第31話
「ここがギルドか。なんつーか、もはや城だな」
「うわぁ、大きいですね。うちくらいかなぁ」
しれっと、とんでもないことを言ってる。
それが本当ならこいつはとんでもないお嬢様だ。
「というか、いつまでしがみついてるんだ?」
首元に腕を回してしっかりと掴まってる。
「あ、すみません。なんとなく安心するので掴まったままでした。このまんまやってていいですか?」
「目立つので却下」
そう言うとリンフィアは渋々手を離した。
「あーあ、ケンくんみたいに目つき悪いと女の子に触れられる機会なんてあんまりないのに」
「うっせ。余計なお世話だ」
ついでに目つき悪いとか言っちゃってるあたり小馬鹿にしてるなぁと思った。
「冒険者になるんだと思うと緊張しますね。人間の職業だし」
「面倒な手続きが無けりゃいいが………」
「そういうこと言うと本当になりますよ」
「フラグが立つとも言う」
「じゃあそれです」
リンフィアは新しい言葉を覚えた。
某RPGのレベルアップ音が聞こえた気がした。
「どっちでもいいが、行くなら早くするぞ」
「はーい」
俺たちは開かれっぱなしのギルドのドアを通って中に入る。
「おーい、酒もってこい」
「今回のクエストやばかったなー」
「あそこの幼竜強かったわー」
「おい聞いたかよ。《女王》また竜を討伐したらしいぞ」
辺り一帯どこを見ても冒険者。
屈強そうな男ばかりだ。
「へぇ、よくあるギルドっぽい感じだな。みんなゴツいゴツい」
「みんなムキムキですね。やっぱ冒険者ってこんな感じなんでしょうか」
と、共通の偏見を言いながら中を見物する。
思った以上に注目はされなかった。
まあ目立たないに越したことはないのだが。
「あんまキョロキョロ見てまわんなよ」
「ケンくんも見てるじゃないですか」
「俺は目線を変えてるだけだからいいんだよ。お前みたいに首をぐるぐる回してねーからな」
側から見るとただの見物人だ。
少なくとも冒険者や商人には見えない。
「むー………うん?」
「見ろよ女だぞ、しかも多分まだ子供」
既に目立っていた。
やっぱりこいつみたいにキョロキョロする奴は目立つか。
「ほれ見ろ。目立ってんじゃねーか」
しかし、思ったような目立ち方では無かった。
「やっぱり女王みたく強いのか?」
「バカ言え。あんなのがポンポン出てきてたまるか」
「雰囲気もふわふわしてるし、違うんじゃね?」
どうやら女王と呼ばれる女性冒険者がとんでもなく強く、そのせいで女が目立ってるらしい。
「へぇ、女王かぁ。どんな人でしょうか?」
「聞けばいいじゃねーか。なあ、アンタ。女王ってなんだ?」
近くにいた好青年っぽい人に聞いてみる。
「え!? 君たち知らないのかい? 女王って言うのは、2年前に突如現れた謎の美女のことで、正式には《黒龍の女王》って言うんだ。名前の由来は全身が黒龍ヴィルヴァディアの素材で作られた装備さ。この間この街にやってきてね、一躍時の人だよ」
「だってよ」
と、振り向くが誰もいない。
「あ、それ可愛いですね!」
「そうでしょ! 苦労したのよ、これ作るの」
もう興味を失っていた。
こいつは人の話はちゃんと聞けと言われてなかったのだろうか。
「見て下さい! 貰っちゃいました」
リンフィアは貰ったストラップを持って嬉しそうに報告してきた。
「はいはい、ヨカッタネ」
もういいや女王は。
「早く登録するぞ」
「はーい」
俺は受付に向かう。
すると、
「ようこそ冒険者ギルド フェルナンキア総本部へ」
受付にいたのは宿の受付をしていたメイという女性だった。
「あれ、アンタここの受付もやってるのか? でも髪の色が………」
「ここの受付も? ああ、あれは私の妹です。私はマイと申します」
双子と言う事か。
確かに向こうは真っ赤だったが、こっちは緑だ。
「おお………あ、そうだ。冒険者登録してーんだけど」
「登録ですね。それでしたらこちらの紙に必要事項を記入して特殊鑑定石にかざして下さい」
特殊鑑定石。
ステータスがわかる鑑定石に自分の情報を上書きし、プレートを作る情報源にするという道具だ。
使用すると鑑定石からプレートが排出される。
「………」
とりあえず必要事項を記入する。
ついでにリンフィアの分も書いておこう。
「リフィ、一応聞くが今まで犯罪履歴は残ってないよな?」
「失礼な。してませんよ」
だろうな。
そんな事はしてなさそうだ。
ここには犯罪履歴を書く欄がある。
無かったらセーフ。
ある場合は申告しておけばセーフになる場合もある。
嘘を書いてそれがバレると資格剥奪の処分を喰らう。
「先にリフィの方を書き上げとくか」
スラスラと書き進めていく。
と言っても鑑定石で確認できない部分をちょい足しするだけなのであまり時間はかからない。
「はい、よろしく」
「では」
マイは特殊鑑定石に紙をかざす。
石の周りに文字が浮かび上がってきた。
これはリンフィアの情報だ。
「では、こちらに手をかざして下さい」
「はい」
リンフィアは石の上に手をかざした。
すると文字の数が増え一気に集まると、中からプレートが出てきた。
「それでは確認いたします」
今のうちに書いておこう。
「………リンフィア様。少しこちらへ」
これは、バレたか。
「行くぞ、リフィ」
「………バレてしまったのでしょうか?」
リンフィアは小声でそう尋ねてきた。
「ああ、間違いないな」
リンフィアは青ざめた顔で少し震えていた。
彼女は思い出してしまっているのだ。
魔族だと言う理由で不当な扱いを受けていた時のことを。
「大丈夫。俺が絶対なんとかしてやる」
「………はい!」
俺たちはマイに連れられて奥の部屋へ向かった。
こんな奥にある部屋。それはおそらく、
「失礼します。ギルドマスター、いらっしゃいますか?」
やっぱり、トップがいる部屋か。
俺たちはそのまま部屋へ入った。
話が通じればそれで通す。
通じないなら、通じるようにする。
容赦は無しだ。
そこにいたギルドマスターは整った顔をした中年のおっさんだった。
若い頃はさぞモテただろう。
「どうした、マイ。お前さんが用事たァ珍し………あ!」
ギルドマスターは俺たちを指差し、大声をあげた。
それにしても何か聞き覚えのある声だな、と思った。
「なんだ、いきなり………あ!」
そうだ、こいつ、
「あん時の酔っ払いだ!」
「あん時のボウズじゃねぇか!」
昼間見た酔っ払いはなんと、ギルド本部のギルドマスターだったのだ。