第252話
「はっはぁ、ではいよいよ模擬戦を行なっていきたいと思います。ルールは一対一で行う真剣勝負」
「真剣? 木剣ではないのですか?」
ニールはてっきり演武同様、木剣を使って模擬戦を行うとばかり考えていた。
「もちろん、剣は私たちが用意します。大きさや本数は自由ですよ」
自前の剣は使えない。
つまり、バルムンクを使った覚醒半魔状態にはなれないという訳だ。
もとより使うつもりはそこまでなかった様だが、相手が想像以上に強そうなので使っても止むなしとは思っていた。
しかし、こうなってしまえば仕方ない。
それに同条件なら大丈夫だろう。
ニールはそう思った。
「念のため、再度ルールを説明しておきます」
マルゴの説明はこうだ。
まずこれは、一対一の真剣勝負。
どちらかが戦闘不能になる。
又は降参宣言する。
明らかに急所に入る攻撃を寸止めした場合は、その時点で強制的に降参してもらう。
最後にもう一つは、どちらかが戦闘範囲外に全身が出てしまったら戦闘は終了だ。
当然、殺傷はなし。
試験官が判断して、殺傷が起こりそうな場合は強制終了させ、殺そうとした方の負けとする。
ただし、試験官が負けになるのは、ある程度実力が足ると判断された場合のみだ。
弱すぎて殺されかけた場合、受験者が負けとなる。
敗北しても、試験官が実力が足ると判断した場合は、合格とする。
勝てば無条件にグレード5を獲得できる。
「以上が模擬戦のルールです」
「やはりシンプルですね」
「捻った試合を見たいわけじゃないですからね。我々が見たいのは実力。我が校に入学するに足る実力が見たいのですよ」
(実力、か)
「だったら、お応えしましょう」
ニールは用意させた武器から、身の丈ほどの大剣を手に取り、試し振りした。
感触を確認する。
そのまま中央へ移動した。
そこでニールはこんな事を言った。
「私が勝てば無条件で合格、なんですよね?」
ニールはわざとレイを見て挑発する様に言っている。
負けず嫌いが発動しているのだ。
「はっはぁ、そう簡単には勝てませんよ。なんせ彼は——————」
ズォォォオオッッ!!!
空を斬る音がした。
レイは目の前で剣を振っている。
その風圧がニールの髪を揺らした。
レイが握っているのは、両手持ちの長剣。
刀身は細い。
しかし、今のでわかる通り、一撃が疾く、重い。
「——————次期三帝、剣天ラクレーの跡を継ぐ候補者の1人なのですから」
「ッ!!!」
剣天ラクレー。
ニールはその剣天という名前の重みをよく知っている。
その名を背負った者の剣の鋭さを、よく知っている。
「彼女の跡ですか………」
「おや、あった事があるのですね。ならわかるでしょう。候補者として名を挙げられていると言う意味が」
この国の剣士の最上。
いや、戦士の最上が剣天だ。
候補者と言うことは、それだけ実力があり、皆に買われているという事だ。
しかし、
「………あくまで候補者」
レイはピクリと眉を動かす。
「彼女じゃないなら、私が勝ちますよ」
流石にレイもここまで言われれば黙ってはいられなかった。
ニールの方を向いてこう言う。
「勝つのは私だ。新参の貴様に負けるつもりは無い」
完全に一触即発のムード。
そして、偶然にも今立っている位置はスタートラインだった。
「仕方のない子達だ………」
マルゴは外に出て結界を張った。
これがラインだ。
これを越えれば失格。
即勝負が決まる。
「準備ができたら、開始してください」
すると、
「準備?」
「そんなもの」
グッと剣を握り、腰を低くした。
そして、
「「とっくに出来ているッッ!!!」」
2人は一斉に飛び出し、中央で剣を交えた。
かなりのスピードだ。
ぶつかり合った時の衝撃も凄まじい。
「くッ………」
「ぐ………ぅ………ッッ」
お互いに剣を弾き、強化魔法を詠唱する。
「「『その肉体は鋼となり、神速を得る。人の限界を越え天上に至らん【カルテットブースト】』!!」」
赤いオーラが体を包む。
そして再び前に飛び出した。
「ハァァアアアア!!!!」
「セァアアアッッ!!!!」
衝撃、轟音。
ぶつかった際に生じた衝撃波が周囲に飛んだ。
あまりの威力に地面が割れる。
パワーは大体互角だった。
「アアアアアアアア!!!!」
「ガアアアアアアア!!!!」
地面がどんどん凹んでいく。
一旦剣を引き地上に飛ぶ。
するとまた剣をぶつけ、激しい剣戟が繰り広げられた。
重い大剣と長い長剣とでは考えられないほど速い攻防だ。
そして、この瞬間、初撃が決まる。
「黒炎——————」
「!!」
レイは防御に回ろうとしたが一瞬遅れた。
ニールはすかさずそこを狙う。
「——————一閃!」
剣に纏った黒炎は斬撃刃と共にレイに向かっていく。
決まった——————そう思っていた。
「空閃」
「な」
なんと、レイの持つ剣に渦巻かれた風が黒炎をかき消した。
そして、
「初手、頂こうッ!!」
レイの一撃が肩に入った。
先制を取ったのはニールではなく、レイだ。




