第304話
俺とミレアは一旦シャルティールを迎えに行った。
部屋には、準備を終えたシャルティールが待っていた。
「あ、おはよう2人とも」
「おはようございます」
「おっす」
適当に挨拶を済ませると、部屋の中に案内された。
同室のやつは、既に目的地に向かったようだ。
「へー、ミレアはもうこの子に慣れたんだね。僕は嬉しいよ」
「誰目線だよ」
思わず突っ込んでしまう。
「慣れた………ええ、まぁ慣れましたね。と言っても、ケン君にのみ過剰に反応することがなくなっただけですけどね」
「ちょっと指が触れたりしたら殴りかかってくるけどな」
「仕方ないでしょう! まだ完全に慣れたわけではないのですから」
割としょっちゅうそういう事故が起きるんだから、いい加減慣れろというものだ。
と、言いたいところだが、最初と比べるとマシになったことを考えるとなんとも言えない。
「で、 確か現地集合だったよな?」
「ええ、鱗の泉まで向かわなければいけません。しかし、中々の距離なので、ここから歩くとなるとそれなりに時間はかかるでしょう」
「なるほど、竜やら盗賊やらのせいで乗り物は使えねーわけだな」
そもそも、それを討伐するのが目的の一つなのだ。
そこに簡単に馬車でいけるのなら、いちいち騎士団なんて出てこないだろう。
「馬車より走ったほうが早いけど、合宿前に体力を削りたくないなぁ。僕らの班、初日から盗賊退治でしょ?」
「俺は全然平気だけどな。寧ろ馬車は嫌だ」
酔うのはもうこりごりだ。
「体力は残しておきたいですが、致し方ありません。我慢して歩きましょう」
「むー」
この状況………アレの出番のようだ。
俺が密かに作っていた秘密道具を披露する時が来たらしい。
リンフィア達にやった分を除いても予備が2台あるので、人数的には足りるだろう。
「他に移動手段があるっつったら、どうする?」
「え!! 本当に!?」
「個人用の馬車でも持っているのですか?」
「うんや、持ってねーよ。だが、車は車、2輪車だ」
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俺は、夜な夜なこっそり抜け出して、訓練をしている。
しかし、それ以外にもやっていることがあった。
俺は、闇市で買った大量の鉄などの金属を使って、バイクを作っていたのだ。
一度銃を作った俺は、金属を使ってものを作るスピードが、格段に早くなっていた。
それもこれも、“神の知恵”のおかげだ。
これは、単に知識を与えるものではない。
知恵というのは、物事に対する処理能力。
つまり、神の知恵を持った者は、剣術だったらその扱い方などが、飛躍的にレベルが上がる。
だが、当然リスクもある。
本人が行使可能なレベルとあまりにかけ離れすぎると、使用者は何らかのペナルティをくらうのだ。
だからトモは、俺にこいつを与えた。
これを使いこなせる人間として、俺を選んだのだ。
さて、話を戻すが、俺はバイクを数日で作成した。
設計図は頭の中ですぐに組み立てられたので、割とすんなり作れた。
酔わないよう、重力魔法の付加をつけ、オーバーヒート対策もバッチリ。
マックススピードは新幹線以上で、風の抵抗もなるべく無くしている。
色々付加をつけられたのは、ラビのダンジョン内の鉱石が復活して、量が増えていたのが大きい。
前準備がちゃんと役に立ち、完成まで漕ぎ着けたのだ。
今までは、作っても乗る機会があまりなかったので、今回は試運転には丁度いい機会だ。
「珍妙な………鉄の乗り物?」
「またありきたりなフレーズだな………だが、まぁそんな感じだ。この鉄の塊はバイクっつーんだ。馬車より全然速いぜ」
「「………………?」」
2人とも訝しんでる。
そりゃそうか。
この2人にとって、バイクは未知の乗り物。
そもそもこれは科学文明が発達した現代の乗り物なのだ。
別ベクトルに発達した文明の物など、戸惑うに決まっているというものだ。
「一回乗って見せっから、よーく見てろよ」
乗降手順が面倒なので、いくらか省けるように作ってある。
サイドスタンドを払って、バイクに跨った。
ごく少量の魔力を流し、ガソリンの代わりに入れた魔力タンク内の魔力に接続する。
すると、重力魔法が起動し、足を浮かしても安定して自立した。
グリップの横にボタンが付いており、オートとマニュアルが選べる。
ここで言うオートは起動から加速までを自動で行うモードだ。
時速30,80,150から選ぶことが出来、それ以上はマニュアルで行わなければならない。
マニュアルは完全に自分で行う。
と言っても、普通のバイクと違い、クラッチなどがなく、魔力操作で動かす。
俺は勝手がわかるのでマニュアルで運転する事にした。
「よし、行くぜ!」
アクセルを捻り、魔力を操作する。
バイクはゆっくりと加速していく。
ゴォオオン!! と大きな唸り声を上げ、どんどん速くなっていった。
「あっはっは! 最っ高!!」
自分で走ったほうが早いのだが、気分が違う。
やはりバイクは最高だ。
「うわぁ! すっごいね、それ!」
「アレほどの魔法具を………」
興味を示したようだ。
なら結構。
では、この2人にも乗ってもらうとするか。




