第276話
授業が終わり、しばらく学校内をうろうろしていると、すっかり日が暮れていたので、寮に戻ってダラダラしていた。
最近ダラダラ出来ていなかったような気がするので貴重な時間だ。
ミレアは相変わらず忙しそうで、部屋にはウルクしかいない。
「で、初めての授業はどうだった? ケン君」
「流石に座学はおもんない」
俺は手のひらで氷の鳥を作って遊んでいた。
氷・芸術の複合魔法【アイスモデリング】
この魔法は氷の彫刻を作る魔法だ。
「お? いい感じじゃね?」
「おお、すごいねー。本物みたい。そういえば、リンフィアちゃん達はどうだったー?」
「ああ、うまく馴染めてるっぽいな。リフィは緊張してたが、思ったより上手くいってそうだ。一番気がかりだったラビも無事っぽいしな」
「無事?」
「いや、こっちの話だ」
年齢の変動はバレていなかった様だ。
上手く隠せている。
「もう1人は? ニールちゃん」
「アイツにちゃん付けする奴は初めて見たな………アイツは心配いらねーだろ。馬鹿ってこと以外は普通に優秀なんだし」
「はっきりしないねー」
本当に馬鹿なのはもったいない。
あの感じで馬鹿っていうのも貴重だと思っておこう。
「そういやミレアは?」
「またお仕事だって。そろそろ行事があるし、仕方ないねー」
そういえば、俺はこの学校の行事やら予定やらは全然知らない。
「なぁ、この学院ってどんな行事があるんだ?」
「行事かー。えっと、大きいのは大体4つくらいあるよ。文化祭、魔闘祭、魔獣祭、そして1番のイベントの魔法祭」
祭ばっかりだ。
だがジャンルは多い。
「でも、大きいのはしばらく先だねー。今度あるのは定期的に行われる測定だよ」
「測定?」
「うん。なんて言うのかな。魔力量や操作の精密度、魔法構築のスピードとかを測るんだって。たまーにこれでクラス変動が起きるんだけど、私は固定だから変わんないのだー」
王族の特権か。
俺には関係ねーな。
「またケンくん誤魔化すの?」
「仕方ねーだろ。俺が本気で測ったら、使う魔法具全部ぶっ壊れるぞ」
「ぶっ壊れるんだ………」
「しかし測定なぁ………サボるか」
「いやダメだよ!?」
ちっ、その場の流れでオッケーかと思ったのに。
「大丈夫だろ。いなくて困るのは、ファリスだ。簡単にクビにはしねーだろうぜ」
「いやいや、そう言うわけにもいかないでしょー」
「えー、めんど————————————」
キィィィンン………
耳障りな高い音が聞こえた。
いや、違う。
音だけではない。
『 』
声が、聞こえる………?
そう認識したのとほぼ同時に、背筋が凍る様な嫌な感覚を受けた。
「!?」
俺はバッと立ち上がる。
索敵、魔法感知を発動するが、近くに敵らしき影はない。
なんだ今の。
考え得る可能性は、意識の共鳴、感覚共有、念話、いや、考えれば考えるほどキリがない。
「あー、キンキンするよー」
「!? お前も感じたのか?」
「うん。これ怪しい現象じゃないらしいよ。この時間帯はここら一体の魔力が高まるから、私たちの魔力に共鳴して高い音が聞こえるんだって。えっと確か………」
「魔力の波紋共鳴か………」
こんな風に魔力を使う人が多く集まる場所でよく起きる現象だ。
これはそうなんだな。
「そうそれ!」
「そうか………」
そうなのか?
いや、待てよ。
こいつはそもそも、あの声は聞こえていたのか?
「ウルク」
「うん?」
「お前は、あの声が聞こえてるよな?」
「声?」
「!」
なるほど。
だったらこれは波紋共鳴ではない。
あれに個人差など無いので、声の様なノイズが入ったなら全員等しく聞こえる筈だ。
何か、もしくはだれかが強い魔力を発したことだけは確かだ。
「ちょっと出かけてくる」
「うん? こんな時間から? まぁいっか。いってらっしゃーい」
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俺は屋上へ向かった。
時間も時間なので、人はいない。
鍵を借りるのも面倒なので飛んで来た。
「ここは、マギアーナが一望できるな」
普通に景色を楽しみたいところだが、今はやめておこう。
「さて、考えるか」
いかんせん情報が少ない。
結論を急ぐ必要性もないのでゆったりいこう。
あれは魔力の波紋共鳴ではない。
と、考え出した直後、屋上の扉が開いて、人がやってきた。
「君は………」
「? 誰だお前」
この学院の生徒のようだ。
それにあのバッジ。
おそらく生徒会だ。
しかし、微妙に違う。
それに金色だ。
「生徒会長か?」
「参ったな………そこそこ顔は知られていると思っていたんだが、ああ。俺はこの学院の第二生徒会会長、イシュラ・ノゼルバーグだ」
「!」
その名前には聞き覚えがあった。
確か、
「テメーか、俺を引き抜こうとしたヤロウってのは」
「じゃあ、やはり君は転入生のヒジリ・ケンか………!」
イシュラは走って俺の前に駆け寄った。
そして、深々と頭を下げてこう言った。
「頼むッ! さっきの声を調べているんだったら………」
声!?
どうやらここ男にも聞こえていたらしい。
つまり、聞こえる者とそうでない者がいる。
そう考えていると、次の瞬間、
「調べるのをやめてくれ!!」
そう言ったイシュラの声には焦燥が入り混じっていた。
少し事情を尋ねるか。




