第318話
「終わらせましょう」
リンフィアはみんなの前でそういった。
「終わらせるって何を?」
答えは分かっている。
だが、カプラはあえてそれを尋ねた。
「この悲惨な状況をです。おそらく、このような状況になっているのはここだけじゃないです。だから、早く大元を探し出して捕まえないと、これ以上の被害が出るかもしれません」
ここにいる全員、同じことを思っている。
みな、早く捕まえたいのは山々なのだ。
しかし、しかしだ。
「それは無理だ」
「何故ですか!?」
「冷静になれリンフィア。我々の権限ではどうにもならん。たかが一部隊の意見など聞き受けられるわけがない」
「しかし!」
リンフィアは食い下がった。
かなり頭に血が上っている。
先ほどの子供の死が余程許せなかったのだろう。
「それに、それが出来るならそうしている。その方が解決が早いからな。だが、敵の盗賊は今までなんども尻尾を掴ませては我々から逃げ切った盗賊だ。一筋縄でいくわけがない」
そう、毎年騎士団がこの街にきているのは、何度も同じ盗賊団がここら一帯を荒らして回っているからだ。
つまり、捕まえられていない。
「それに、今回は少々勝手が違う。いつもは自爆などせず、我先に逃げていくような連中だ。今回の奴らからは、どこか狂気じみた何かを感じる。今回守りから入るのはその為だ」
「いつも、守りから、違う、です?」
コロネがそう尋ねると、小さく頷いた。
「いつもは要請があったらすぐにここまできて、村に数人置いてから後は手当たり次第斬っている。だが、今回はそれではマズイと大騎士長が判断されてな。攻めが中心と聞いていたが、今回に限って守りに入っているらしい」
「!」
リンフィアは脳裏によく知る男の影をよぎらせた。
ならば、自分はどうするべきか。
決まっている。
そういう方針なら従ったほうがいい。
それがおそらく最善なのだ。
「だからな………」
「すみませんでした。少し取り乱してしまっていました」
リンフィアはぺこりと頭を下げる。
「いや、気持ちはわからなくない。お前はああいうのが許せないのだろう。だが、我々とてそれは同じだ。一刻も早く鱗の泉一帯の守りを盤石のものにするため急ぐぞ」
「はい」
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「ケン、どうする? 暇になったが………」
ニールがそう尋ねてきた。
確かに暇だ。
それも数日間も。
しかし、俺にとっては必要な空白であった。
「頃合いだ。誰もいねーからとりあえずお前には言っておく」
「ん?」
「俺は今から目的の洞窟に向かう予定だ」
「!」
守りに徹してもらっている理由は、俺がそっちに手を割かなくても良くなるからだ。
たまには一人でのびのびと戦いたい………いや、本当はそんな理由じゃないな。
これからする事を誰にも見られたくないのだ。
特にリンフィアやニールには。
「だったら………」
「待て。お前は付いてくんな。頼みがあるんだ」
「頼み?」
俺はアイテムボックスから紙とペンを取り出す。
そして、 それを厳重に紐で縛った。
「ほい」
受け取ったニールはその紙をじっと見ているが、何なのか分かっていないようだ。
「これは?」
「お前は隠し事とか苦手そうだからな。リフィにも良く言われるだろ?」
ぎくりと体をビクつかせた。
言われてるのか。
「う………そこは言うな………で、何なんだこれは」
「これに、 お前に対する頼みが書いている」
ニールは思いっきり首を傾げていた。
「は? 全く………何を訳の分からん事を………今ここに私がいるんだから、直接言えばいいだろう。何故そんな面倒な事をするんだ」
「まー、色々だ」
それを言ったらこいつ怒るだろうな。
まぁ、十中八九気づかれるだろうが。
「指定した時間になったらそれを開け。そうすれば万が一もありえん」
「万が一?」
「ああ」
「………………………あ」
ようやく俺の意図を察したようだ。
紙を持つ手がプルプルと震えている。
「お前、こんな小細工用意するな!! 馬鹿にしてるのか!? 流石に失礼過ぎるぞ!!」
「馬鹿だから仕方ねぇだろうが!! テメェが頭悪りィのそろそろ気がつけ!! 馬鹿が!」
「おまっ………! 2回も言う事ないだろ! 気にしているんだぞ!!」
「は!?」
自覚してこれとは恐れ入った。
琴葉たちと交えて四人の天然脳、略して四天脳と呼ぶことにしよう。うん。
「とにかく、時間を守れよ! それと失敗すんなよ!」
「馬鹿にするなと言ってるだろうが! それくらい守れるわ!」
俺は少し心配になりつつ洞窟のある方向へ移動した。
とりあえず、ニールがいれば安心だ。
あ、そういや言っとかねぇとな。
「おいニール!」
「あァ!?」
荒れてんなー。
ま、いいか。
「こいつを受け取れ!」
俺はニールにあるものを投げた。
「今度は何だ!」
「リフィが、今回だけは覚醒半魔になるなって言ってたぞ!」
「!」
分かっているのか分からないが、とりあえず覚醒半魔になることの危険性は伝わったようだ。
「今渡したアイテムは肌身離さず持ってろ! どこでもいいから身につけとけよ! じゃあな!」
そして俺は、目的の洞窟の方へ向かった。
「………………」




