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第331話



 俺たちは少しの休憩を終え、出発の準備を整えた。

 もういつでも出られる。


 「さて、じゃあ行くか。ルクス、失敗は許されない、なんてことを言うつもりは毛頭ねーが、出来るだけ()()を持ち帰ってこい」


 「ああ、そのつもりだ。元から連中に渡さないためにここへ来たからね。対竜種の実験を軽くして行こうと思ったが、こんな事になるとは予想もしていなかった………」


 僅かな後悔の念が見て取れる。

 女に目がない碌でなしと思ってはいるのだが、それなりに人並みの感傷はあるようだ。


 「それと、アンタが先程言っていたドラゴンを間近で操っている奴の話だが………」


 「何だ?」


 「さっき俺が話した“ユノ”と言う男ではない、ここの本当の担当者がいるはずだ。俺と彼は命令違反をしているからね。ここが本当の持ち場じゃない」


 先程聞いた話だ。

 つまり、異世界人はまだあと1人いる。


 「彼女はなるべく生かしておいてくれ」


 「女だからか」


 「女だからでしょうね」


 何だかんだノリのいいミレアである。


 「………穢らわしい」


 「ねぇ、会長。一度裏切ったとはいえ、一応俺はまだこの学院の生徒なんだけれど?」


 「ケン君はその方をどう対処しますか?」


 ミレアは華麗に無視を決め込んだ。

 美しいまでのスルーである。


 「まぁ、生かすか殺すかはそいつ次第だ」


 俺は誰かに危害を加える時、同郷だとか男だとか女だとかは考えていない。

 例え相手が誰であろうと、消さねばならないようなクズだったら俺は一切躊躇なく消すつもりだ。


 「そいつがただ盗んだとか、間接的に殺人を手伝わされた、とかだったら殺さん。だが、そいつが悪意を持って誰かを殺したのだったら………俺はそいつを苦しめて殺す」



 「………………!!」



 流は何だかんだ納得いっていない。

 だが、それは一般的な日本人の考え方だ。


 法治国家たる日本で殺人はご法度だ。

 抑止が抑止たり得る故に、あの国は平和なのだ。

 1人だろうが、100人だろうが、国家には逆らえない。

 大規模のテロが起きてもすぐに収める力は持っている。

 何だかんだあの世界は統制が取れているのだ。



 だがこの国は、この世界はそうはなっていない。

 凄まじい力をもつ個人がゴロゴロ存在するこの世界では、抑止は抑止として機能しない。

 三帝などいい例だろう。

 手に負えないから反乱を起こさせないように特別な地位と力を与える。


 国は抑止にならない。

 よって盗賊が生まれてしまう。

 だから、被害が出る。



 「人殺しの命とそうでない奴の命がどっちが大事か。わかるだろ? この国の無能な法じゃ殺しは止められねーよ。だから、誰かが誅を下す必要がある」


 「………そうか。わかった。アンタの言う通り、一線を超えていたら彼女を殺してくれ。はぁ………やれやれ。勿体ない事をする」


 「精々お前の同級生がまともである事を祈ってろ」


 俺は穴の出口へ向かう。

 飛び降りてすぐいるわけではないだろうが、おそらくほとんどすぐ下にいるだろう。

 

 ………………!!!



 「む………」


 何やら上が騒がしい。

 という事は、連中が動き始めたな。


 「………………()()()()()()()()()()ためにもそろそろ行くか………行くぞ、ミレア」


 「出発しますか?」


 「ああ」


 俺はくるっと後ろを向いて、最後に一言、流にこう告げた。


 「白鳥に気をつけろ。あいつはおそらく敵だ」


 「!?」



 余計な情報はかえって混乱を招く。

 奴も俺の言ったことは疑わないだろう。


 俺は再び振り返って、地下へ飛び込んだ。















———————————————————————————















 「もう、夕方ですか」


 

 ここへ来て、それなりに時間は経った。

 日が傾いて、夕焼け空が見えてきた。


 リンフィアは依然パトロールを続けている。


 「夜は特に注意を払え。盗賊たちの動きも活発になるだろう。奇襲されないよう、今以上に警戒しろ」


 隊長はリンフィア達学院生と部下に注意を促す。

 先程の一戦以来、どうも敵の姿は見受けられない。

 だが、油断は禁物だ。

 命に関わる。


 「リンフィアちゃん、顔、怖い、なってる」


 コロネが心配そうにそう言った。

 確かに、表情が険しくなっている。


 「え?………あっ! ごっ、ごめんなさい。警戒に集中してました」


 顔に手を当て、グリグリと顔をこねまわすリンフィア。

 しかし、ピタッと止まって、動かなくなった。


 ふとなにか思ったカプラがリンフィアに声をかける

 


 「気負うなよ、リンフィア。1人でも多く盗賊を捕まえたいなら、リラックスが大事。私みたいに………」


 「しっ、静かに………」


 リンフィアは人差し指を出してカプラの目の前に出した。

 よくわかっていないが、とりあえずピタッと動きを止めるカプラ。

 停止は得意だ。


 「………やっぱり、魔力を感じます。たくさん………あの山の奥からです!」

 


 「「!!」」



 リンフィア達は、気配のする方向を固唾を飲んで見ていた。

 そして、竜達の咆哮が鱗の泉に鳴り響いた。

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