リンフィアは速攻で球をリロードし、盗賊たちを牽制、狙撃していく。
ニールが最短で“頭”を狙えるよう援護をしているのだ。
そのおかげで、ニールは一切煩わされることなくここまでたどり着いた。
「お前が長だな」
「このクソアマァ………」
ニールはニヤリと笑って挑発した。
最近兜を付けずに戦っているニールはこう言った挑発をするようになってきた。
「女2人に壊滅されるとは、情け無いな。それでも盗賊か? ハッ………………出直してこいッッ!!!」
ニールは一気に距離を詰める。
両横から盗賊が襲ってきた。
「甘い」
飛んで回避し、盗賊の背後に着地後、左の盗賊を斬りつけ、そのまま軸足を回転させて向きを変えた瞬間、飛んで逆側の2人を一気に斬った。
「む………」
ニールの背後から敵が接近する。
しかしニールは無造作に立ち上がり、 動こうとはしない。
なぜなら、
「お願いします、リンフィア様」
「はい! そのつもりですッ!!」
飛び出したリンフィアが後ろから射撃。
奥にいた盗賊を制圧した。
そして、
「挟み撃ちだ。降伏なら今のうちにしておけ………まぁ、無駄だと思うがな」
「この………全員やっちま、ぅぇ、ぁ?」
ニールはくるっと振り返った。
少しだけため息をつく。
盗賊達は、暗示をかけられている。
敗北者は死ぬと言う暗示だ。
だから、盗賊達は、全員糸が切れた人形のように動かなくなった。




