第323話
先手必勝。
実にミレアの武器の特異性を生かした戦い方だ。
相手が武器を理解する前に次から次へと攻撃をする。
「ハァッ!!」
鉄球をドラゴン達に飛ばす。
狭い洞窟では、避ける場所がないドラゴンが不利だ。
「避けろォ!」
盗賊は指輪をかざして、命令を与える。
だが、盗賊には致命的なミスがあった。
「へっへ………はぁ!?」
鉄球はギュンッと直角に曲がってドラゴン達を追った。
そして、
「グギッ!?」
一体が洞窟の狭さのせいで十分に動けず、鉄球をまともに喰らったのだ。
ミレアは鉄球を全てぶつけたので、相当なダメージになっている。
「セァアアッッ!!」
怯んだ鉄球がドラゴンの口の中に入る。
「何ィ!?」
盗賊は未知の武器に手こずっている。
ミレアは早速その隙をついたのだ。
「フッ………ッッ!!!」
魔力を込め、強い電撃を流す。
内部の鉄球と繋がって、電撃が内側からドラゴンに伝わった。
そして、
「………ゴ、………ガ………ッ」
黒焦げになったドラゴンが墜落すると同時に魔石に変わった。
早速一体だ。
なかなか見ない種類の武器に、盗賊が戸惑ったお陰ですぐに一体倒せたのは大きい。
「不意打ちの効果は大きい………少なくとも後2体は………!」
ミレアは、鉄球を操って一気に飛ばす。
しかし、
「ゴァァアアアアッッッ!!!」
ドラゴンは壁を崩して鉄球の妨害をした。
更に、自分たちの可動範囲を広げている。
10体いればパンパンだったが、もともとそこまで巨大なドラゴンではないし、空洞内は高さもあるので、横にさえ広げられればそこまで不利でもない。
だが、この程度ではミレアは止まらない。
ビュンッッ!! とドラゴン達のいる場所に、塊が飛ぶ。
一つに固まった鉄球がドラゴンの腹部に直撃。
しかし、やはりドラゴン。
その強靭な肉体は、鉄球を耐えきった。
盗賊はニヤリとほくそ笑み、ミレアにドラゴンを突っ込ませようとした。
一方ミレアも、まだ終わらないと言った表情をしている。
そして、
「挟み込めッ!!」
鉄球間で電撃が発生する。
電気の線はドラゴンの体を蝕んだ。
「グギャアアアアアア!!!!!」
ミレアの雷魔法はかなり強力だ。
確実にダメージを与えている。
(このまま………………ッ、来た!)
2体目を仕留めようとした瞬間、他のドラゴンがミレア自身に接近していた。
しかし、このまま逃すのも惜しい。
「………」
やはり、ラビのダガーと同じ様な武器か。
だったら、
「ステッキを握ったまま磁力で向こうに飛んでみろ」
「! なるほど………っ!」
ミレアはマグネティクスで自分の体の方を鉄球へと引き寄せた。
凄まじいスピードだ。
やはりラビとは比較にならない。
(そろそろ………………今!)
勢いが十分についたところで一旦魔法具を解除する。
そして、手に雷二級魔法【ライトニング】を纏わせる。
「ッッァアアッッ!!!」
手に纏った稲妻がドラゴンに突き刺さり、ミレアがそれを振り上げると、ドラゴンの体の中央に亀裂が入る。
「グルルルァアアアアッッッ!!!」
タイミングを狙った様にドラゴンが突っ込んでくる。
今度は反発を利用して、瞬時に攻撃をかわし、再び磁力で突っ込む、といきたいところだったが、先程攻撃したドラゴンが魔石に変わり、鉄球は宙ぶらりんになっている。
「!」
「馬鹿が! 空中でそんな隙見せやがって!」
盗賊自ら乗っているドラゴンで、ミレアに突っ込んできた。
対竜種は、操っているドラゴンとの距離が近いほどより精密な動きが可能になり、本来のドラゴンの力を引き出せる。
盗賊は猛スピードでミレアに突っ込んだ。
しかし、これを読んでいたから、ミレアは鉄球の魔力を消していたのだ。
「やはり、突っ込んできましたか」
ミレアは、地面にめり込んだ鉄球にステッキで魔力を送る。
ミレアはすぐさま地面に引き寄せられ、床に着地した。
「この女ァ………………!」
「即刻前を向いた方が良いと思います………と言っても、間に合わないでしょうが」
盗賊は屋内だということを忘れている様子だ。
あんなスピードで突っ込めば間違いなく、
「ゲッ!?」
壁に衝突する。
衝撃で瓦礫が次々に降ってきてドラゴンを生き埋めにした。
「………なるほどな」
考えたものだと思う。
確かに10体全てを倒す必要はない。
ドラゴンを操っている本体さえ倒せば、ドラゴン達は一時的に動かなくなり、その間に外に出られる。
ミレアはステッキを振り上げる。
そして、盗賊が現れるのを待った。
「………」
少し遅いな。
間違いなくあそこにはいるんだ。
なぜ出てこない?
と、思っていると、
「おおおおおおおお!!!!」
大声をあげながら盗賊が外に出てきた。
ミレアは鉄球を思いっきり振り下ろした。
「出た! 今——————」
その直後、背後から何者かの気配を感じた。
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「報告します!」
スカルバードの元に、一人の騎士が現れた。
急いでいる様子だ。
緊急事態だとすぐにわかった。
「どうした?」
「先程まで尾行していた学院生、ルクスを………み、見失ってしまいました!」
「なんだと………?」
スカルバードはケンからルクスの尾行を頼まれていたのだ。
その理由としては、ルクスが、今回の件の中心にいる可能性があると思われたからである。
一通りの説明を聞いたスカルバードは、すぐに追跡部隊を編成し、尾行に当たらせていた。
決して、簡単に撒ける様な者は選んでいなかった。
だが、逃げられた。
即ちそれは、尾行がバレたことを意味する。
「すぐに探索を急がせろ。なんとしてでも見つけ出せ!」
「ハッ!」
不吉な予感が、スカルバードの頭をよぎった。




