第298話
俺たちは、必要最低限の作業を終え、休憩していた。
草原なので、結構居心地はいい。
「なーししょう、なんでもりだったんだ? かくれるためか? でもそれにしてはけっこうてまえだよなー?」
「簡単な話だ。何もない平地だと目立つ。だが、隠れるにしても森の奥だと魔力がこもりやすいから、それなりに高難度のクエストを受けるやつが多くなって、今のお前は手に負えん可能性もある」
ただでさえ森の奥は高レベルなモンスターが湧き易いのに、マギアーナは特に強いモンスターが出やすい。
「その点、手前の方だと、ぱっと見目立たないし、初心者がうろつき易いだろ?」
「でもそれなら、かくにんしてからつくったほうがかくじつじゃない?」
「確認なんざしなくても、良いように餌は撒いた。この辺のホブゴブリン見たろ? さっき出る前にクエストを依頼しといたから、それを見た低級クラスの生徒がクエストを受けに来る。学院の生徒専用だから、下手に強い冒険者も出てこねーよ。連中は基本甘いし、実験台にはもってこいだ」
あわよくば、1組くらいは上等の連中が欲しいが、欲は言わないでおこう。
ちなみに、説明が面倒なので言ってないが、外装にわかり易い特徴をつけたのは、万が一失敗した場合、次のダンジョンが同じものだとバレるのを防ぐためだ。
「他にも色々保険と次への準備はしている。3歩先を読むってやつだ」
「おー、ししょうすごいな!」
「ま、練習っつっても、今回はモンスターの性能を調べるくらいにしとけ………お、さっそくか?」
ラビが何かに気がついたらしい。
じっと遠くを見つめている。
「きたぞ」
来た。
最初の獲物だ。
「上手いこと網に引っかかったか。どうだ? 強そうか?」
ラビは内部の様子を事細かに知ることが出来るのだ。
侵入者の様子をじっと観察する。
「うーん、たたかってないからわからん」
あっけらかんとそう言った。
呑気なやつだ。
「だから、まずスライムをけしかけてみる」
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「わぁ、広い!」
ワンダ達はここがダンジョンだと言うことを忘れたようにはしゃいでいる。
「草原だ!」
洞窟や塔などのダンジョンばかり入っていたワンダ達にとっては、こういうタイプのダンジョンは初めての体験だった。
「珍しいタイプじゃない? やっぱり大発見?」
「見たことないね………!」
「期待できるよね!」
「うん!」
キャーキャーとはしゃぐ彼女ら。
些か緊張感に欠けているようにも見える。
しかし、一応やるべき事はやっている様子だ。
「周辺にモンスターや他の冒険者の気配はないね」
「罠は?」
「とりあえず、周りにはないよ」
この安全確認は、ダンジョン攻略の基礎中の基礎であり、もしもの時に命を救う鍵となるのだ。
ワンダ達は、安全確認を済ませてひとまず集まった。
「まず、モンスターの強さをさぐろう。勝てそうなのばかりだったら思う存分探索すればいいし、ダメそうだったら脱出すれば良い」
ダンジョンには、一瞬で脱出するためのシステムが付いている。
念じながら、“離脱を宣言する”と言えば離脱できる。
しかし、その場合は通常の脱出よりも多くアイテムを奪われる。
「緊急脱出は本当にいざとなったらだからね」
「もちろん!」
「急に入ったから取られると困るしね」
「そうだね」
「せっかくのチャンスを逃したくない!」
全員一斉に頷く。
探索を開始するつもりだ。
「それじゃあ、早速——————」
ワンダが声を上げると同時に、前方からのしのしと青い物体が近づいてきた。
そう、スライムだ。
「スライム?」
プルプルと体を揺らしている。
そう思っている次の瞬間、豹変したスライムは、一行に襲いかかった。
「! 任せて!」
ワンダは剣を構え、魔法剣を発動する。
「セァアッッ!!!」
【ファイアソード】を無詠唱で発動したワンダは、スライムを袈裟斬りにした。
中心から綺麗に分かれる。
そして、スライムに燃え移った炎が、スライムを焼き始める。
「ふぅ」
一息つくワンダ。
しかし、剣を収める様子はない。
「さっすがワンダ」
「この調子だと案外楽勝かもね」
「そうだね。でもまず、残りのスライムを全部片ずけよう」
まるで様子を見ていたかのように、次々とスライムが湧いてくる。
背中合わせになり、再び戦闘態勢をとる。
そして、合図と共に一斉に飛び出した。
「みんな行くよ!!」
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「状況は?」
俺は大まかな状況は把握できても、細かい状況をラビに尋ねた。
「けっこうしんちょうにたたかうタイプっぽいぞ。ひとりだけじゃっかんつよいのがいるけど、もんだいなさそう」
「そうか。なぁラビ」
「ん?」
「何で草原を選ばせたか、わかるか?」
実は、草原にするように言ったのは俺である。
本来、迷路や洞窟の方が撃退しやすいのだが、そうしたのには理由がある。
「モンスターになれるため?」
「正解」
罠の設置よりはモンスターの運用のほうが難しい。
生きているので当然だ。
戦闘を計算するのは、知識と経験が必要。
そして、モンスター1匹1匹の癖を知る必要がある。
だから、慣れなければならないのだ。
「戦略云々よりも、今回は力だ。自分の手駒を知る機会だ。さぁ見せてみろ。今のお前のダンジョンとしての力を」
「おう!」




