第309話
「何だ………こいつは!?」
「小さな人形!?」
町人たちは、ゴーレムをまじまじと見ていた。
目の前でドラゴンの炎を消した人形を見たらそれは驚くだろう。
『アンタらここの住民だな?』
話しかけてみると、ビクッと体を跳ねさせたので、こちらも少し驚いた。
そんなに驚かなくてもよくね?
「あ、ああ………」
『いいか? 動くんじゃねーぞ。死にたくなけりゃそこから一歩も動くな。いくら危なくてもだ。錯乱して動いた奴は守らねぇからな』
分散されると厄介だ。
どうにかなるとは思うが、可能な限り動いて欲しくない。
『っしゃァ………行くぜクソトカゲェッッ!!!』
ゴーレムは、ドラゴンに向かって思いっきり飛び跳ねた。
ゴーレムは弾丸のように上へと進んでいく
すると早速、叩き落とすために手を振りかぶった。
「させるか!」
ゴーレムは、体をねじりつつ、振り下されたた手を風魔法で巧みに躱し、その上に乗っかった。
ドラゴンは、目に見えて不快感を出している。
ゴーレムがそんなに気に食わないか。
「ゴルルルォオオオ!」
魔力反応あり。
火球だ。
「カァアアッッ!!!」
この体は、本体ほどうまく動けない。
だから、軌道を読み、最小限で………!
『ふぅぅ………』
ゴーレムは迫り来る一つ目の火球の位置を予測。
二球目、三球目………
『………こいつだ』
右に一歩出つつ、1秒後に来る火球を避けるために素早く弧を描きながら左足をあげる。
まず二球だ。
そのまま右足で30センチ浮くように飛びつつ、右側に倒れ、地面についた瞬間に転がり起き上がる。
その直後に、火球数発の中央の隙間を、回転しながら飛んで躱しながら進んだ。
なかなか攻撃が当たらず、ドラゴンはどんどん怒りを募らせていった。
「グロォアアアアア!!!」
『へぇ? 怒ってんのか。やっぱ知性のあるモンスターは………やりやすいぜ………!』
ゴーレムの奥で、俺は不敵な笑みを浮かべた。
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「助かるのか………俺たち」
「おぉぉおお………」
「天の使いだ!!」
住民たちは、ケンが指示した通りに固まってじっとしている。
見た目ではケンが圧していたので、住民達はどこか安心して戦いを見ていたが、一部からは少々不穏な空気が流れていた。
「だが………こいつを倒したところで………」
「止せ! 不安を煽るようなことを言うな!」
「だが、このまま無視もできんだろう………」
その住民達は、チラチラとある方角を見ていた。
それは、ここ鱗の泉がそう呼ばれる所以となった泉がある場所だ。
「ああ、彼の竜も乱心なさったのだろうか………?」
年老いた町民はそう言った。
彼の竜。
モンスターに使わないであろうその表現。
どうやら特殊な竜のようだ。
「………今はとりあえず、この場面を生き残れるかどうかだけ集中しておけ」
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『チッ………流石に硬い………が!!』
ゴーレムはその小さな拳を固く握り締め、竜を突いた。
回復される前に、傷を作っておきたい。
それも、比較的大きな傷だ。
すると、
『ダッッッ!!!』
十発目で竜の硬い皮膚が裂けた。
魔力を貯めていたので、ほぼ強化出来ずに戦っていたせいで少々時間がかかった。
『だが………それだけの価値はあったぜ………!』
ゴーレムはその魔力を一気に使い、傷口に思いっきりそれを放った。
するとその瞬間、
「ギィイィアアアアアアアア!!!!」
『っと!!』
ドラゴンが暴れ出し、足元が不安定になる。
ゴーレムはそのままフワッと足を浮かせ、地面に落下していく。
何故なら、もう攻撃は終わったからだ。
この体じゃ派手に一発って訳にもいかねぇ。
数が増えた分力が分散しちまってて、かなりそいつが著しい。
だが、と。
それでも俺は勝てるだけの自信は十分にある。
あの程度の竜ならこの体で十分だ。
『タイムリミットだ』
俺がそう言った瞬間、ドラゴンが空中で悶え始めた。
「ギィッ!? アァア、ア………アアアア………!!!」
やがて、バランスが保てなくなった竜はそのまま地面に墜落した。
ドンッ!!! と言う衝撃と共に土埃が舞う。
——————ゴーレムが何をしたか。
それは、最後の攻撃に秘密がある。
あれは、内部から光魔法で特殊な命令を送るというただそれだけの行為だった。
しかし、ある条件を満たすと、たったそれだけで死に至る。
土埃に隠された巨体が姿を見せた時には、すでに生き絶えていた。
『………』
おかしいとは思っていたのだ。
単調な攻撃。
目の前のゴーレムにしか集中していなかった様子。
違う。
アレは竜の本来の行動ではない。
竜はもっと賢い生物だ。
予想はしていたが、先ほどの攻撃が効いたことで確信した。
アレは既に別の者からの命令を持っていて、完全に支配された個体にのみ効く攻撃だ。
つまり、ここの竜は、人間の手によって操られているという事となる。




