第312話
「ケンくん!」
リンフィアが声をかけてきた。
「ようリフィ。無事だったか」
「ニールから聞きましたよ。ケンくんとニールが一番危ないところに行くって本当ですか?」
「何だ、心配してくれてんのか?」
こいつも心配性だ。
俺なら大丈夫だっての。
「いえ、ケンくんにはこれぽっちも果物の種ほどの心配もしてないです!」
なるほど、前言撤回。
こいつ結構大胆になってるわ。
いくら大丈夫だからって全く心配されないとなるとちょっと寂しいぞ。
「だって、ケンくんが負けるわけないじゃないですか!」
「!」
素でそういう事をはっきり言われると正直照れる。
ここまで信頼してくれる奴は中々いない。
俺もいい仲間と出会ったもんだ。
「でも、頑張ってくださいね。絶対にここの人たちの仇を討ちましょう」
リンフィアはいつも以上に張り切っていた。
こういった侵略行為を、リンフィアはかなり嫌っている。
表には出していないが、かなり怒っているだろう。
「ああ、そうだな」
「はい。じゃあ、私もう行きますね」
「ヘマすんじゃねーぞ。死んだりしたら承知しねーからな」
「大丈夫です。ケンくんに鍛えられてますから」
リンフィアは自分の持ち場に帰っていった。
一応、保険はかけておいた。
ポケットに入れた手紙と弾丸に気づけばいいが………
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「全員、指示があるまで待機せよ」
俺たちは、それぞれ決まった位置に移動して固まっている。
俺がいる部隊………この前の測定で一位と二位だった特科生と戦闘科生は、白鳥の騎士と呼ばれている男の部隊と共に泉の下にある洞窟を探索することになっているのだ。
「やっぱりお前と一緒になったか」
やれやれとニールは頭を振った。
仕方あるまい。
だいたいそうなるだろう。
戦闘に特化した戦闘科とあらゆる面でトップクラスの特科が一緒にされるのは、こういう作戦の場合当然である。
「ま、よろしく頼むわ。そんで、ニールとレイはどっちが一位だったんだ?」
2人とも耳がピクリと動いた。
あ、もしや。
「「私だ」」
こうなったか。
「何を言っているんだ男装趣味。最後の殺気の測定は私が一歩先に出ていただろうが。やれやれ、これだからおかしな趣味を持った奴は………」
「貴様こそ何をほざいているのだ、暴力女。どう見ても私が半歩先に出ていただろう? 日頃の頭を使わないせいでとうとう脳みそが溶けきったか?」
なんて幼稚な言い合いだ。
最近は丸くなったと思ったが、全然毒舌は健在なニールである。
こちらも大概だが、レイも思ったより毒吐いてる。
戦闘科の連中も散々だろう。
「そこまでにしておきなさい、レイ」
「も、申し訳ございません」
レイは素直に謝っていた。
だがこっちは………
「お前ももうやめておけよ、ニール。頭の悪そうな言い合いすんじゃねーよ」
「やかましいこの戯け者が。頭の悪そうな顔と頭したやつに言われたくない」
「この女まじで口の減らねー………!」
その時だった。
あたりがざわつき始める。
「聞け! 大騎士長殿からのお言葉である!」
大騎士長の側近と思わしき人物がそう叫んだ。
通常の騎士より更に白が多い鎧を身につけている。
恐らく、こいつが今回俺たちを率いる白鳥の騎士なのだろう。
噂通りのイケメンであり、学院の女子がキャーキャー騒いでいる。
「見て、“白鳥”よ!」
「わぁ、噂よりずっとかっこいいなぁ………」
「絶対にたくさん活躍してお近づきにならなくちゃ………!」
女の戦いは既に始まっているらしい。
ああ恐ろしや。
「大騎士長、こちらへ」
スカルバードは集まっている騎士や生徒達の中央に移動した。
すると、すぐ様若い騎士長へ注目が集まる。
今度は男子達が騒ぎ始めた。
大騎士長スカルバード。
男なら憧れる騎士達を統べる騎士。
尊敬と羨望の眼差しを送っていた。
「おい見ろよ! 大騎士長だぞ!」
「風格あるぜ………」
「俺も魔法騎士になって、あの人の下で戦いたいなぁ………」
あたりはざわついている。
すると、
フッ………ッッォォオオ!!!
「「「ッッ………………!!」」」
中央から全員に行き渡るように魔力が発せられた。
一瞬で静かになり、皆中央を注目する。
「我が同胞の騎士諸君、そして学院の生徒たちよ。事態は私が思っていたよりもかなり深刻なようだ。この一帯の民達のすべてが滅ぼされるかもしれない」
「「「!!」」」
はっきりそう言った。
生徒達の顔が強張っている。
「我ら騎士は王国の盾であり矛だ。そして、国民とはその王国の一部、つまり王国そのものであり、我らが盾となって守護するべき存在である。それらを脅かす存在を、俺は決して認めない」
語気を強めてそう言う。
気持ちが昂ぶっているのがわかる。
これはカリスマ性という奴だろう。
あの声を聞くと、気分が高揚するのだ。
蓮やダグラスも似たような“声”だ。
しかし、これは決定的に格が違う。
ダグラスは単純に“器”が、蓮はその中身が、スカルバードに及んでいないのだ。
この男はどこまでも広大な器と、それに伴った中身をしっかり持っている。
これが、大騎士長か。
スカルバードは剣を抜き、地面に突き立て、こう叫んだ。
「学院の生徒達よ、此度我らと共に戦うのであれば、諸君らは紛れも無い騎士だ。我らが同胞よ、武器を取れ、敵を見据えよ。これより我らは剣となって敵を穿ち、盾となって民を護る。騎士の誇りにかけて——————敵を殲滅せよ!!!」
うおおおおおおおおおぉぉぉぉお!!!!!
刹那、怒号の如き歓声が、次々と湧き上がった。
あの男は、まさに長と呼ぶにふさわしい存在だ。




