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第315話


 「よろしくお願いしますっ!」


 リンフィアは緊張していた。

 いい加減人には慣れたのだが、何せ騎士団だ。

 あのピリッとした空気に緊張してしまうのも仕方ないだろう。


 「そう硬くなるな。ある程度の失敗なら我々で対処できるが、そこまで緊張すると本来の力を発揮できんだろう」


 「すっ………ふぅ………すみません」


 「むむむむぅ。リンフィア、大丈夫。硬くならなくていい。いつも通りでいい。だらだらと行こうよ」



 「はい、カプラちゃん」


 このふわふわした感じの彼女は、カプラ・クラケトル。

 最近リンフィアが親しくしている友人。

 髪の毛はいつもボサボサで寝癖まみれの彼女は、結構だらしない。

 よく言えば楽チンな、悪く言えば適当な生き方をしている、と自分で言っていた。

 これでも成績は上位で、 そこそこ優秀な人材である。


 「でも、リンフィアちゃん、無理、ダメ」

 

 「はい、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます、コロネちゃん」


 この前髪で目が隠れた彼女は、コロネ・ファンダイン。

 カタコトな喋り方が特徴的だ。

 こんなだが、魔法騎士の家系の出であるため、戦闘慣れしている。

 ただ、本人曰く、騎士を目指すつもりはないらしい。

 


 「そろそろ次の地点に出発する。ついてこい」













———————————————————————————












 「むむむむぅ………森………なかなか涼しいな」


 ぼやーっと歩くカプラ。

 その一方でリンフィアはいつ怒られるかとヒヤヒヤしていた。


 「かっ、カプラちゃん! もう少し気を張ったほうが………」


 「大丈夫。気は張っている………かなぁ?」


 「曖昧じゃないですか!」


 ハッとしたリンフィアは口を塞いで騎士達に頭を下げた。


 「さっきも言ったが、少し気を張りすぎだ。そこの少女程とは言わんが、少なくともあちらの少女くらいには脱力した方がいいだろう」


 “あちら”を見てみる。

 コロネは普通にしていた。


 ただ、今リンフィアは緊張しているわけではないのだ。


 「ご忠告ありがとうございます。でも、私はこれくらいでいいと思います。いつ戦いになるかわからない状況の時くらい気は張っておけって、言われているので」


 「だとしてもだな………」



 ………!!!




 「!」


 騎士は物音に気がついてそちらを向く。

 敵意を、いや、殺気を放っている。

 モンスターだ。

 騎士達は剣を構えようとした。

 その瞬間だった。



 轟ッッ!!


 

 魔法によるものかと思われる攻撃で轟音が発せられた。


 「「!?」」



 騎士達は思わず目を見開く。

 モンスターは既に討伐された。

 そう、リンフィアがやったのだ。


 「ゴブリンですね」


 リンフィアはモンスターへの攻撃をすでに放っていた。


 「お前は………」


 「一体だけみたいです。念のため周囲を警戒した方がいいですよね?」


 「あ、ああ」


 騎士達は思わずたじろぐ。

 先程とはうってかわって表情がキリッとしている。


 「よく気がついたな………何故だ?」


 隊長はリンフィアにそう尋ねた。


 「常態から戦闘状態へ移行するまでの時間は可能な限り短く。そういうのを意識した訓練をした結果、とりあえず今くらい出来るようになりました」


 ケンはリンフィア達に一通りの訓練をさせてある。

 最低限生き残るための訓練だ。

 察知する感覚というのは、生死を賭けた状況ではこれ以上ないくらい重要なものだ。


 「張り詰めすぎた糸は簡単に切れるみたいな喩えがありますが、要は切られる前に緩めばいいって言われました。張っていない糸と張っている糸じゃ触れられたことに気がつくのはどっちが早いか。簡単に言われちゃいましたが、それが出来ないから苦労してるんですよね。えへへ」


 リンフィアは照れたようにそう言った。

 しかし、ここにいる騎士達は戦慄を覚えている。

 彼らはまだ熟練の騎士とは呼べるほど強くはないが、もう剣を握って数年経っていた。

 そんな彼らからしてもこの反応速度は異常なのだ。


 「その年でそこまで出来るとは正直恐れ入る。騎士団に入らないか?」


 「ごめんなさい。やりたいことがあるんです」


 ぺこりと頭を下げながら馬鹿正直に答えた。

 隊長は苦笑しながら冗談だと言う。


 「そうですよ隊長。リンフィアの将来の夢は今彼のお嫁さんなんですから」


 「ちょっ!? 何言ってるんですか!?」



 騎士達の笑い声が森に響いた。











———————————————————————————












 「盗賊達の姿はありませんね」


 「ああ」

 

 それなりの距離を歩いたと思う。

 それでも依然盗賊の姿はない。


 しかし、そう悠長に構えていられそうもなかった。


 「これ、臭い………いや………」


 コロネがいち早く異変に気がつく。

 リンフィアも顔を歪めていた。


 「臭い………うっ………!」


 少し遅れて騎士団達も気がつく。


 「荒れているな………酷い臭いだ」


 腐臭と血の臭い。

 不快な刺激臭が、ここら一体に撒き散らされていた。


 騎士団達は臭いの強いほうへ進んでいく。

 あまりに激臭にむせ返る。

 どれだけ殺したのだと、リンフィアはふつふつと怒りが湧いてくるのを感じた。


 「全員口に何か当てておけ。魔法で治るとは言え、 疫病に感染すると厄介だぞ」


 リンフィアは常備している手ぬぐいを口に当てた。

 頭がどうかしそうな臭いも少しはマシになった。


 「………あった」


 部隊長が手で後方の生徒達を制しながらそう呟いた。


 忌々しげにどこかを睨んでいる。

 それは、今ここにいない盗賊たちに向けているのだろうか。


 「外道どもめ………!」



 リンフィア達はおそるおそる死体に目を向けた。

 山のように積まれた死体の中には、女子供も混じっている。

 衣服は乱れ、傷を刻まれ、バラバラにされ………これは人の所業ではないと思ってしまう。


 「隊長、これ………」


 


 「ああ………近いな」


 森には誰かが入った形跡があった。

 まだ新しい。

 おそらく騎士団や生徒ではない。

 地面の足跡を見てみるがブーツの跡ではないのだ。


 「これをやった連中………ではないだろうが、おそらく盗賊だろう。全員、警戒態勢を——————」




 「動くなァァァアアッッッッ!!!」




 「「!」」


 「なっ………!」


 全員一斉に怒鳴り声の方を向く。

 そのには、汚い格好をした男が立っていた。


 おそらくこいつは盗賊だ。


 いや、今見るべきはそこじゃない。


 「このガキを殺したくないなら、全員そこから動くなよ


 今注意すべきは、盗賊の腕に抱えられた子供、人質だ。

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