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第26話


 「『炎よ、矢となり敵を貫け。ファイアアロー』」


 次に覚えたのは【ファイアアロー】だ。

 名前の通り炎を矢に変えて飛ばす魔法だ。

 【ファイアボール】との違いは貫通力。


 俺はファイアアローを素手で掴む。

 

 「もう少し魔力を先に集中させろ。感覚としては絞る感じだ」


 「絞る………やってみます」


 ちなみにこれも一発で覚えた。

 やはり伸び代は大いにある。


 「『炎よ、矢となり敵を貫け。ファイアアロー』」


 リンフィアは言われた通り魔力を絞ってきた。

 貫通力はちゃんと上がっている。

 

 「いい感じだ。【ファイアボール】【ファイアアロー】【ファイアスラッシュ】【ファイアボム】炎魔法は大体これでいいな」


 「ふぅ、ちょっと疲れました」


 汗だくになっている。


 「あ、今ちょっと近づくの無しでお願いします………」


 「はいはい」


 少し、予定を考えよう。

 今いる場所から目的の街まで修行しながらゆっくり歩いて後3日。

 俺が本気で走れば数分でつく。

 それはもちろん却下なので後3日で鍛えれるだけ鍛えて、冒険者になろう。

 俺は大丈夫だ。

 問題はこいつ。

 動きがまだまだ素人そのものだ。

 その辺は伊達に不良をやってないのでわかる。


 「………経験か」


 その辺から盗賊とか出てこないかねぇ。


 「ん?」


 後方からバタバタと足音が聞こえる。

 数は1人。

 まさか、


 「金目のものを出せェ!」


 俺は突如現れた盗賊を唖然と見ていた。


 「………」


 お、ぉお、マジか。フラグって立つもんだな


 「あぁん? おい! 聞こえてんのか! さっさと金を………」


 「リフィ! 盗賊出たぞー!」


 俺は汗を拭いていたリンフィアを呼んだ。


 「盗賊ですか? わっ、ホントだ」


 こいつも反応が薄めだった。


 「いい機会だ。リフィ、お前がこいつを追っ払え」


 「私がですか? うーん、出来るでしょうか」


 可能性は五分五分だ。

 勝てなくはない。


 「テメェら! あんま舐めてっと………」


 「はいどうぞ、どっからでもかかってこい。戦うのはこいつだけどな」


 俺は後ろへ退がってリンフィアと交代した。


 「よろしくお願いします」


 「おぉ、ねぇちゃんが相手か? イヒヒ、たっぷり可愛がって………い!?」


 リンフィアは既に詠唱を終えていた。

 ちゃんと俺の教え通り動けている。


 「【ファイアボール】」


 「そうだ。魔法を主に使う戦い方はいかに工夫するかにかかってる。隙があれば直ぐに詠唱をしろ」


 炎球は盗賊に向かってまっすぐ飛んでいく。


 「うわっ!」


 頭をかがめて躱す盗賊。

 だが、流石に単独で盗賊をやっているだけあって心得ている。


 「【我が肉体は限界を超える。ソロブースト】」


 魔法使いは接近戦が大の苦手だ。

 そのため魔道士は後方支援が主になる。

 単独の場合は強化魔法が必須だがまだ教えていない。


 「だから、頭使えよ………」


 リンフィアは少し退がり、策を練る。


 (相手は接近。でも私は接近戦では分が悪い。だったら、)


 盗賊は一気に距離を詰める。


 「ヒャハハハ!」


 一気に地面を蹴り、目の前に立った。

 そしてサーベルを振り上げて叫ぶ。


 「後でたっぷり可愛がってやるぜぇぇぇ!」


 (今だ!)


