第303話
「お、うまく追っ払ったみたいだな」
戻ってくると、ラビがエルと一緒に悠々と日向ぼっこしていた。
余裕の表情だ。
「あ、戻ってきたのです」
「まぁ、ししょうはしっぱいするわけないよな」
エルは、俺がいないときはラビの頭の上に乗っていることが多い。
お気に入りのようだ。
ラビはラビで、エルのぷにぷに感が気に入っている。
ダンジョンに関わってるもの同士、通じているのだろう。
「あっしょうだったか?」
「当然だ。あの程度の雑魚に手こずってたまるかっつーの」
「さすがししょう。バケモンだな」
「エルも出来るのです。むん!」
ヒレを持ち上げて力こぶを作るようなポーズをとる。
もちろんそんなものは出来ないのだが、バハムートのエルにとってはさっきの連中程度朝飯前だろう。
「いずれお前にもこの程度は追っ払えるようになって貰うぞ」
「うん、ワタシもっとつよくなるぞ。エルもししょうもこえて、ははうえをまもれるようにするんだ」
こいつが今一緒にいる理由は、母の力を奪った“迷子”を倒すためだ。
連中の力を見る限り、生半可な事では倒せないだろう。
「ま、時間はまだあるんだ。じっくり進もうぜ」
「そだな」
さて、今日はこんなもんだろう。
「一旦帰るとするか。外に人がいるか確認してくるから待ってろ。ゲート通って帰るから、アイテムが移ってたら後で戻しといてくれ」
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「へぇ、今日はラビちゃんと訓練してたんですか? お休みなのに頑張ってるんですね」
その日の夜、俺はリンフィアと談話室で近況などを話していた。
「これでもあいつの師匠だしな。こう見えて俺は意外と面倒見のいい奴なんだぜ?」
「はい、それはみんなよく知ってると思います」
おっと衝撃の事実。
それはマジかよ。
「ケンくん悪い人にはかなり辛辣ですけど、一度味方だって認めた人にはものすっっっっっっごい優しいですもん」
「小さいつが多いですよ、リンフィアさん」
そこまで強調しなくても
「そう言えば、お前も今度の合宿に選ばれたんだろ? 流石だな」
「まぁ、ケンくんと一緒にいれば、あれくらいの殺気には耐えられるくらいにはなりますよ」
こいつも成長したもんだ。
初めて会った時はめちゃくちゃ弱かったのに、今ではここまで強くなっている。
………いや、違うな。
こいつは最初から強かった。
屈強な心を、精神を持っていた。
そうでなければ、奴隷に落とされた身の上でここまで素直に笑えるわけがない。
思うところがあった俺は、リンフィアの頭に手を置く。
「わっ! ど、どうしたんですか?」
「なんとなくだ」
こいつといると、妙に落ち着く。
人柄もあるのだろうが、何かに惹かれているのは確かだ。
きっとこいつは、いろんな人に好かれるやつなのだ。
と、油断していると、リンフィアが頭に置いた俺の手を掴んだ。
嫌だったか? と思って退けようとすると、俺の手をぎゅーっと抱えた。
「ど、どうした?」
「えへへ、なんとなく、です」
俺は一瞬目を丸くしてリンフィアと顔を見合わせると、思わず吹き出してしまった。
「ははは、こいつは一本取られたな。やっぱお前、俺の相棒だわ」
「そうですね。ここだけは、ラビちゃんにも、ニールにも、エルちゃんにも、レンくんにも、コトハちゃんにも譲れません。ケンくんにとって、この世界に来て最初の相棒は私なんですから」
リンフィアは優しく微笑んだ。
この笑顔が、 俺はたまらなく好きなのだ。
「じゃ、そろそろ時間なので戻ります。おやすみなさい、ケンくん」
「おう、また明日な」
翌日、俺はラビと罠を使う練習をし、翌々日は、普通に学校。
2日ともリンフィアとどうでもいい話をした。
実のところ、この学院に来てからは、この時間は俺の楽しみの一つでもある。
そして、合宿本番の日を迎えた。
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「無念です………よりによって男と同じ組みに………ッ!」
ミレアは出発前にそう嘆いていた。
測定の結果、順位は俺が1位でミレアが2位、3位がシャルティールだったため、俺たち3人で組む事になったのだ。
「というか、貴方のそれズルいじゃないですか! 学院長やファルグ先生もご存知なら特別枠など設ければよろしいでしょうに!」
「文句言うなっつーの。俺なだけマシだと思え」
「はっ! 何を思い上がっているのですか? 貴方が私にとってマシな方だと?」
「こいつ! ちょっと慣れたからって調子に乗りやがって!」
どうやら、 俺相手なら多少マシになったらしく、あたりが強くなった。
この合宿、大丈夫だろうかと心配になってきた俺だった。




