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第25話


 気がついたら薄暗い部屋に居た。

 居た?

 いや、違う。

 これは自分がいるのではない。

 俺は観ているだけだ。



 スーッと人影が見える。

 つい最近見た男。

 ヨルドだ。


 「おい、何トロトロ歩いてんだよ。このグズが!」


 ヨルドは目の前のリンフィアに蹴りを入れる。


 「うっ……ぐ! も、申し訳ありません」


 リンフィアは涙をこらえて謝る。

 何一つ悪いことをして居ないのに。




 —————なんだこれは。






    ———————————————





 

 今度は大きな街の中心。


 リンフィアを囲うように魔族が集まっている。

 聞こえるのは、罵声。


 「この恥さらし!」


 「———じゃなくて、あんたが死ねばよかったんだ!」


 「殺人鬼!」


 「———様がいたからよかったものの!」


 ノイズがかかったかの様に聞き取れないところがある。


 ——————ここは一体………



 「この、無能が!」



 ——————ッ!






    ———————————————


 




 「私は第———————、リンフィア・ベル・イヴィリアです!」


 まただ。

 またこのノイズだ。


 ここは街の広場だ。

 さっきと違い、歓声に包まれている。



 ——————気分が悪リィな。



 人ってあんな簡単に手のひらを返すのか。

 知っているけど。



 




    ———————————————







 今度は大きな部屋。

 屋敷、いや、城の規模だろう。



 「お父様! お母様!」


 小さな子供2人が、魔族と人間の夫婦に駆け寄る。

 白髪の子供2人。

 1人は男の子、もう1人は女の子。

 女の子は、リンフィアだ。


 

 ——————この子リフィなのか——————




 これは、記憶。

 俺はリンフィアの記憶を過去へ、過去へ、辿っていったのだ。

 

 

 ——————しかし何だってこんなものを






    ———————————————




 また変わった。




 ——————あれの前があるのか? と言うよりここは………




 見覚えのある場所。

 一度しか行ったことはないが、俺にとっては忘れようがないほど印象深い場所だ。



 ——————真っ白い、空間。



 そこは、かつて俺やクラスメイトが転移した場所によく似ていた。

 




 俺は後ろを振り返った。






———————————————————————————







 「………」


 小屋だ。


 「………なんだよ、クソッ」


 夢を見ていたらしい。

 結局あれがなんだったのかわからなかった。

 


 「あ、ケンくん。起きたんですね。おはようございます」


 リンフィアが先に起きていた。


 「ん、おはよう。えらくはえーな、リフィ」


 「小さい時から起きるのは早いんです」


 小さい時か。

 半魔族も寿命は魔族並みにある。

 こいつの小さい時というのは一体何年前だろうか。

 少し気になるが聞こうとは思わない。

 過去それで春のヤツにこっ酷く怒られているからだ。


 「飯はもう食ったか? 机の上の箱に入れといたやつだ」


 箱というのは、氷魔法で作ったクーラーボックスだ。

 魔力の続く限り中身を冷やし続けることができる。


 「はい。サンドイッチ美味しかったです」


 「飯もう食ったンなら出発するか。今日は四属性の五級魔法を教える。多分時間がかかるだろうが、3日あれば4つとも覚えれるだろう」

 

 出していた道具を全てしまう。


 「おーい、出るぞ」


 「あ、はーい」


 外に出て土の塊になった家を見る。

 リンフィアはその家に向かって、


 「………いってきます」


 と言った。


 「ん? もうこの家に帰る予定はねーぞ?」


 「いいんです。いってきますって言えるだけで幸せだなぁって思えますから」


 「そうか」


 こんな家でもこいつにとっては迎えてくれる家なのだ。

 この家は壊さないでおこう。








———————————————————————————







 「魔法は歩きながら覚える事にする。いいか?」


 「はい」


 俺は紙に描いた魔法創生陣をリンフィアに渡す。


 「魔法創生陣ですか」


 「ああ、俺はグリモワールを使わないからな。確か魔族もグリモワールは不要だったよな?」


 魔法の2つの習得法のうち魔法創生陣を使った習得法は魔法の構造の理解が必須だ。

 しかし、魔族はその必要がない。

 なぜなら魔法というのは本来神から魔族が授かった力なのだ。

 グリモワールはそれを人間や亜人が使うために作られた道具である。

 だが、この魔法創生陣にも難点がある。


 「よくこの様なものを作れましたね。難しいって聞いてたんですが」


 この陣も簡単には作れない。

 時間をかけて必要な文字を調べ、時間をかけて作るものだ。


 「まあな。その陣は複雑な上に使い手によって必要な文字が変わるからな。ただ俺はその法則を知っている。ほら見ろ、ここの文字が………………」



 しばらく説明した。



 「わかったか?」


 「なんっっっっっにもわかりませんでした!」


 「知ってる」


 こんなにすぐパッパと作れるのは多分世界に数人といないだろう。

 神の知恵様様だ。


 「真ん中に血ィ滴らせ。後はその血がお前に魔法を教えてくれる」


 リンフィアは親指を軽く噛んで血を出した。

 その血を紙の中央に一滴落とす。


 「——————っ」


 リンフィアの中に流れてくる魔法の知識。

 魔族の魔法習得は陣から記憶を呼び覚まし、自身に流れる魔族の血に認められた時、魔法を覚えるというものだ。

 今覚えさせているのは炎五級魔法【ファイアボール】だ。

 この魔法は大体の人が最初に覚える基本中の基本の魔法だ。

 魔族も人も関係ない。



 「さあ、詠唱しろ」


 こいつなら大丈夫。

 血もきっと応えてくれる。


 「——————『炎球よ、敵を穿て』」


 手のひらの上にサッカーボールくらいのサイズの炎球が出現する。


 「『ファイアボール』」


 掛け声に合わせて前方に射出。

 着弾し、周辺の草を燃やした。


 「わ!」


 見よ、この嬉しそうな顔を。


 「やりました!」

 

 「おぉ、一発で出来たか。やるじゃねーか」


 頭をわしゃわしゃと撫でる。

 そしてとりあえず消火した。


 「えへへ、魔法だぁ。私、魔法ができました!」


 すごいはしゃぎっぷり。

 かくいう俺も最初の方はかなりはしゃいでいたのだがそれは内緒だ。

 

 この調子なら3日もかからないだろう。

 いけるところまでいってしまおう。


 「もっと覚えたいです!」


 「お、いいね。やる気があるのはいいことだ」


 俺が用意したのは16枚の魔法創生陣。

 それぞれ4つずつの五級魔法だ。

 冒険者になるなら最低限のそこは覚えさせておきたい。

 後は、ステータスだ。

 モンスター討伐を中心に最低でも勇者たちの現平均ステータスくらいには上げたい。


 「それじゃあ早速次いくか」


 そしてリンフィアの修行は本格的に始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな腰の低い不良見たことありません(笑) お荷物リンフィア。 戦闘も出来ないし、料理も出来ない。 そのくせ偉そう。 命の恩人で、色々教わってる身でありながら、その程度で怒るのはどうかな?…
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