第279話
「未確認魔法研究クラブ?」
「そうだ。新魔法の創生や研究などを目的としたクラブだ。未確認魔法は、特科の最終的な研究の目的の一つだから今まで必要ないと思ったが、お前のような奴がいれば、研究はさらに向上するだろう」
「なるほど」
それは願っても無い。
元々、ここで何かを学ぶ気は無かったので、魔法の研究を主として生活しようと思っていたのだ。
その上マスターキーを貰えるのであれば、俺は満足だ。
「何個も作れとは言わんよ。新魔法の創生など、本来は人の手には余るものだからな」
「………」
ここに関してはちょっとした誤解がある。
新魔法を作ると言うが、今まで成功した創生は、全て古代の時代に存在した魔法なのだ。
逆に言えば、本当の意味で新しい魔法は存在しない。
複合創生で作った鉄魔法も、本来は鉄魔法として独立して存在していたのだ。
「流石に、タダ働きをさせる訳にもいかないので、マスターキーの使用許可は、一つの研究を終わらせてからにしてくれ」
「そうか。だったら今すぐくれ」
俺はファリスに手を差し出した。
「ケン君、話を聞いていましたか? 学院長は研究を終えてからと仰ったのですよ」
「だから、俺が作った新魔法を一つくれてやるから鍵寄越せっつってんの」
「!?」
魔法にもいくつかのルールがある。
ただし、それを守られれば、かなり便利だ。
基本的に万能である。
古代の魔法が消えた理由はその万能さにある。
たとえ鉄魔法を駆使すれば、一夜にして大軍を作り出す事が可能、と行った具合にだ。
なので、教えるのは比較的危険度の低い魔法にする。
「音魔法っていう魔法だ」
「音魔法?」
「実際に見せた方がいいな」
俺は手を前に出し、目の前のドアのガラスに向けた。
魔力が集まっていく。
「音五級魔法【サウンドクラッシュ】」
ブゥゥンン………
低い音が鳴り響く。
だが、俺の手には一切変化がない。
わかりやすい見た目の変化はないのだ。
「フン、何も起きないじゃないか」
レイは俺にそう言った。
だが、それは正しくない。
「もう起きてるぞ」
「何?」
すると、ピシッという音を立ててガラスが割れた。
「!?」
「これが音魔法だ」
「せ、説明を頼んでもいいか?」
「この音魔法というのは、正しくは音を操るのではなく、音の元となる振動を操る魔法だ」
「そんなものを操ってどうする」
「分かんねーか? 振動を操るという事は振動を増幅させたり減衰させたりできる。つまり」
俺は割れたガラスの近くまで行くと、それを無造作に踏みつけた。
しかし、そこでは本来必要なものが消えていた。
「音が聞こえない………?」
「そうだ。自分の周囲の音も消せる。こう言った応用も可能だ」
「様々な応用が可能………研究のし甲斐があるな! ぜひ教えてくれ!」
俺はファリスと、ついでに生徒4人にも基本の術式を教えた。
「こんなもんだな。満足したか?」
「ああ。面白い魔法だ。流石だな、ケン………して、一つ尋ねたい事があるのだが………」
「学院長、それ以上尋ねても彼はおそらく答えませんよ」
む、先に言われたな。
誰だ?
そう言ったのは、レイと同じ髪色でローテールをした奴だった。
顔も少し垂れ目だが、レイに似ている。
「申し遅れた。私はルイ・ウェルザーグ。そこにいるレイの兄弟だ」
「そうか。ふぅん………」
そういうところも兄弟で一緒なんだな。
「お前ら一族では女装男装が流行りなのか?」
ルイを除いた全員がギョッとした。
ルイはニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
「へぇ………気がつくとはね。中々いい目じゃあないか。妹の変装を見破っただけのことはあるよ」
「ちょっ、兄さん!」
ほじくり返されたくないのか、レイが声を上げる。
「私のこれは完全に趣味だ。が、この方がイシュラ会長に近寄ろうとする虫も少ないので便利なものだ。全く………会長に少し人まえでは披露できないような事をしても許されるのはこの私だけだというのに」
やべぇ、こいつ変態だ。
「はは………」
イシュラの笑顔が引きつっている。
ミレアは完全にドン引きし、レイは困ったように頭を抱えている。
「中々見所がありそうだし、やはり惜しい。うちに来ないか?」
「やだよ、いちいちメンドクセー」
適当に返した。
「掴めない男だ。うむ、やはり私の好みだなぁ」
やべぇ、マジやべぇ。
妹とは違って明るめのキャラなのでとっつきやすいはずだったが、いかんせんそのキャラがイかれてるときたもんだ。
イシュラも大変だ。
「それじゃ、俺は帰るぜ」
「ケン君、この後の測定には参加しなさい。これだけはサボられると困りますから」
「へいへい」
このまま帰って途中参加するのも嫌なので、午前中はこのままフケる事にした。
屋上ではサボれないのでちょうどいい感じの場所を探す。
「良いのですか、会長。奴はおそらく授業をサボりますよ」
「大丈夫です。そう思って、当直の風紀委員を配置していますから」
風紀委員は、警備のために授業を受けない日が週に一度ある。
当直は1日に3人ほどである。
「流石会長、感服いたしました」
「さぁ、私達も授業に戻りましょう。学生の本分は学業ですから」
「はい」
そう言って、互いに教室に帰っていった。
「では、私も帰る。イシュラ、ルイ、残念だがケンは諦めておけ。どうにかしようとしてどうにかできる男ではないぞ」
「承知しております」
「なら良いがな」
ファリスはそう言って学院長室へ戻る。
屋上にはイシュラとルイだけになった。
「残念でしたね、会長。勧誘できなくて」
「仕方ない。俺ももう諦める。だが、研究だけは諦められんよ」
「危険だと言われたのでしょう? 大丈夫なのですか?」
「たとえ危険でも、やらなきゃならないこともあるって事さ。俺の場合はこれだ。絶対に諦める訳にはいかない」
イシュラは空を睨みつけてそう言った。
その視線の先に見据えているのは最愛の妹か、それとも。




