第324話
突如として背後から感じた気配。
何もなかったはずの場所から突然現れたのだ。
「馬鹿な——————!」
ミレアは手を振り下ろそうとしている。
鉄球は盗賊へと向かっていた。
だが、背後のそれは決して無視できるものでは無い。
すぐに軌道を変えようとした瞬間、それは声を発した。
「油断したな——————会長」
「!」
若い男の声。
ミレアのすぐ後ろからだった。
ミレアは全生徒の名前を覚えている。
第一も第二も全てだ。
顔や声は完全に一致している。
だから、この声の主をミレアは知っているのだ。
それは即ち、声の主が生徒であることを指す。
その声の主は、
「ルクス・フェルディア——————!」
「覚えてもらって光栄だね」
ズパンッッ!!
ナイフを持った腕が宙に浮かんでいる。
ルクスはそれを呆然と見ていた。
切られた腕から血が滴る。
ルクスは斬られたことをまだ自覚していない。
俺は更に、空中でその腕を細切れにした。
腕が細切れになった直後、血液が外に溢れ出した。
それを浴びたルクスは、ようやく腕を斬られた事を自覚し、 激痛に悶えだした。
「ぎィッッ——————いァアアァァアアアアッッッア!!!! 腕がァッッ!!!」
ルクスは腕を斬った元凶の俺を睨みつけながら後ろに下がった。
「ヒジリ………………ケン!!」
さっきのを見て確信した。
あれは固有スキル。
つまり、こいつは“迷子”ではない。
という事は、
「テメェ、どこの国に転移した?」
「な………!?」
向こうから来たという事を看破されてひどく焦っている。
なんらかの理由から隠しているのは確実だ。
そうじゃなきゃ偽名を使うことも髪の色をごまかす事もない。
さて、捕まえて万が一爆破されれば聞けなくなる。
念のため………
「天崎 命は元気か?」
カマかけてみる事にした。
「!? なんでその名前——————!!」
はいビンゴ。
大当たりだ。
「気がついたかよ間抜け」
こいつは元日本人。
特殊な訓練を専門に受けていたならまだしも、普通の学生なら、いくらでも隙がつける。
まぁ、こいつは少し間抜けすぎるがな。
「馬鹿な野郎だ。この程度の引っ掛けにかかる程度か。張り合いのねぇ無能だぜ、テメェはよ」
「くッッ………そがァアアアアア!!!!!」
すると突如、ルクスは姿を消した。
「消えた!?」
ミレアは辺りを見渡す。
しかし、どこにも見当たらない。
魔力も感じない。
不可思議な現象に困惑していた。
それも当然だ。
これはミレアが全く認知していない力なのだ。
これは固有スキル。
前回は鎖をつけていたので鑑定はしなかったが、今回は鎖をつけていた方の手を斬った事で正確な鑑定ができた。
固有スキル【一色】
姿を消すスキルだが、人間、もしくは動物と一定距離まで接近した場合能力が解除される。
一切気配を感じ取れなかったのは、消えている間に発している音や魔力などが遮断されるからだ。
かなり強力な能力。
スパイにはもってこいだ。
まるで元々そこにいたかのように、同じ色の絵の具を上塗りして一切違和感を感じないように紛れ込む能力。
涼子のと同系統のスキルだ。
「!!」
目の前に突然ナイフが飛び出してくる。
俺は咄嗟に掴み取った。
持ち物まで消えるのか。
いや、違う。
さっきミレアの近くに現れた距離よりは遠い。
つまり、手放したものは消えないようだな。
「グオオオオオオオッッ!!!!」
ドラゴンが雄叫びをあげた。
「!」
どうやらさっきの盗賊が復活したらしい。
考えてみればミレアの攻撃はルクスのせいで逸れていた。
その隙にドラゴンの方へ向かったという訳だ。
「さっきはよくもやってくれたなくそ女ァアア!! もう許さねぇえええええ!!! テメェはぐちゃぐちゃにぶっ殺してやる!!」
操る数を減らして、より精密に操れるようになっている。
3体のドラゴンがミレアに向かって行った。
完全に油断していたミレアは隙だらけになっている。
そのせいで完全に反応が遅れていた。
「チッ………めんどくせェ」
とりあえず寝かしておこうと思っていた。
だが、奴が次にはなった言葉で、俺の気が完全に変わる事になった。
「殺す殺す殺す殺すゥゥゥゥウウウ!!! テメェはボロボロになるまで遊んだ後にそこら辺の村人どもみテェにみぶっ殺すぜェェェェェ!!!!」
「………………………!!!!!!!」
ドラゴンはミレアのすぐ側まで来ていた。
もう間に合わない、ミレアはそう思って、咄嗟に防御態勢を取った。
「死ねェェェェェッッ!!!!」
だが、その必要はなかった。
こいつか。
こいつがやったんだな。
あのガキが泣いてるのも、あの親父が絶望しているのも、すべて、ここにいるクズのせいか。
次の瞬間、ドラゴン達はミレアの前から姿を消した。




