第27話
盗賊戦から3日後。
もうそろそろ街に着く頃だろう。
途中から山道になった。
こんな風に様々な景色を見ることができるのは旅の醍醐味だ。
修行の方はというと、流石にもう都合よく盗賊は現れなかったので俺と模擬戦を行って戦闘に慣れさせた。
魔法の方は目標の16個は覚えた。
この吸収速度はやはり異常の一言に尽きる。
神の知恵というとんでもない力を持った俺と同じくらいのペースで覚えているのだ。
しかし、それ以上はいくらやっても覚える事が出来なかった。
「ダメです………うんともすんとも言いません。何がいけないんでしょうか?」
「そうだな、まだ覚えるには経験値が足りないってとこだな」
「経験値?」
「ああ」
魔法創生陣は力量にあってない魔法を覚えようとすると効力がなくなるという特性がある。
魔法を覚える量には上限があり、強くなるほどそれは上がっていく。
それはこの世界で《コスト》と呼ばれているものだ。
こいつはまだ魔法を覚えて日が浅い上に戦闘経験も皆無だ。
さらにMP以外の全てのステータスがまだ低かった。
リンフィアのコストはまだ小さい。
何もかもが順調というわけでも無いのだ。
「つまり、これ以上はもっと強くなってからだな」
「魔法以外の修行は苦手です………」
「そう言うな。しばらくやってなかったからな。もう少ししたらあと2つくらいは魔法を覚えられる。ほれ、かかってこい」
「うぅ………いきますよ」
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「うーん」
休憩中リンフィアが小難しい顔をしていた。
「どうしたんだ。何か困りごとか?」
「あ、はい。ちょっとだけですけど」
「とりあえず言ってみろ。可能な限り助けてやる」
「実は………」
「というわけなんです」
話によると、奴隷になる以前の自分の持ち物が消えて困っているらしい。
「なるほど、手がかりは無いのか?」
「預けていた人がいるのでその人さえ見つかれば大丈夫なんですけど………」
「そいつの手がかりが無いんだな」
流石にそれでは探しようが無い。
「その預けていた人ってのは魔族だよな」
「はい」
「これからの旅見つかるかもしれねーからな。そいつの特徴を教えてくれ」
「えーっと、青髪の一本結びで少しつり目でキリッとした顔つきの女性です。あと、右目から右の頬にかけて刺青が入ってて、それと身の丈ほどの大きな剣を背負ってます」
何となく想像してみる。
覚えておこう。
「了解、すぐには見つからねーと思うが、そのうち探し出してやる」
「ありがとうございます」
「そんじゃ飯食ったら再開するぞ。今度は強化と回復だ」
「やっと魔法だ!」
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「『我が肉体は限界を超える、ソロブースト』」
リンフィアの体を薄い緑のオーラが包む。
とりあえず覚えられたようだ。
「そのまま走ったり跳んだりしてみろ」
一通り体を動かすリンフィア。
「すごい。こんなに動きが軽くなるんですね」
身体能力が上がれば確実に戦闘が有利になる。
接近用というよりは逃走用に使うのが主になるだろう。
「よし、大体これで基本はおさえられたな。最後に模擬戦をやったら一気に街まで行くぞ」
「わかりました!」
「今までの技術を駆使して来い。10秒後に開始する」
リンフィアは小さく頷いた。
そして詠唱を始める。
「10、9、8、7………」
「『我が肉体は限界を超える。ソロブースト』」
身体強化をして、続けざまに攻撃魔法を準備する。
「………3、2、1」
「『風よ舞い上がれ』」
戦闘開始だ。
「0」
「『ガスト』」
リンフィアは風に乗って山道の方へ退避した。
「ほう」
山道を利用して戦うつもりらしい。
悪くない。
「さて、どこに行った………っ!」
後方から氷塊が飛んできた。
これは氷五級魔法【アイスバレット】だ。
「なるほど、察知される前に攻撃か」
俺は全弾躱して【索敵】を発動。
そう遠くはない。
ここから精々30m圏内。
「!」
反応は真上に出ていた。
「上!」
俺は上を見上げる。
そこには確かにリンフィアがいた。
「行きますよ、ケンくんッ!」
リンフィアはしっかりと俺を捉え、詠唱に入る。
一方俺は、
「くっ、太陽光か」
逆光で目が眩む。
ほんの一瞬隙を作った。
「『砂よ、覆い被され。サンドフィルム』」
砂や岩は土魔法に含まれる。
これは砂五級魔法【サンドフィルム】。
砂が広範囲に弾けて敵を撹乱する魔法だ。
放たれた砂はリンフィアの姿を覆い隠した。
「どっちだ………」
そして、右側に砂から飛び出してきた。
「そこか」
ファイアボールを当てる。
だがそれは、
「これは………」
氷の塊だった。
リンフィアはまだ砂の上にいる。
「『風よ、刃となり敵を無数に裂け。ウィンドカッター』」
大量に分散した風の刃が頭上に降ってくる。
わずかにだが、それは俺の体を掠った。
「よし、合格!」
俺は木刀を取りだして、一振りで魔法を薙ぎ払う。
頭上にあったあらゆる障害物は全て取り除かれ、リンフィアの姿が曝け出された。
「うそ………」
木刀を持ってない方の手でピストルの形を作り、
「パン」
と水を吹き出す。
加減した水四級魔法【ウォーターガン】だ。
「きゃあ!」
全身びしょ濡れになったリンフィアはすーっと落ちてきたのでキャッチした。
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「よかったぞ。たった数分で終わったが俺に攻撃を当てた。大したもんだ」
「くしゅん! えへへ」
びしゃびしゃになったのでくしゃみが出ていた。
「鼻水垂れてる」
「え!?」
バッと顔を隠す。
そしてバタバタと全身で俺への文句を訴えていた。
「はっはっは」
「うぅ………なんなんですか! くしゅん!」
俺は用意していたタオルを渡した。
「早くしねーと風邪引くぞ」
「誰のせいですか!」
「透けてるぞ」
リンフィアはチラッと自分の状態を確認した。
あ、来る。
少し身構える俺。
しかし、
「見たいんですか?」
「な!?」
予想外の返事にうろたえてしまう。
「ふふ」
「はっ……!」
こいつ、反撃しやがった。
リンフィアが“ふふ”または“うふふ”と笑う時は基本からかっている時だ。
まあ、最初会った時と比べ随分と柔らかくなったのはいいことだが。
「やったー、勝ちました!」
「おまっ、それはズリィぞ!」
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何はともあれこれで修行は一旦終了だ。
俺たちは山を越えて街へ向かう。
「うわぁ、大きな街ですね」
「ああ、王都くらいの広さだ」
俺たちは目的の街、『フェルナンキア』に辿り着いた。