第305話
今回の合宿は、魔法騎士団と共に、鱗の泉の周辺の町の保護をしつつ、活性化して増えたドラゴンを駆逐。
それと並行して、盗賊退治を行うというのが今回の合宿の目的——————
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想定外の事態というのは、いつ如何なる時にも起こりうる。
今回は想定する中でも特に酷い状況がケン達を待っていた。
悲劇は既に起こっていて、もう元には戻せない。
とっくの昔に取り返しはつかなくなっている。
人の命がかかっているのだから。
これより先の悲劇を食い止められるか、さらなる悲劇を招くか。
それは全て、ケン達にかかっている。
さぁ、始めよう。
開幕だ。
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「ひゃー! すごくいいよこれ!」
シャルティールはお気に召したらしく、楽しそうにバイクを乗り回している。
風の抵抗はなるべく無くしているが、程よく風を感じるように付加魔法を調整してある。
「ひゃっはー!!」
シャルティールははしたなくバイクを乗り回しているので、ミレアは少し困ったような顔をするが、大目に見ている。
なんだかんだで気に入ってるらしい。
「やれやれ、困った子ですね。でも確かに………これは馬車と比べても快適ですね。風の抵抗を必要以上に感じませんし、揺れをほとんど感じない。ケン君は何故これを公表しようとしないのですか?」
さも当然のように聞いてくするが、わざとだろうか?
「魔法具の製造方法をそう安安と教える魔法使いがいるかよ」
これは魔法具職人からすればは当然のことだ。彼らにとって作品というのは、その時その時の人生に他ならないのだから。
それが流布するを望むわけがないのだ。
まぁ、俺の場合はこういったオーバーテクノロジーが広まってしまうことで、おかしな事態になる事を防ぐためである。
見る分ならまだしも、内部構造を見られて仕舞えば、それを応用した魔法具が作られてしまい、色々と面倒な事になりそうだ。
作れるかどうかは別として。
「つーか教えたところで、そこら辺の凡人どもでは簡単にこいつは作れねーよ」
「相変わらず大した自信家ですね。でも、貴方の性格はわかってきました。それに、その自信に適うだけの実力を持っていることも」
「男性恐怖症にしてはよく俺のことを見てるじゃねーか」
「ふん、別に恐れてなどいません………ただちょっと、ほんの少ーしだけ苦手なだけです」
最後の方はボソボソと言っていて聞こえなかった。
「と、とにかく! 私に必要以上に接触する事は許容しません!」
「いや、お前が話しかけたんだけどな」
そう言うと、口を数回パクパクさせて何も言ってこなかった。
とりあえず、今はこのバイクを楽しもう。
と、 思ったが、ふとある事を思い出した。
あ、バイクといえば、リフィとニールにはバイクを渡したが使ってんのか?
いや、チームで行くのならそれはねーか………ん? 魔力残滓………これは、ドラゴンの魔力………!
「………ねぇ、気づいてる? 奥の方から焦げ臭い匂いがするんだけど」
少しすると、シャルティールがそう言ってきた。
ミレアも勘付いているらしい。
「それだけじゃねぇ。風に乗って、血の匂いもする………嫌な感じだ」
幼い頃から記憶しているあの匂い。
忘れるわけがない。
「………ドラゴンでしょうか?」
「いや………」
少し違う気がする。
ここまで強い血の匂いと焼けた匂い。
片方はドラゴンなのは確かだ。
恐らく、もう片方は………
「多分、人間………盗賊も関わってるぞ」
充満しきったこの匂い。
数時間前とかではない。
恐らく、数日経っている。
バイクのスピードをあげて、すぐに向かおうと思った瞬間、
「!」
ミレアに通信が入る。
ランプの色は黒だ。
「これは………戦闘態勢!?」
ミレアの持つリングは、基本学院で生徒会同士で最低限の連絡を取る際に使用される。
受信だけでなく、発進も可能。
つまり、
「確かその魔法具、通信可能範囲が限られていたよな。だとしたら、この近くにそれを出した奴がいる可能性があるぞ」
「………………!」
ミレアの表情が強張る。
この通信が意味するのは、誰かが戦闘中、又は巻き込まれているか、そうでなくとも近くにいると言う事だ。
それも、第1生徒会の誰かが。
「………ミレア、シャル、ワリィが先に向かうぜ」
俺はバイクをアイテムボックスに戻し、その瞬間に強化魔法を掛ける。
これでバイクよりスピードは出ている。
俺は少し飛ばし気味に現場に向かった。




