第310話
生徒を襲っていた方のドラゴンも無事に撃退し、俺が指定した場所に、騎士団と学院の生徒、教師が集まった。
「そんな………」
「酷い………」
生徒達は、何もない平地を見て、唖然としていた。
これに関しては、自爆によるものだが、もともとあった場所にあるはずの町がないのは、流石にショックを受けたことだろう。
「こんな………くッ………! 既に町が………」
騎士団はさらに憤慨していた。
仲間がやられたこともそうだが、肝心な時にその場にいなかったことが許せないらしい。
どうやらこの騎士団は正義感が強い正統派の騎士団のようだ。
ただ、騎士団が事前に情報を得られなかったのは正直言って仕方がない。
なぜなら、騎士団を襲ったドラゴン達は一番最初に通信係を攻撃したからだ。
「最初に騎士団の連絡部隊がやられなければよかったが………偶然ならば何も言えん………」
誰かがそう呟いた。
だが、これは間違いなく偶然ではない。
何故なら、ドラゴンは操られているからだ。
手綱を握っているやつは十中八九盗賊に関わってい
る。
騎士団の連中はそれ知らない。
俺はそれを伝えようとすると、
「偶然ではないかも知れん」
とある騎士が、周りの連中にはっきりとそう言った。
そしてこう続ける。
「ここまで派手に暴れておいて、盗賊の死体らしきものはない。考え難い事だが、何らかの方法で、盗賊が竜の行動を誘導している可能性がある」
周りの騎士達もそれに賛同していた。
なるほど、流石は王都の騎士団。
それなりに頭が回るようだ。
「なぁ、ここの指揮権って誰が持ってる?」
俺はミレアにそう尋ねた。
「指揮権は、おそらくあの方が持ってるでしょうね」
ミレアは中央にいる如何にもな騎士を見つめてそういう。
やはり指揮権は騎士団側が持っているらしい。
それにしても、あの騎士………
「大分強ェな。ファルグと同等か?」
「ええ、おそらくそれほどの実力は持っているでしょう。何せ、彼はミラトニア王国騎士団の大騎士長ですから」
「!」
大騎士長って事はかなり上の人間だ。
そんなお偉いさんがいちいちこんな所に出向いてきているということは、
「………監視だな」
国王が俺の様子を監視させるために派遣させたか。
なんとまぁ人使いが荒い王様だ。
「ちょっと行ってくる」
「え? ちょっ、ちょっと待ちなさい! 大騎士長に直接謁見することは出来ませんよ!」
出来ないだろうな。
騎士といえば、貴族の出が多い。
そいつらのまとめ役ということはかなり高位の人間だ。
ミレアはそう言いたいのだろう。
「大丈夫だ。さっきドラゴンと戦った時の様子を伝えるだけだ。直で話そうなんて思っちゃいねーよ」
まぁ、嘘だが。
俺はそのまま奥へ進んで行く。
騎士達がなんだこいつみたいな目で見ているが気にしない。
だが、騎士達はそうもいかなかった。
騎士達は中央に向かっていると気がつき、すぐさま道を塞いだ。
「止まれ。そこの少年。我らが大騎士長スカルバード卿に何用だ」
「さっき竜と戦ったとき、少し様子がおかしかった。詳細を伝えてーから通してくんねーかな?」
雑な言葉遣いを聞いて周りの空気がピリピリし始める。
騎士は当然、俺の申し出を断った。
「許可できぬ。だが、貴様の意見は大騎士長殿に伝えておこう。名を申せ」
「ヒジリ・ケンだ」
「!?」
全員俺に注目した。
なるほどな。
王城の人間には俺の事が知れ渡っているらしい。
「で、伝えてくれんの?」
「わ、わかった。伝えよう」
騎士は奥へとむかっていく。
さて、俺は待機だ。
視線は気になるが無視無視。
それにしても、皆俺のことを知っているとは、俺も有名になったものだ。
まず、いい意味ではないだろうが。
「処刑されたと聞いたぞ」
「何故この男が………」
「能力を持たないのではなかったか?」
チラホラと俺のことを言っている声が聞こえる。
私語をしているやつは多分下級騎士だ。
そんなやつらにも無能事件のことは知れているらしい。
今の騎士も知っているのだろう。
「お、戻ってきたな」
先ほどの騎士が帰ってきて、俺の目の前に立ち止まった。
「大騎士長殿が貴様をお呼びだ。ついてこい」
その瞬間、辺りがざわめいた。
これでも一応勇者だからか、みたいな事を考えているのだろう。
しかし、 大騎士長は勇者だから呼び出したのではなく、 俺が特異点だと知って呼んでいるのだろう。
いや正確に特異点というワードは知らないかも知れないが、特別な“ナニカ”だとは知っているに違いない。
「りょーかい」
そして俺は、大騎士長と対面することになった。




