第322話
「………ん? こいつは………」
床に落ちていた“何か”を拾う。
これは破片だ。
金属の細い破片。
曲線を描いている。
「元は円形………なんだ? 魔力反応もある。魔法具か?」
なんでもないガラクタのするにはもったいないかも知れない。
魔法具なら、もしかするとこの連中を殺した殺し屋の手がかりになるかもしれない。
俺は周辺を隈なく探して、拾える破片を全て拾った。
そこまで細かく砕けてはいなかったので、なんとか原型がわかった。
「指輪か………指輪系統の魔法具………石をはめ込んでいた様だが、それは抜き取られているな」
指輪型魔法具は、プロングと呼ばれるリングから飛び出ている部分に付いているセンターストーン代わりに魔法具の本体である物質がくっついている。
今回はその本体が取り除かれているのだ。
「わざわざ抜いてるんだ。何かあるはずだ」
「どうかしましたか?」
ミレアが話しかけてきた。
「ああ、頼みがあるんだが………いや、流石にこれは気がひけるな。やっぱりいい」
「何ですか? モヤモヤするのではっきりと言ってください。ここまで来たんですから、手伝いくらい………」
「誰だテメェらァア!!」
上空から声が聞こえた。
上空には、ドラゴンが入れる横穴がある。
そこを進んだところに、下に長く伸びた縦穴がある。
その縦穴から横に穴を掘って無理やり作ったのがこのアジトだ。
普段は土魔法で閉じている。
ここが突き止められていない理由は、おそらくここらへんにドラゴンの巣があったからだろう。
巣という事は、ドラゴンを飼うのにはおあつらえ向きのスペースだし、ドラゴンがいるという事は、人が近づくと事はない。
俺とミレアは声の聞こえた方を向いた。
そこには、ドラゴンに乗った盗賊がいる。
盗賊は一人。
ドラゴンは4匹ほどいる。
やはり、ドラゴンを操っていたようだ。
「帰ってきたようですね………」
「………………ああ」
盗賊はすでに勝ち誇ったような顔をしていた。
ドラゴン10体を操って天狗になっているらしい。
「おーおー、たった2人で入ってくるなんていい度胸してんな………って、なんだこりゃ!? 全員死んじまってんじゃねぇか………!」
盗賊は一瞬驚いたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「だったら、こいつらをやりゃ俺は幹部だよな? ゲッヘッヘ、そいつはいい!」
どうやら、この盗賊には仲間意識のようなものはないらしい。
と、すぐさま盗賊は視線をミレアに移した。
「………ん? おぉ!! ゲッヘッヘ、おいガキィ、その女置いて行ったら命だけは勘弁してやってもいいぜ? 俺が可愛がってやるからよぉ」
「っ………」
ミレアはカタカタと微かに震えている。
おそらく、こいつは男の視線が怖いのだ。
あの下心を持った目が嫌なのだろう。
「嫌だってんなら、逆らってもいいが、そうなったらテメェはぐちゃぐちゃになってこのドラゴンどもの胃袋の中だろうよ。それに女はどちらにしろ遊ばせてもらうぜ? ケッヘッヘッヘ!」
こいつは多分、過去になんらかのトラウマを抱えているせいで男が怖いのだ。
俺のことがいくらか平気な理由は、俺がそう言った感情もなく、こいつと進んで関わったからだろう。
あいつもあいつで、俺なら大丈夫だと思っていると思う。
俺は一歩前に出ようとした。
すると、ミレアが俺を制してこう言った。
「待って、ください………私がやります」
俺はじっとミレアを見ていた。
俺の視線に気がついたミレアは無言で任せろと訴えかけてくる。
「………………普通に戦えるか?」
「戦えば、問題はないです………!」
ミレアはアイテムボックスから魔法具を取り出す。
電気を流して鉄球を宙に浮かべた。
「あくまで逆らうつもりか? じゃあ、男は殺して女は痛めつけてやるよォ! ゲッヘッヘッヘ!!」
ミレアはスッと目を細めて敵を観察する。
(ドラゴン10体。盗賊は1人。ドラゴンの想定ランクはA以上………ですが、Sまではないでしょう。おそらく広範囲の中距離攻撃が主体………ですが、近距離はかなり危険ですね………だったら)
震えがそっと治った。
集中している。
「『その肉体は鋼となり、神速を得る。人の限界を越え天上に至らん【カルテットブースト】』」
「!」
赤いオーラがミレアを包む。
ドラゴン達は警戒を強め、距離をとった。
「よし………」
ミレアはその場から一気に離れる。
それを見た盗賊はミレアが飛び道具を放ってくる事を察した。
「飛び道具かァ? チッ、退がれ!」
「! あれは………」
俺は盗賊がやたらと指輪をつけている事に気がついた。
同じ指輪だ。
という事は………
「センターストーンは対竜種だったか………」
となると、今度は石の出所だ。
ほぼ間違いなくルクスは関わっている。
だがその前に、気がかりなことがあった。
ミレアは勝てるのか?
対モンスター戦の多数対一は経験がなければうまく立ち回れない。
よく考えてみれば、俺は対モンスター戦でのミレアの実力を知らない。
何れにせよすぐにわかる事だ。
こいつがどう立ち回るのか。
そして、勝つのか負けるのか。
「行きます………!」
ステッキを手に取り、鉄球を宙に浮かべた。
開戦だ。




