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第319話


 通りかかる場所に大きな街がある。

 とりあえずはそこに寄ることにした。


 「結構距離あるな………」


 今更だが、俺たちが鱗の泉と呼んでいる地域一帯は、結構な広さがある。

 いくつもの街が集まって、“鱗の泉”というわけだ。


 「やっぱ騎士団に守りに入らせて正解だったな」


 ここまで広いと、 俺も対処するのに一苦労だ。

 出来るなら効率よく且つ、確実に町民たちを守りたい。


 それにしても、こんな展開になるとはな。

 連中がただの盗人集団だったら多少懲らしめてあとは楽しく合宿するつもりだった。

 ここにはドラゴンもいるし、エルなんかも楽しめただろう。


 だが、人殺しは許容できん。

 少なくとも、俺の周りで意味もない殺し、我欲を満たすための殺しをする奴は、確実に消す。


 そろそろ、俺も腹をくくる頃だろう。

 無意識………いや、俺は分かっていて避けていたのだ。

 だが、こんな世界に来た以上、躊躇うのはもうやめだ。


 さて、早速洞窟に、


 「と、行きたいところだが」



 まずは、そこの茂みにいるやつからどうにかしとかないとな。


 「いい加減出てこい、ミレア」


 「………」


 草むらから現れるミレア。

 観念したようにため息をついて俺の前に出てきた。


 「やはり気がついていましたか」


 「ヘッタクソな尾行してんじゃねぇよ。尾行中は魔力を消すんじゃなくて紛らわすんだ。一箇所だけ穴が開いたみたいに魔力を感じなかったら違和感感じるだろうが」


 「なるほど、勉強になります」


 「んで、なんでついて来た」


 「命令違反ですよ。戻って下さい………って、言っても貴方は聞かないでしょうね」


 もちろん。

 何故俺が連中に従わにゃならんのだ。


 「ですので、私が貴方を見張ります」


 「男嫌いのお前がか? 二人っきりの状態で?」


 「う………それもそうですね。じゃあ、エルちゃんを出して下さい」


 どうやら、戻る気は無いらしい。

 無理矢理戻れって言うのももう面倒だ。


 「はぁ〜〜………………エル」


 「はいなのです!」


 すーっと俺の影からエルが現れた。

 そして安定のポジションに乗っかる。

 こいつ結構重いんだよなぁ。


 「ミレアに抱えられてやってくれ」


 「ミレアお姉ちゃんですか? わかったのです!」


 エルはミレアの方へふわふわと飛んでいった。

 空かさずハグをするミレア。

 おいおい、潰れるぞ。


 「まぁ、人手が必要になる可能性があったし、帰れとは言わねーよ。にしてもミレアかぁ………」


 「む?何ですか? 私では何か不満でも? もしや、足手纏いとでも仰りたいのですか?」


 「いんや、お前は間違いなく、ここにいる補助役の中じゃ最高クラスだ。魔法技術と身のこなし。特に身のこなしはトレーニングをサボってる他の生徒と比べればかなりいい。よく動けるなら一切問題ねー」


 「だったら何故ですか?」


 なぜ?

 今こいつ訊き返したのか?


 「いや普通に危ねー目に合わせたくねーからだろうが。わかるだろ普通。お前一応女なんだぜ?」


 「そっ、そうですか………」


 なんかモジモジしてる。


 こいつ、男に照れるという概念を持っていたのか?

 ちょっと驚愕だぜ。


 「お姉ちゃんポカポカしてるのです」


 「しっ、してません!」


 「何いっちょまえに照れてんだよ。ほれ、いくぞ」


 「てっ、照れていません!」











———————————————————————————












 「………酷ェな」


 「なんてこと………!」


 「街が半壊してるのです………」


 たどり着いた街は建物が半壊しており、人が暮らすには難しいことになっている。

 いよいよ騎士団を派遣して正解だった。



 「………………………クソが」


 

 思わず殺気を漏らす。

 だが、すぐに収めた。


 「なぁちびっ子、怪我人が集まってる場所わかるか?」


 「あ、ああ、それならあそこです………もしかして、お医者さんでしょうか?」


 「いや、医者じゃねーが、医療の心得はある。どうした?」


 俺がそういったとたん、目の前の男の子は俺に縋り付いてきた。


 「お、お願いです!! 僕の、僕のおかあさんと妹を助けてください!! 動かない、動かないんです! この前まであんな、元気だった………………おかあさんと妹が………………ああ、あ」


 少し混乱していた。

 男の子は必死に助けを求めている。


 「!!!」


 俺は男の子の肩をガシッと掴んだ。


 「おいガキ、落ち着け! 男だろ! 俺をお前のお袋さんと妹ンとこに連れて行け! 他の怪我人は後だ!」


 「………」


 男の子は涙を拭って頷いた。

 俺とミレアは男の子の案内で家まで向かう事にした。











———————————————————————————



 









 「なぁ、リンフィア。お前の今彼ってさ」


 「だから違いますって!」


 リンフィアはすぐさま否定した。

 カプラはニヤニヤと笑っている。

 普段は怠け者なのに、こういう話題に限ってよく喋るのだ。


 「で、あの子ってどんな奴なの? この前私らのクラスに来ていたろ?」


 「ケンくんですか………」


 「おやおや、今彼で認めるのかい?」


 「………ケンくんは」


 「とうとう無視しやがったね、この子」


 リンフィアは気にせずケンのことをカプラに伝えた。




 「ふーん。それを聞く限り、相当なお人好しだな」


 「ですね」


 「………」



 コロネは何故かその話を難しい顔で聞いていた。


 「どうしたコロネ? のろけ話に嫌気が差した?」


 「カプラちゃん? そろそろ怒りますよ?」



 コロネは重い口を開けた。



 「………その人、危ない」


 「ケンくんがですか?………負けるところは想像できないですけど………」


 コロネはブンブンと頭を振った。


 「そういう事、違う。私、言いたいのは、その人の心」


 「心?」


 カプラがそう訊き返すと、頷いた。


 そして、それを聞いたリンフィアがハッとする。


 「………確かに、ケンくんがあんな光景を………あんな悲しい光景を目にしたら………」



 リンフィアはケンの家族のことを少し聞いている。

 もし、自分と同じような子供を見つけて、そういった子供の悲しい光景を見たら、彼は一体何を思うだろう。

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