 滑り込んで懐に潜る。

 サーベルはリンフィアの頭上すれすれを通っていった。


 「何!」


 「【炎よ、弾けろ。ファイアボム】」


 炎が目の前に炸裂し、盗賊を呑み込んだ。

 周辺を煙が包む。


 「倒しました!」


 リンフィアはこっちを振り向いて言った。

 しかし、


 「クソおおおおお!!!」


 煙の中から黒焦げになった盗賊が姿を現した。


 「そんな!」


 勝ったと思っていたリンフィアは戦闘態勢を解いていた。

 そのせいで反応が遅れた。


 「死ねッ! このクソ女ァァ!」


 「ッッ………!」


 この辺だな。まあ、及第点だ。

 

 「目ェ瞑ンな」


 俺はサーベルを素手で受け止める。

 そのまま固定したまま俺はリンフィアに評価を下した。


 「なっ、この」


 盗賊は押したり引いたりしたがピクリとも動かない。



 「あう」


 俺は片方の手でリンフィアの額をデコピンした。


 「いいか、よーく聞けよ。まずは反省点だ。最初のファイアボールだがあれは失敗だ。ボムの方を使って目眩しをしておくべきだった。それと最後のボム。あれは逆に違うのを使った方が良かった。あれだけ近いならアローがいい」


 「………はい」


 だが、と俺は付け加える。

 

 「最初にいきなり魔法を撃ったのはいい判断だ。教えていた事をしっかり実践出来ている。そして最後のところで懐に潜ったところ。あれは良かった。離れていてもこいつには当たらない。それを見越してのカウンターだ。よくやったな。リフィ」


 「ありがとうございます!」


 「それじゃあこいつ、どうするか」


 俺はこの盗賊をどうするか決めかねていた。


 「いいや、お前もう行っていいぜ。まだリフィに危害を加えてねーしな」


 ポイっとサーベルを放した。


 「へへへ、わかったよ」


 盗賊は後ろを振り向いてゆっくりと歩く。

 だが、まだ殺気は消えてない。


 「はぁー、やめとけ。よく考えて行動した方がいいぞ。お前も馬鹿じゃないだろ?」


 ビクッと体を揺らす盗賊。

 本人からしたら十分殺気を消したつもりだったのだろう。

 だが、無駄だ。

 俺は悪意には敏感なのだ。

 そして、このまま放っておくのも、世のためにならない。

 

 「ひとつ」


 俺は盗賊の元まで行き、肩を掴んで、耳元に顔を近づける。


 「?」

 

 俺が何をしようとしているのか分かっていない様子のリンフィア。

 分からなくていい。

 別にわかる必要のない事だ。


 「二度と人を襲いたくなくなる魔法をかけてやろう」


 「あ? 何を言って————————」


 

 一睨み、まずは軽く。

 そこからは、怒涛の言葉責め。

 時折殺気や脅しを混ぜ込んで、二度と悪さできなくなるまで、心をズタズタに壊す。

 有無を言わせない程に攻める。

 最初の方は抵抗しようとしたが、軽く押し潰れる程度の魔力でピンポイントに圧迫すると、完全に黙り込んだ。

 トラウマ を植え付ける。

 心の逃げ場をなくし、罪悪感を生み付け、それをどんどん肥大化させ、僅かにあるであろう心の余裕さえ侵食して食い潰す。


 「………………………………」


 「理解した?」


 ブルブルと震えながら盗賊はコクリと頷いた。

 俺が失せろと言うと、盗賊は生気のない目でそのまま消えていくのであった。

 

 ちなみに、あまりに無防備だったので、両腕に遅効性の毒を仕掛けておいた。

 その後どこかの街で両腕を欠損した奴隷の姿を見たという話があるのだが、その詳細を俺たちが知る事はついぞなかった。







———————————————————————————








 「負けちゃいました」


 「しゃーねーよ。勝率は五分五分だったんだからな」


 それでもリンフィアは悔しそうだった。

 それでいい。

 それが大切なのだ。


 「悔しいなら、修行だな。お前は魔法中心で戦うんだから、手数は重要だ。明日から覚悟しとけよ」


 「はいッ………!」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人を殺す覚悟も持たないで何カッコつけてんだこいつ。盗賊を逃がすとか共犯と言われても否定できないだろ。主人公も結局口だけじゃん。
[一言] 追記 盗賊の件で、ここで盗賊を見逃す=今後犠牲者が増える。 ケンは、自分と関わりのない人がどうなろうと、それこそ女子供がどうなろうと、自分には関係ないと無関心なんでしょうか? そもそも、…
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