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第311話


 「お前がヒジリ・ケンか」


 「ああ」


 目の前に立つこの男は、ミラトニア王国騎士団、大騎士長スカルバード・ウォルロードだ。

 思ったより若い。

 これまでもそうだったが、俺が関わってきた、この世界で何かの長になっている人間というのは、若くて才能のある奴が多い気がする。

 まぁ、別におかしいことではないがな。


 「思ったより若いな」


 「フ、よく言われる。大抵は才能のない老人達からの僻みだがな」


 結構言うな、こいつ。


 「皆、少しだけこの男と2人にさせてくれ」


 「はっ!」



 全員スカルバードから離れる。

 すると、周りの魔法騎士が俺とスカルバードを囲うように魔法で小屋を作った。


 「おぉ………いちいちこんなモンまで………」


 「これで遠慮なく話せるだろう?」


 「別に俺としちゃあ外でも構わねーけどな」


 フ、とスカルバードは笑った。

 

 「それで、何の用だ?」


 「まずはさっき出現した竜の件だ。あんたも気付いてるだろうが、ここのドラゴン共は操られてる。そして現在の主人が盗賊である可能性が高い」


 「ああ。わかっている。だが、原因は未だ分からない。お前たち勇者が持つような異能でもなければ、魔法でもない。操られているのが確実だとわかるからこそ、原因が分からずに困っている」


 確かに、 これ魔法でも固有スキルでもない。

 しかし、原因は粗方わかっている。

 先日見たアレだ。



 「多分、対竜種のアイテムで操られてるぜ」


 「何………? 対竜種だと? あれは空想の産物ではないのか?」


 「この間実物を見た。間違いねーよ」


 「しかし、あれは竜に対して戦いが有利になるという効果ではなかったか?」


 そう、一般的にはそうだ。

 だが、知られていない事実もある。


 「アンタは、何故対竜種が竜に有効なのか知ってるか?」


 「………いや、聞いたことがない」


 「対生物道具の中でも、特に対竜種は特殊なモンだ。そもそも始まりから他とは異なる。一部の例外を除いて、対生物道具は同じ発生の仕方をするが、対竜種はある竜の魔力を直に受けた道具だ」


 「!」


 スカルバードは驚いた顔を見せた。

 


 「その竜の名は、竜皇ヴォルニー・ルーラーだ」


 それは、始まりの竜。

 最強の竜種、ヴォルニードラゴン達の長であり、ひいては全ての竜の頂点に立つ存在。

 その名は未だ伝説として語り継がれていた。


 「それこそ空想だろ?」


 「いいや、空想ではない。俺たち勇者がそうだったようにな」


 「ふむ、確かに」


 ストンと胸に落ちたようだ。

 

 「竜皇は全ての竜を統べる力を持つと言われてる。攻撃を防ぎ、防御を妨げるのは、ドラゴン達が無意識にその魔力を王の物として受け入れているからだ。攻撃されたらそれを無防備に受け入れようとする本能と、それを防ごうとする理性がせめぎ合う。複製っつーこともあって、理性が勝つんだが、それでも攻撃は弱まる。これが対竜種の真実だ」


 「なるほど、本能で王に従おうとしているのか。という事は………」


 「ああ。それに完全に従わせられたのがさっきの竜だ。対竜種の本質は戦いを有利にすることではなく、竜を従わせる事だからな」


 対竜種という名称も本来は正しくはないのだ。


 「ならば、連中の居所を突き止めねば………」


 「だったら、うちの学院の生徒の中にいるルクスという生徒を見張っていてくれ。奴は対竜種の武器を持っている」


 「見張る? 捕縛すればいいだろう」


 「それじゃダメだ。奴らを尋問にかけようとすると、自爆する恐れがある」


 もし、ルクスが連中と関わりを持っているなら、もしかするとバレた瞬間自爆する可能性は高い。

 気絶した奴を調べたが、どうやら特殊なスキルがかかっている。

 この件に異世界人が関わっていると見て間違いないだろう。

 おそらく“迷子”だ。

 だが、周辺にダンジョンがある様子はないので、直接関わってはいないのかもしれない。


 ………いや、そもそもダンジョンにご執心な迷子だけではないだろう。


 別の派閥………ルクスはダンジョンに興味も持たない側の迷子だろうか?


 ()()()()奴は迷子か………?

 

 ………そうか!

 なるほど、それなら可能性が絞られる。



 「何を考え込んでいるんだ?」


 「ああ、ちょっとな。安心しろ、悪巧みだったらアンタが勘付く前に事を終えてる」


 「今ので警戒心は増したのだがな。ところで、お前はこの件をどう見る?」


 「どう………か。なんとも言えねーな。行動に一貫性がない。村を殲滅したいのなら、もっと一斉に行うだろうし、ドラゴンを手なづけることが目的ならそもそも村を襲うなんて真似はしない。騎士団に目をつけられるからだ。家を漁る気配もないし、虐殺したいわけでもない」


 だが、と俺は続ける。


 「それらが何かを隠すための行動だとしたら、事は思ったより進んでいるかもしれないな」


 「!」


 「ここで暴れるって事は、ここで何かを起こすって事だ。じゃねーと囮の意味がない。探すなら急がねーと………」



 間違いなく、何かが起きるだろう。


 俺がそういう前に、スカルバードは立ち上がって、小屋から出ていた。


 俺も今回ばかりは真面目に働こうと思う。

 罪もない町人達を虐殺する様な屑どもには、制裁が必要だ。

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