第255話
「腹減ったわー」
俺はアイテムボックス内のパンを取り出して食べ始めた。
試作品だが、なかなか美味い。
「………何ですかそれは」
「パンだ」
「そんなものは見ればわかります! 何故あなたはそんな悠々とパンを食べているのかと………」
腹の音が聞こえた。
無論俺ではない。
と言うことは………
「っ………………」
ミレアは顔を真っ赤にして腹を抑えている。
なんだ、そう言うことか。
「腹が減ってイライラしていたんだな。ほれ、食えよ」
「………………………いりません」
「強情な奴だなー。美味ェンだぞ。ほら」
「いりま………」
再び腹の音。
ミレアは腹を一層強く抑え、ダンゴムシのように丸まって動かなかった。
「ハァ………」
俺はミレアのところまで行くと、
「え、いや、何を………」
手を掴んでパンを持たせた。
「ほら、食え」
「そこまで言うなら………あれ? あなた今、私の手に触れましたよね………?」
「当たり前だろうが、何のために移動したんだ」
「………」
ミレアは不思議そうに手を開いたり握ったりした。
何を考えているのだろうか。
「ちょっと待って下さい」
ミレアは恐る恐る俺に近づくと、俺の目の前で足を止めた。
その前にその忍足をやめてほしい。
「うぅ〜………」
ゆっくりと俺に手を伸ばしてくる。
一体何がしたいのだろうか。
それに対して俺は、
「ひょっ」
「!」
もうちょいのところで避けた。
「………」
再び手を伸ばす。
今度は普通のスピードだ。
だが避ける。
すると、ムキになったミレアは手を早く動かすが、俺は全部避けた。
「何で避けるんですか!?」
「何がしてーんだよ!!」
なんとなくだんだんキャラがわかって来たぞ。
こいつ平常時猫かぶってんな。
「動かないで下さいよ………」
今度は動かずにじっとすることにした。
ミレアは俺の手に触れた。
すると数秒後、顔が茹でダコのごとく真っ赤になった。
「イヤァァァァアアア!!!!」
なんと理不尽にもビンタが飛んできたので、それを軽く避けた。
「だからなんで避けるんですか!!」
「だから何がしてーンだよテメーは!!」
「女子のビンタはお約束じゃないですか!!」
「知るかンなモン!!」
そう言うとミレアは振り返って黙り込んでしまった。
怒ったのだろうか?
いや、流石にそれはおかしい。
当のミレアはというと、
(はっ、初めて自分から触れてしまった………でも、何故かいつもの様な怖気は感じなかった……)
ミレアは振り返ってこれでもかというくらいガンを飛ばして来た。
「貴方、本当に男ですか?」
「己は何を吐かしとんだ」
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たわいない会話をしばらくしていると、時間がやって来た。
「………そろそろ時間ですね。ヒジリ・ケン君」
「フルネームで呼ぶな」
「ではケン君」
ミレアはスッと立ち上がり俺の名を呼んだ。
「あ?」
「時間になったので行きましょう。試験が終わりました」
どうやら時刻は試験の終了予定の時間を回ったらしい。
さて、あいつらはどこに編入するのやら。
「そうか。んじゃ、行かねーとな」
「さ、私について来てください」
「おう」
そう言ったミレアと俺との距離はさっきよりはずっと縮まっていた。
「試験、通ってるといいですね」
「通ってはいるだろうぜ。だが、さっきも言ったみたいにどこに編入されるかが問題なんだよなぁ」
広い校舎の中をこうやって歩いていると、やはりここは学校なんだな、と感じる。
向こうにいた頃は学校はつまらなかったが、果たしてどうなることやら。
「なー、窓から飛び降りね?」
「そんな事を私が出来るわけないでしょう。他の生徒の規範たる生徒会会長がそんな事をしていると知られて仕舞えば規律が乱れます」
「へっ、お堅いこった」
「堅いのは当然です。会長ですから」
リーダーってのは、大体3種類いる。
一つはお飾り。
一つは仕切り屋。
一つはカリスマ。
おそらく、こいつやダグラスはカリスマの部類に入るのだろう。
こいつらをさらに細かく分けると2つに派生する。
自由なカリスマときっちりしたカリスマだ。
こいつはきっちりしたカリスマ。
だから、少し気負っている様な感じがするのだ。
故に、男が苦手というハンデは大きいだろう。
こいつもいろいろ苦労しているわけだ。
「さて、ここを左に曲がったらグラウンドです」
「グラウンドでやってたんだな」
校舎を出て左に曲がった。
グラウンドだ。
なかなか広い。
「「あっ!」」
みんな俺に気がついたのか大きな声を上げた。
いや、違う——————
「セァアッッッ!!!!」
レイは木剣で俺に向かって来た。
俺の喉元めがけて突き込んでくる。
なるほど、みんなはこいつの事を言おうとしていたのか。




