第285話
「では………」
全員球体を胸の前に掲げる。
集中し、魔力をゆっくりと流し始めた。
そして、
「開始!」
爆発的ではなく、すーっと滑らかに魔力を流し込む。
動かすのは最低限でいい。
ただし、他の玉との距離を一定に保ちながら、動ける範囲を確保する。
「………60」
先ずは1分だ。
ここまではどうと言うこともない。
特科なら楽勝だ。
そしてここから黒玉が増える。
急に脱落者が増えるのはそう言うことだ。
「なぁ、ガリウス、これ地味だな」
「そうっスね………って、喋って大丈夫なんスか!?」
「いいんだよ、ちょっとくらい。5分超えたら集中する」
「スゲェ………流石アニキ! ただもんじゃねぇぜ!」
「はっはっは」
どんどん時間が経過する。
まだまだ余裕だ。
「120」
Bランクのラインを突破した。
そして、今のところ誰も落ちていない。
「お前、随分余裕そうだな」
ローゾルは、余裕そうに球体を持っていた。
「ふはははは! 強者というものは常に余裕なものさ。この高貴なる僕にかかれば、この程度朝飯前。なんせこの種目は学年でもトップだからね」
少し声のボリュームを落とす。
「だから今度こそ、この僕が会長と同じグループになるのさ」
大好きだな、こいつ。
待てよ?
こいつ、3番手じゃないのか?
「いつもはシャルティールとフォナに場所をとられてしまうからね」
あのチャイナ、そこまでの実力者だったか。
「だから、今度こそ勝たねばなるまいよ」
「おお、燃えてるな。ま、精々頑張れや。俺はグループに関しちゃどうでもいいからよ」
「ふっ………そうかい? 何にせよ、君に負けるつもりはない」
「ほー、自信満々だな。俺を超えられるかな?」
そろそろ五分だ。
ここからが勝負。
と、その前に。
「ぷぎゅっ!!」
ようやくここでオタクが脱落した。
惜しかった。
残り20秒でAランクだった。
「280。惜しいな、エドゥラ」
「ぼきゅはまだまだ修行が足りなかったようですねん」
20秒後。
Aランクに突入する。
「300。よくここまで来た。さァ気張れよ」
キィィィン………!
「「ッッ………!!」」
黒玉の数が一気に増える。
これはなかなかきついだろう。
俺も演技を入れなければ。
「くっ………! 」
「やはり………っ、Aランクはキツイ………!!!」
「ムィィなのね!!!」
この2人も保ってあと30秒ほどか。
後の事を考えると、ここでは1番を取るべきではない。
「あっ、そっちじゃないのね!!」
そのまま崩して、ファナ脱落。
残るは俺とローゾルだ。
「………」
「………!!」
おそらく後数秒だ。
ミレアの記録までは辿りつけない。
だが、立派な結果だ。
クラスで3番以上は確定。
こいつは口だけの坊ちゃんではなかったのだ。
「………僕は、全身全霊で勝ってみせるッ!!」
「!!」
これは、ただのテストだ。
それでも、こいつは本気でやっている。
ならば、それに応えるべきだろう。
そして——————
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「………まさか負けるとはね。この高貴なる僕も認めざるを得ない様だ………君の力を」
俺も、こいつの評価を改めるべきだろう。
存外、ガッツのある男だった。
「お前もスゲェじゃねーか。正直、只のボンボンかと思っていたがよ、オメーは違うらしい」
「ふっ………当然さ。高貴なるこの僕は、いつだって努力をする。驕り高ぶった貴族とはそこが違う。覚えておきたまえ」
「態度はデケェがな」
まぁ、それもこいつの特徴だ。
「今度は君に勝ってみせるよ。次の測定まで首を洗って待っているがいい」
「おいおい、まだ他の測定があるだろうが」
「苦手だから無理!!」
いっそ潔い。
無理なのか。
「僕は魔法技官志望なのさ。だから、他はこのクラスの平均程度しかない」
魔法技官とは、魔法具や魔法武具などのマジックアイテムを専門に扱うお役人だ。
この世界の公務員の様なものである。
だが、さっきのセリフから見て全部得意なのかと思っていた。
「いやさっき、会長がどうとか言ってたじゃん」
「ノリだ」
「ノリか」
ノリなら仕方ないな。
「ちなみに、魔法技官志望なのに技術科ではなく特科にいる理由は、僕が優秀なのと、出世が早くなるからさ………さて、ケンよ」
ローゾルは手を差し出してきた。
「今一度握手だ」
「おう」
俺たちは改めて握手を交わした。




