第301話
とは言ったものの、今はちょっとラビでは手に負えそうもないので、対竜種の方は俺が面倒見るか。
「よし、課題を出してやる」
「かだい?」
俺は手を開いて五を示す。
「5手以内だ」
「5ていない?」
少しは訓練が必要だろう。
基本ダンジョンというのは、決まった場所にモンスターや罠を設置する。
しかし、生物迷宮はモンスターを自在に設置可能なため、攻略が非常に難しい。
軍でいうと、大隊vs班みたいなもんだ。
故に、クリアした報酬は大きいのだが。
そういうことなので、こいつには戦略を練る練習をしてもらう。
「対竜種じゃない方のチームを撃退しろ。ただし、使っていいのはモンスターのみ。スライム、サーペント以外は量産禁止でゴーレムとハーピィは一体だけ許可する。あ、量産も10体までな」
「おー、おもしろそうだな。やってみる!」
「一応、2階上がってくるようだったら、ドラゴン総出で行け。新種もバンバン出していい。攻略されることだけは避けろ」
ラビ達は、生成した迷宮がクリアされると、力を失い、命を落とす。
ラビの母が死ななかったのは、力をラビに途中まで譲渡していたためだ。
「うん。きをつける」
俺は換装魔法で着替えた。
仮面と動きやすいように作った薄めの装備。
変装としては丁度いいだろう。
「いーなーししょう。それかっこいいなー」
「そうか? なら、今度好きなやつ作ってやるよ。ま、勝てたらだがな」
「ほんとか!? じゃあ、ワタシがんばるぞ!」
モチベーションが出てきたようだ。
さて、俺もそろそろ連中を片付けるとしよう。
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ルクス一行はダンジョンを探索していた。
上等クラスなだけあって、普通のモンスターでは全然太刀打ち出来ていないようだ。
「楽勝楽勝。つーかドラゴン全然出てこなくなったな」
「ついでにお宝もなし」
「そこだよなァ。一番致命的」
宝のないダンジョンなんぞ、刃の無い剣のようなもの。
それでもここに残っているのは、せめて攻略しておきたいと言う一点のみから。
もちろんモチベーションは低い。
「張り合いのねーダンジョンだ。なぁルクス」
ルクスは難しい顔で目を見据えている。
何かを感じ取ったのか、少し警戒心を強める。
「お前達、構えたほうがいい。何か来る」
「何かって………あん?」
すると、ルクスが言った通りその何かが現れた。
それは、面を被った剣士だった。
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こいつらか。
成る程な。
これはラビには少し厳しそうだ。
少なくとも、今のラビは切り札が出せないし、俺が出て正解だった。
「アンタ冒険者か?」
「………」
俺は何も言わない。
必要最低限の言葉しか発さないつもりだ。
俺に関して与える情報は少ないに越したことはない。
「うっへぇ、暗い奴だ」
「返事くらいしてもいいじゃんか。別に俺たち盗賊でも何でもねぇんだしよ」
「ガラは悪いけどな」
「間違いない」
ゲラゲラと愉快そうに笑っている。
言っている通り、 ガラは悪そうだ。
まぁ、人のことは言えないけど。
さて、忠告くらいしておいてやるか。
「ったく、いい加減………」
「去れ」
俺は一言そう言う。
連中は、明らかな拒絶を示された、一瞬ぽかんとしている。
「おいおい、流石にそれは無理っしょ。ダンジョンにそんなルールはねぇんだしよ………あまり舐めてると痛い目見るぞ?」
流石に納得するわけでもなく、突っかかってくる。
俺はおまけでもう一度忠告をする。
「俺はこのダンジョンの者だ。番人として再度忠告する。去れ」
武器を取りだした。
全員戦闘態勢を取っている。
もともとそこまで説得したいとも思って無かったので、別にいいんだけどな。
「つまり、 モンスターと同等と言うことだろう? 番人だか知らないが、邪魔をするのは許容しない。文句はないかい?」
「………」
イエスのつもりで黙っていると、 どうやら通じたらしく、すでに一触即発の状態だった。
そして、
「殺れ」
連中は声を聞くと同時に、杖を掲げ、剣を振り、弓を引いた。
さて、数日ぶりの実践。
………いこうか。
今持っているのはいつもの木剣ではなく、安物の長剣。
こう言う連中にあの木剣を使うのは嫌なので、真剣で戦うことにした。
まぁ、もう終わってるがな。
キン………ッ
彼らが、剣が鞘に収まる音を耳にするころには、武器が真っ二つに割れていた。
対竜種の杖もやってしまったが、まあいいだろう。
「「———————」」
言葉が出ずに唖然としている。
いやー、スカッとするね。
俺は大げさに腰を低くして、抜刀の構えを取り、殺気を発した。
「「!!!!」」
「死にたくなければここの事は誰にも言わない事だ。もし言えば………………そこに落ちている武器のように、貴様らを斬って捨てよう」
俺が殺気を解くと、連中は緊急脱出し、ダンジョンから居なくなった。
これでこのダンジョンが他の連中にバレる事はない。
恐怖を超える縛りなど、無いのだから。




