第297話
「これが、あたらしいワタシのダンジョン………………」
ラビは、目の前にそびえ立つ神殿のような入り口を見てそういった。
「いや、これ俺が作った入口だから。お前まだ入ってもねーだろ」
作ったあと、入口だけがポツンとあったのがお気に召さなかったらしく、入口を作れとせがまれたため、簡単な物を周囲の木を使ったり、土魔法を使ったりして作った。
「だってー、こんなあなしかないダンジョンに入りたくなるか? それともうちょっとこってほしかった」
「引き摺り回すぞテメー」
俺は青筋を浮かべてラビにそう言った。
落ち着け俺。
俺は心を落ち着かせつつ中に入った。
なかは特にこだわって無いのでシンプルだ。
また文句言うなー、と思っていたが、どうやら中が気になるらしい。
「なーなー、まずなかにはいろう!!」
ラビがグイグイと服を引っ張ってくる。
入らなくても自分で作ったんだからわかるだろうと思うが。
「はしゃいでんなお前」
「もちろんだ。なにせやっとダンジョンらしいことができるんだからな。ここのせいとをたくさんえじきにして、ざいほうのかずをふやすのだ」
ダンジョンの攻略に失敗すると、所持金やアイテムがアイテムボックスなどの空間系の生活魔法内、またはポーチなどから抜き取られるのだ。
転送時に空間に干渉してランダムに奪うという仕組みだ。
ゲートのないダンジョンも、未クリアの状態で入口を通ると、ちゃんと抜かれている。
「確かに、宝はダンジョンの醍醐味だしな。宝ってのはロマンが詰まったもんだ。うん」
「とう!」
話聞けよ。
そう思ったが、ラビはゲートに飛び込んだので、
言ったとしても聞こえなかっただろう。
「あ、おい!」
そして、この瞬間からダンジョンとして機能することになる。
「この野郎! 先走ってんじゃねぇ!」
ラビを追いかけて、ダンジョンのゲートに触れる。
ゲートに触れた瞬間、景色がパァっと変わった。
よくゲームなんかで見るようなゆらゆらした空間。
空間移動の際に見える空間同士の間を見ているのだ。
「久々にこれを見たな」
色鮮やかな空間。
だが、この空間に関しては俺は何も知らない。
知という概念では説明できない不可思議な空間なのだ。
ただそこにある。
次元の狭間からは二度とでられない。
よく聞くフレーズだが、この世界の場合、閉じ込められ、世界から断絶された瞬間、存在や生命といった概念からも外れてしまうからだ。
そりゃあ、 出られないだろう。
空間そのものになってしまってるのだから。
そして、目的の場所に到達する。
「っと」
視界が一瞬で開けた。
草原だ。
あの真っ暗な洞窟とは違い、大分明るい。
「ししょう!」
ラビが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ひろいだろ!」
「確かに、こいつァ広いな」
3層構成にしているが、1層だけでも前よりずっと広い。
これほど広大とは、流石想像以上だ。
「ワタシもせいちょうしたということか」
「だな。さて、トラップにモンスターに宝。設置するもんは山ほどある。取り敢えず、最下層に攻略印を置いて、中盤に保険、この一層に集中してダンジョンを作ってみろ」
俺がそう言うと、ラビはせっせと作業を開始した。
予想が正しければ、あと数時間だ。
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「いたか?」
「ダメ、 全然見つからない」
魔法戦闘科・下等クラス一組に所属する少女、ワンダはクエストを受けていた。
平々凡々な彼女は、少しでも戦い慣れるために、今日もクエストをこなしている。
今回のクエスト内容は、ホブゴブリン5匹の討伐だ。
「ホブゴブリンをあと2匹………」
「ワンダ! 見て!」
仲間の1人が声を掛けた。
何だろうと思い、近くに行くと、そこには見覚えのない神殿のような建物があった。
「前来た時こんなのあったっけ?」
ワンダは壁に触れてみる。
どうやら木で出来ているということに気がつく。
変わった建物だと思って調べていると、中にゲートがあった。
「………!」
「ダンジョンだ………」
「新しいダンジョンかな?」
こんな風に、ダンジョンは急に現れるものだ。
全員、得もいえぬ気分に包まれた。
初めての状況に対する不安や、新発見したことによる高揚感などが入り混じって、不思議な感覚になっている。
「もしかして、大発見かも?」
友達の1人がそう言うと、ぐちゃぐちゃしていた感情がはっきりと形を成した。
今はみんな、高揚感でいっぱいになっている。
未確認のダンジョン。
冒険者の端くれなら気にならないわけがない。
未確認の突発性ダンジョンと言うことは、誰も手に入れたことのないお宝が眠っているかもしれないのだ。
「ねぇ、入ってみない?」
「奇遇ね、私もそう思ってた」
どうやら、全員同じ意見らしい。
万が一、ダメそうだったら逃げかえればいいのだと思っている。
「じゃあ、入ろう!」




