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第316話


 「ガキの命が惜しけりゃ動くんじゃねぇ!!!」


 リンフィアは敵に気が付いていた。

 だが、言いだす前に何かがおかしいことに気がついた。

 いつしか言いだすのを忘れて、その違和感を考えているうちに連中が出てきてしまったのである。

 その違和感とは、人質の子供だ。


 「子供を人質に取るなんて………!」



 「お? ………ぎひひひひひ!!! 騎士団共、いい女連れてんじゃねぇか!!」


 下卑た目でリンフィアを見る汚らしい格好をした男達。

 濁り切ったその眼には既に同情の余地はなく、せめてこれ以上悪行を重ねる前に断罪してやるべきだと思う。


 「よォし! そこ女!! ガキの代わりに人質になれ。たっぷり可愛がってやるからよォ!」


 「下衆な………」


 「リンフィアちゃん、待って。無闇、行く、危険」


 コロネはそう言ってリンフィアを止める。

 だが、リンフィアはこの状況を打破するには一度敵に接近すべきだと思っていた。

 無力化を試みるために………


 「………ぅ」


 「!!」


 目で、訴えかけている。

 助けを求めているのだ。



 「う………ぅ………ぁ………い、た………い………」


 傷が、痣が、この子に起きた事を物語っている。

 およそ子供が耐え得る仕打ちではない。

 意識があるだけ不思議なほどに痛ましい。


 何かを言おうとしている。

 しかし、あまりにか細く、リンフィアの耳には届かない。


 だが、何を言いたいのか、リンフィアはすぐにわかった。






 た………す………け………て






 子供の血まみれの顔に涙が滴り落ちた。



 「………っ!!」



 込み上げてくる感情。

 ふるふると手を震わせ、表情を歪ませた。

 荒々しく燃え盛るようなその感情は、怒りだ。


 ここまで強い怒りを感じたのは久々だった。




 何なのでしょうか、彼らは。

 何故、あれ程までに非道なことが出来るのでしょうか。


 私はこの国の人たちが好きです。

 優しくて気さくな人、物静かで穏やかな人、活発で元気がもらえる人。

 魔族も人間も変わりません。

 彼らはみな“ヒト”であり、姿形こそ違えど、同じ心を、善を有する者なのです。


 でも私は、みんながみんな好きなわけでもありません。


 私は盗賊が嫌いです。

 彼らは自分たちの利益のために他者を蹂躙する。

 なんて嘆かわしい事でしょう。

 なんて愚かしいのでしょう。

 ケンくんは私を優しいと言ってくれますが、彼らには一切の情けをかけたくありません。


 それでも殺めるのは嫌だと思うのは、私が甘いからでしょう。

 もしくは、恐れているからでしょう。


 ケンくんは彼らの様な人間を嫌っていますが、殺しはしません。

 多分、恐れている訳ではないと思います。

 彼は、自分が守りたい人のためにならどこまでも冷たくなれる人なのです。

 多分、人であることを捨てさえもするでしょう。


 それでも殺さないのは、簡単な話、まだ誰も傷つけていなかったからだと思います。

 今まで会った盗賊は多分皆そうだったのでしょう。


 ですが、この合宿で亡くなった方々を見て、おそらくケンくんは………………いや、皆まで言わないでおきましょう。



 私が思うに、ケンくんの方が、私よりも根っこは優しいと思います。

 少し口調が乱暴な時もありますが、照れているのです。

 彼の優しさは今の私の拠り所だと思います。




 だからこそ、盗賊のような冷え切った心には触れたくもない。

 自己の利益のために人を殺めた瞬間、“それ”はもう人ではなく、バケモノです。

 ここは、バケモノの巣窟です。




 あんな醜いバケモノに、罪もない子供の平穏が侵されたことを、私は絶対に許さない。


 



 騎士は一歩前にでながら剣を抜く。

 下がって、とリンフィアに言うが、リンフィアは一歩前に出た。


 「おほっ! いいねぇ、上玉だ——————」




 ビュンッッ!!!



 前方から現れた複雑な魔力。

 それを感じ取る前に、盗賊は叫び声をあげていた。



 「痛ッッッてえええええええええええッッ!!!」



 肩を貫く鉄の塊。

 見覚えのない武器に、騎士も盗賊も驚いている。


 リンフィアはその隙に魔法弾をもう一発撃って盗賊を牽制。

 その間に盗賊から離れた子供を騎士が救出した。


 「ま、待ちやがれ!!」


 盗賊の1人が追おうとした。

 すると、騎士団達が前にでて剣を構える。

 人質と言う武器を失った今、盗賊達は何もできずにどんどん追い詰められていた。

 さらに、


 「!!」


 銃口は盗賊の心臓へ向けられている。


 「急所は狙いません。詠唱も許しません。出来るなら動かない方がいいです」


 そう言った瞬間だった。

 なにかが、蠢いている、と感じた。

 リンフィアはそれを知っている。




 ズ………ズズ………


 これは、あの時の——————




 ケンはなるべくこの力を使うなと言った。

 だから、リンフィアはそれを中に押さえ込む。

 それでも漏れ出た部分は、仕方なく利用する事にした。


 紅く輝く瞳。

 あの鮮やかな紅は、 血を連想させる。


 盗賊達は、まるで蛇に睨まれた蛙のようにピタリと固まる、


 そして、 リンフィアはこう言った。



 「もし、抵抗した場合………………あなた達がこの子にしたように、私はあなた達を、徹底的に壊します」




 「………!!!」


 ゾクリ、と何か得体の知れないものが這い上がってくるような、えもいえぬ恐怖が盗賊達を襲った。

 これはリンフィアの“王の力”。

 即ち、支配の力だ。

 威圧とはまた違う何か。

 そんな感じたことのないような何かに包まれ、盗賊達は動けないでいた。


 彼女は曲がりなりにも魔王である。

 今は微弱だが、その力は確かに受け継いでいる。



 「武器を捨てて下さい」



 盗賊達はぱっと手を開いて、膝から崩れ落ちた。

 騎士達がすぐに拘束しようとする。

 しかし、


 「ダメです。皆さん、動かないでください。もう………」


 リンフィアは皆を制する。


 「リンフィアの言う通りだ。全員待機………()()()だ」



 隊長の言葉を聞いて、理解する。

 騎士達は少し下がった。


 何故、捕まえないのか。

 理由は至極簡単だ。


 ()()を捕まえても、意味がない。


 「お、おい、よくわからねぇが、逃げらる………ぇ——————」


 顔がいきなり腫れ上がり、一瞬にして弾け飛んだ。

 盗賊達にかかった暗示。

 これが、あちら側の敗北者の末路だった。


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