第271話
「はい、それでは今日の授業ですが、先日予告していた通りに“障壁破り”を行なってもらいます」
顔の四角い教師、ゴルゴードン・チュロスはそう言った。
結構年は行ってそうだ。
結界破りは、ゴルゴードンと他数名の教師が張った魔法結界を各自が誇る最強の魔法や組み合わせで壊すというものだ。
結界の枚数は全部で100枚。
魔法具も使ってあるので、一枚一枚がとてつもなく硬い。
物理攻撃で破壊も可能だが、かなり難しい。
何故なら、使用可能武器は教師が用意した安物のみで、攻撃回数は一回きりだからだ。
「おやおや、珍しい事もあるものだね。ガリウス君。今日は参加かな?」
「悪りぃかヨ」
ガリウスはゴルゴードンを睨みつけるが、ゴルゴードンはニコリと笑って返した。
「いえいえ、サボっていない事はとても喜ばしいよ。出来れば他の授業も参加して欲しいんだけどねぇ」
「ケッ」
ガリウスはこの教師が苦手だった。
どれだけ威圧してものらりくらりと返されるからだ。
「さて、新入生がいると聞きましたが………おぉ、君かな?」
「おう」
「これはまたヤンチャそうな子だ。僕はゴルゴードン・チュロス。どうぞよろしく」
「ヒジリ・ケンだ。よろしく」
ゴルゴードンは俺をじっと見る。
おそらく実力を図ろうとしているのだ。
滲み出る魔力や佇まいでわかる人にはわかる。
こいつはそれくらい強い、とか。
こいつは接近はダメそうだ、魔法がダメそうだ、とか。
だから、魔力を調整して、このクラスの上の下から上の中くらいにしているのだ。
そして、補助魔法を中心とした接近戦が俺の主な戦闘スタイルということになっているので、接近戦が得意な感じを滲み出している。
「なるほど。なかなかですね」
「そうか? そりゃどうも」
なので簡単に騙される。
「はっ!! その程度かよザコが! イキってんのは一体どっちだろうなァ!」
おーおー、駄犬が吠えてるな。
とりま放置。
「お、ローゾル。お前結構強そうだな」
横でガリウスが明らかにイライラしている。
ガキだなぁ。
「ふっ、強そうではない。強いのだよ、ヒジリ・ケン」
「フルネームやめろ」
「はっはっは! そうか。いいだろう、高貴なる僕が特別に君を名前で呼んであげよう。光栄に思いたまえ!」
この性格は玉に瑕だな。
仮にミレアが男が苦手でなくても嫌われてそうだ。
そう思うと可哀想だが。
「して、君は魔力の調整が上手いようだな」
「行ったろ(設定上は)補助が得意って」
「なるほど、(本当に)補助が得意なのなら当然だな」
いい具合に騙せている。
よし、だったらここは補助魔法中心で攻撃魔法を組んでみるか………複合は無しだとして………
なるべく初歩の魔法を利用して火力を出そうと思う。
そうすれば怪しまれないだろう。
「ん?」
大きな魔力を感じたので、後ろを振り向いてみた。
結界を張り始めている。
結界は防御魔法に含まれており、それを利用した魔法具も多々見受けられる。
「今回は何枚いけるかなー」
「貫通すればいいだけとは言え、ガリウスみたいにはいかないよな」
なるほど、大破させるのではなく、貫通させればいいのか。
だったら、さっき考えついた奴も、もう少し改良の余地がある。
「ケン君、うまく隠せているようですね」
ミレアが話しかけてきた。
昨日から思ったのだが、こいつはどうやら、入れはいくらか平気らしい。
恐怖症やら何やらはどういった拍子で改善されるかわからんからな。
結局気持ち次第だ。
ま、なんとなく大丈夫な理由は見当がつくけどな。
「俺が抜かるかよ。それよりお前はいいのか?」
「はい?」
「周りにヒソヒソされてるけど」
「っ………!」
「んじゃ、俺は退散するとしますか」
いらん事言われて迷惑をかけるのはごめんだ。
一応ルームメイトなので、これがきっかけに険悪にでもなったらシャレにならん。
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結界を張っているゴルゴードンに変わり、シャルティールが進行をすることになった。
「それじゃ、今からテストを開始します。準備ができた人から並んでくださーい」
誰も立たない。
何故だろうか。
そう、どうやらみんな気を利かせて俺たちを最初にさせるつもりらしい。
「おい、見てろよ新入り。俺様からやってやる。そんでもって格の違いを見せてやるッ!!」
ガリウスはやる気満々だった。
で、それとは対照的に、
「はい、がんばってー」
やる気なさそうにそう言った。
またキレるかな、と思ってチラッと見ていると、
………へぇ
なるほど、中々にいい面構えだ。
不良にあるまじき真面目顔。
「いくぜ………!!」
ガリウスは魔力を高めていった。




