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第277話


 「理由を聞いてもいいか?」


 イシュラは頭を下げたまま、申し訳なさそうにこう言った。


 「………す、すまない………まだ理由は尋ねないでほしい。俺はまだ知られる訳にはいかないんだ」


 なんの話をしているんだ?

 いまいち掴めない。

 ただ、さっきの声はやはり魔力の波紋共鳴ではないと言うことと、それに関してなんらかの事情を抱えていることは確実だ。


 「無理に聞く気は無い。が、お前が話せる範疇で事情を言え。じゃねーと帰るに帰れん」


 「そう、だな………わかった」


 あまり期待していない。

 だが、俺にも最低限必要な情報はある。


 善人か悪人かは見極める必要がある。



 「はぁ〜………やっぱりここでも面倒ごとは起きるのか………」









———————————————————————————











 「話せ」


 イシュラは小さく頷いた。



 「さっき感じたのは間違いなく魔力だ。だが、波紋共鳴では無い」


 この現象は、魔力を何度も日常的に1箇所で使う事により、魔力が溜まって起きる現象だ。

 自然に魔力が溜まるわけではないので、常に不安定で、モンスターバブルやリトルバブルは発生しない。

 だから変わりにああやって発散しているんだが、今回のこれはそうじゃないらしい。


 「あれは、魂魔法だ」


 「魂魔法?」

 

 聞いたことがないな。

 作ってんのか?


 「魂を移し替えたり、変質させたりする魔法の事だ」


 「!」


 俺は魂魔法などと言うものは知らない。

 だが、その性質は聞いたことがある。

 だがそれは、魔法ではない。

 何故ならこれは、遥か古代の人々が諦めた魔法なのだ。

 その性質はとても人間が扱えるものではなかった。


 そしてそれは、この国ではない国の神が持つ性質だ。


 


 ルナラージャが、一枚噛んでるのか………?

 そうだとして、ウルクはこれを知っているのか?

 ………いや、おそらくアイツは知らない。

 何か企んでいたら絶対にわかるし、アイツのうっかりは芝居じゃねー。

 何にせよ、命の神が関わってるな。


 以前会った特異点、天崎 命。

 彼女は命の神のご加護があらんことを、と言っていた。

 バックについているのが命の神と見て間違いない。

 そして問題は、何故それに関するものがこの学院にあるのか。

 ウルクばかり気にしていたが、本来はこちらを怪しむべきだ。


 ファリスはどうなってるんだ?


 「ファリス………学院長はお前の事情を知ってンのか?」


 「学院長は………どうなんだろうな。あの人はどこまで知っているんだろう。でも、多分関係はないと思う。少なくとも敵ではない」


 「敵?」


 イシュラはハッとしてすぐにこう言った。


 「すまないが、これに関しては詳細は言えない」


 「なるほどな………」


 嘘を言っている様子も取り繕っている様子もない。

 俺を嵌めようとはしていないらしい。

 

 だったら何故話そうとしないのか。

 単純にまだ信用されていないのだろう。

 そんな相手を引き込もうとするほど切羽詰まっていると言うことだ。


 「じゃあ、お前の言う通り放っておいてやるが、万が一俺や俺の仲間に危害が及びそうな場合は、暴れるからな」


 「出来ればやめてほしいが、それは仕方ない。文句を言えた義理でもないしね」


 俺は屋上の端の方まで移動した。


 「“魂魔法”だっけ?」


 「?」


 少し唐突すぎたか。

 まあいい。

 続けよう。


 「研究をしているのであれば即刻やめろ」


 「馬鹿な! そんな簡単にやめられるわけが——————」


 釘をさすために睨みつけた。

 イシュラは言い淀む。


 「人の魂を、人が扱えるなんて、本気で思ってねぇだろうな? 悪いがそれは不可能だ。なんせお前らの研究しているそれは魔法ではなく、ただの悪夢だからな」


 「やはり君は、この魔法を知ってるのか!?」


 「やはり………ファリスあたりが吹き込んだな。ま、当たりだ。知識としてそれの情報は知っている。しかし、それは完全に欠陥品だ。本物を模倣しようとしてできた紛い物。それも、人に害をなす紛い物だ」


 こいつ1人だけでも説得を試みるか。

 ダメならダメで魔法は阻止する。

 いや、研究は止めない。

 つまらん事に必要以上に介入したくないし、自分たちで気付けるならそれに越した事はない。

 だから忠告だけにしておく。


 「古代………今よりも魔法文明のレベルがはるかに高かった時代に生まれたものだ。いいか、よく聞け。それは失敗作だ。死にたく無ければ深追いするな。お前が隠していることに関わっていたとしても、だ」


 俺はじっとイシュラの目を見た。

 忠告はした。

 だが、恐らく聞かないだろう。

 好きにさせる。


 「じゃあな」


 俺は屋上から飛び降りて部屋に帰った。

 そして、屋上でイシュラは1人呟く。


 「目つきは悪いが、随分なお人好しだ。でも、協力は得られなさそうか………だが、それでも俺は研究をやめる訳にはいかない」


 踵を返して、扉へ向かう。

 そして、自らの目的を口にして己を戒める。


 「俺は妹を………アルシュラを救うんだ」

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