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第292話


 「最初のと違って、集中力はあんましいらん種目だから、これも全員まとめてやるぞー」


 クラスの生徒が全員円になった。

 中心にはファルグが立っている。


 「そんじゃ、全員リングから糸を出せ」


 俺たちは指示に従って、リングに魔力を込める。

 すると、中央に向かってあらゆる方向から糸が出てきた。


 「いいぞ、そんな感じだ」


 糸の本数が徐々に増え、それらは結びつく。

 そして、


 「よし、出来たな」


 リングの穴が埋まった。

 流石特科と言うべきか、全員目に見える隙間はない。

 ファリスが自らスカウトに行った生徒たちだと言うだけのことはある。


 「じゃあ、上に筒を置け」


 透明な筒をリングの上に置く。

 準備は万端だ。


 「いいか? この紙が最後まで破けてしまえば不合格。一発降格だ」


 生徒たちはゴクリと息を飲む。

 なんと言っても最後だ。

 ここでしくじれば全て無駄。

 緊張もすると言うものだ。



 「ま、多分ないだろうがな。10枚もあるんだ。そう簡単に破けはせんよ。ただ、一枚も破けないってのを見てみたいね」


 かなりの難題だ。

 しかし、それが可能な生徒の集まりがこのクラスである。



 「では行くぞ。よーい………………」



 水を流し込まれる。

 さぁ、スタートだ。



 「開始ッッッ!!」



 紙を下に引き、カウントが開始される。

 全員顔つきが一気に変わる。

 そして、やはり特科と言うべきか。

 その辺の魔法使いと比べて練度が全然違う。



 「ふむ、やっぱ優秀だな、お前ら」


 そう言うファルグの右の口角が少し上がる。


 (だが、お前らはそろそろ水を選んだ理由を知ることになるだろうな)


 



 「なんだ、思ったより簡単だな」


 「うん、確かに」


 「楽勝じゃん」


 みんな楽観している。

 分かっていない、と俺は思った。

 これは言わば雑巾だ。

 小学生の頃、学校の掃除の時に、雑巾を洗おうとして雑巾を水がすり抜けていく事を不思議に感じた事があるだろう。

 つまり、



 「ん?………………!! うわっ!?」


 水は染み出してくる。

 完璧に隙間をなくさないと、小さな隙間から垂れてくる。



 「滲んできたぞ!?」


 「マズイ、これじゃAランクなんて無理だ!」


 「それどころでもないかも………!」


 テストは、毎度毎度内容が違うらしい。

 なので、種目によっては全然慣れていないものをする可能性も大いにある。

 だが、



 「おぉ、流石会長だ………水が一滴も垂れていない!」


 トップの人間は、不慣れに対して一瞬で適応し、行動する。


 「ぐぬぬぬ………あの、女………またっ、上達してやがる………っ」


 そうガリウスは言うが、今の所互角だ。

 ただちょっと無駄な力が入っているが。

 取り敢えずアドバイスだ。


 「やっぱいい感じだな、ガリウス。全く溢れてねーじゃん」


 「あ、アニキ………………何でそっ、んな、に余裕な、んっスか………っ?」


 「お前が力み過ぎなだけだ。そういうのは魔力にも影響が出るぞ。ほれ、肩の力を抜いて、淀みなく魔力を流す」



 「うッ………ッス!」


 お、ちゃんと力が抜けてる。

 やっぱ才能はあるな。

 潜在能力こそ及ばねーが、覚えの速さはリフィやラビに匹敵してる。

 そういえば、ラビには最近短剣の稽古しかつけてやれてねーな。

 しかもゴーレム越しだし。

 そろそろダンジョン運営も考えるか。

 

 「っと、テスト中だった」


 今のところ一切水が垂れていないのは、俺、ミレア、ガリウス、シャルティール、フォナだ。

 ウォルスはこれが苦手らしく少し溢れてしまっている。

 


 「残り30秒」


 ここまで極端に短いのは、おそらくこの魔法具が少々難しい設定になっているからだろう。



 「わっ、やばいのね!!」


 ここでフォナが水を零す。

 残りノーミスは4人。



 「これ………けっ、こう………」


 「ま、魔力が………!」


 疲れが出始める頃だ。

 魔力を張り続けるには体力を消耗する。



 「「………」」


 ミレアは一切言葉を漏らさず取り組んでいる。

 ここで余裕ぶっこくと怪しまれそうなので、難しい顔をした。



 「「うわっ!!」」



 シャルティールとガリウスがほんの一滴零す。

 つまり、残るノーミスは俺とミレアのみだ。



 「………演技が上手いですね」


 ミレアは突然口を開いた。

 喋る余裕があるのかと思ったが、喋った方が気が紛れて長持ちするという考え方もある。


 「まーな」


 ボロは出さねーぜ! と言いたかったが、何故か神妙な雰囲気になってるので自重した。


 「貴方は以前、自分が狂ってると言いましたが、私にはそう見えません。普通に私たちと同じように見えます」


 「はぁ………自分で言ったろ。演技が上手いって。ズバリ言い当ててんじゃねーか」


 ミレアは頭の上にハテナを浮かべている。

 何のことだろうと思っているのだろうが、実際そうとしか言えないのだ。


 「俺はな、人間の演技をしている悍ましい“何か”だ。自覚したのは2,3年前だけどな」

 

 「なぜ、気がついたんですか?」


 「家族が全員居なくなったからな」



 「っ………!」



 ミレアは動揺したのか、ほんの少し水をこぼしてしまった。


 「そこまで——————」



 決着だ。

 俺は紙を退かして、リングから魔力を消した。

 下に水が流れ出す。



 「いやーな勝ち方したな。悪りぃ」


 「いえ………その………」

 

 「皆まで言うな。俺に憐れまれる資格はねぇ」


 ミレアは微妙な顔をしているが、本当にそうなんだ。

 俺は、許されないのだ。



 「暖かいものに囲まれていると、自分も暖かいんだって、勘違いしちまうんだ。それが離れてからやっと気がつく。自分に暖かさは無く、どこまでも無情で、酷く冷たいって事をな」



 この時、俺はどんな表情をしていたのだろうか。

 俺はそれがわからない。

 だが、一つわかるのは、俺を見るミレアの眼が、蓮や琴葉、そしてリフィが、時々俺に向けてくる………哀しそうな眼だった事だ。

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