第325話
轟音。
そして、地鳴りが鳴るとともに、上から岩が次々に降ってきた。
ミレアも、おそらく近くにいたルクスも驚いていただろう。
だが、一番驚いているのは、この盗賊だ。
「ど、ドラゴンがいねぇ!? 一体どこに」
「後ろ向いてみろよ」
盗賊は恐る恐る後ろを振り向いた。
盗賊が目にしたのは、壁に叩きつけられ、腹に風穴が空いて、魔石に変わっていくドラゴン3体だった。
「おい………おいおいおいおいおいおい!!! なんだよこれはァアア!!!?」
自分の最大戦力が一瞬にして消え去った事が受け止めきれないでいるらしい。
盗賊は崩れ落ちて四つん這いになった。
「あ、悪夢だ………!! ドラゴン、ドラゴンだぞッッ!!! っぁ………………!!」
盗賊は、背後から自分を覆うように現れた人間の影を見て息を呑んだ。
俺は、冷めきった声で盗賊にこう告げる、
「そのまま、俺の質問に答えろ」
ゾッッッ………!
「っっっっ………………!!」
盗賊は全身に冷たい汗をかいた。
暑くもなんともないのに、滝のように汗が流れ出てくる。
「は、はひ………ぇ」
「さっきテメェ、“村人みたいに” って言っていたよな?」
盗賊はガクガクと震えるだけで何も動こうとしない。
しばらく経ってもそのままだったので、俺は、
ザクッッ!!
「ぎッッッッァアアアア!!!!」
盗賊の手を斬り刻んだ。
神経を完全に壊して感覚が無くなるといけないので、絶妙に残しつつ、最も激痛を感じるように砕いた。
「ぅうっ、ふーーーっ!! ふーーーっっ!!!」
「痛いか?」
「ヒィッっ!!!」
「返事をしろってのがまだ分かんねぇのか………………この低脳がァア!!!」
俺は髪の毛を引っ張りあげた。
真上から恐怖に引き攣った顔がよく見える。
「返事しろよ?」
「はっっ、はいぃぃぃ!!!! 言いました!!!」
思わず髪を掴む力が強まった。
まだだ。
主犯じゃないかもしれない。
もっと抑えるんだ。
「お前、人を殺したか?」
「ぇ………ひと………」
「殺したのか?」
「お、おお、俺は………………」
盗賊は嘘をつこうとしている。
殺したと言えば殺されるのは明白。
しかし、盗賊はそうしないだろう。
そう出来ないように、俺はこのクズを追い詰めているのだ。
「………………………た」
「ァア?」
盗賊はバッと顔を上げ、血走った目で叫び始めた。
「こっ、殺した! ぶっ殺してやったぜェェェェェ!! そうさ! 俺はこの前からずっと殺している!! 一番傑作だったのはあのぶっ壊れたガキだ!! 母親と妹が死んだ事を受け入れられずにウロウロ馬鹿みてぇに助けて助けてと騒ぎまくってやんの!! 一度俺も行ってみたが、俺が殺したなんて気付かずに助けてって言ってきたときはもう我慢できなかったなァ!!」
「————————————」
「………なんて酷い事を………………!!」
追い詰められた盗賊は訳もわからず全てぶちまけた。
もはや自分でも何を言っているかもわからないだろう。
だが、これではっきりした。
「だから盗賊やってんだよォオ! ありゃもう病みつきだ!! あは、ははは、ぎゃははははははは——————ぁあろ?」
ズブリ
俺の持っていた剣が盗賊の喉を貫いた。
一瞬にして、狂気の表情が絶望へと染まっていく。
「ゴボッッ」
「もういい」
俺は剣を引き抜く。
「ゴ、ぱ………っ!」
「お前は、保って後1分」
さっきまで抑えていた殺意が弾け飛び、外に溢れ出た。
こいつは、苦しんで死ぬべきだ。
安息など与えない。
苦痛の底に沈めて、死にたくないと心の底で思った時にじっくりと恐怖を抱かせて殺す。
が、
「………だが、」
俺は地面にポーションを置いた。
「もういい。さっさと失せろ。このウジ虫が」
俺は振り返った。
すると、すぐ様盗賊がそのポーションを拾って一気に飲み干した。
まぁ、簡単に逃がすわけがないよな………?
「………なんて言うと思ったか?」
「か、っっ………こひゅ………………ひゅーっ!!」
これはポーションなんかじゃない。
これはこの前授業で使ったマンドラゴラを使った特殊な薬だ。
感覚を倍にする薬。
あらゆる感覚が鋭く成り、光はより眩しく、音はよりうるさくそして、痛みはより苦しくなっていく。
「ポーションなら儲けもん。毒だったら毒だったですぐ死ねるからいいとでも思ったか? はは、図星か。そんな都合のいい話があると思ってんのか? あ? テメェにはもう死以外は待っていないんだぜ?」
これから自らの起きる出来事を思い浮かべた盗賊は完全に絶望に染まった。
「テメェに命乞いをしたやつがこれまで何人いた? それをテメェは何人殺した? 死ぬべき人間なんて居ない何つー言葉があるが、俺はそうは思わん。お前が駆除すべき害虫だ。苦しむべきゴミクズだ。お前が今まで奪って来た人たちに許しを乞いながら、せいぜいお前の寿命の1分間を過ごせ」
俺はまず、剣を振りかざした。
そして、
「地獄に落ちろ。クズ虫が」




