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第246話


 「えっと、学園長さん? ファリスさん?」


 リンフィアは学校に入った経験もなく、どう呼んでいいかわからないのでとりあえずそう呼んだ。

 

 「学園長でいい。敬称はおかしいから必要ないぞ。それで、どうした?」


 「今の子………ミレアさんでしたっけ?」


 「ああ。うちの生徒会長だ」


 「男の人が嫌いなんですよね? どれくらい嫌いなんですか?」


 「嫌い………嫌いと言うよりは、何というか、苦手? 男に対してある種の恐怖を抱いているらしい」


 「うーん」


 リンフィアは首をひねって考えた。


 「それって、男嫌いではないですよね?」


 「ああ、言われてみればそうだな。とにかくウブな娘なんだよ。手が触れただけで顔を真っ赤にして暴れまわるくらい」


 リンフィアはその様子を思い浮かべた。


 「うわー、それは大変ですね」


 「そうだな。だから、これを機に男に慣れてもらうために同室にしたのだが………うまくいくか五分五分だ」


 はっはっは、と愉快そうに笑った。


 「人ごとじゃないですよ。きっと今頃ケンくん大変な目に遭ってますよ」


 「心配せずとも大丈夫だろう。あの男ならどうにかしてくれる。多分な」


 「曖昧じゃないですか!」









———————————————————————————









 「なるほど。男嫌いなわけではなく、単に男と会話したり、触ったり触られたりするのが恥ずかしいと」


 「そうです」


 「だから同居はもうすんごい事になりかねないと」


 「わかっているじゃないですか」


 「なるほどなるほど………ところで」


  「はい?」


 ミレアは俺と5mほど距離を置いて会話していた。

 なんとなく俺は頭をかいてこう言った。


 「もうちょっと頑張ろうぜ」


 「拒否します」


 拒否て。

 やたらめったらな女好きではないと説明した筈なのだが。


 「今日から同居させられるんだしよ」


 「同居って言わないでください。生活空間を共有するだけです」


 「それを同居っつーんだよ」


 「響きが違います。同居って聞くと何故かこう………不快な感じがします」


 面倒な女だ。

 俺はため息をついた。


 「部屋共有する事は、遺憾ですが認めましょう。ですが、出来る限り接触は無しです。触ったりしたら電撃を喰らわせますから」


 「へいへい」


 適当に返事をした。

 そのまましばらく黙っていると、 ミレアがじっと俺を見ていた。

 自分で見るぶんには平気らしい。


 「それにしても………」


 「ん?」


 「それ程までの魔力と技術、一体どこで身につけたのですか? 第三学年に編入という事は私とあまり変わらないでしょう?」


 「ああ。年は変わらねーと思う。魔力は自力でつけた。正攻法じゃここまで出来ねーから裏技は使ったけどな。技術も似たようなもんだ」


 「強くなる方法があるんですか?」


 「ある」


 俺は断言した。

 俺がやった方法を使えば誰でも強くなれる。


 「私でも、ですか?」


 「やめとけ。絶対精神崩壊する。俺がやってんのは、あの逸話だからだ」


 「!」


 ミレアはそれを聞いて一瞬で理解した。

 ある魔法使いが、俺と同じ方法を行なって廃人になったという話は、魔法使いの中ではかなり有名なのだ。


 「でも、貴方は実際………」


 「じゃあ、やってみるか? 横に俺がついているから死ぬ事はねーと思うぜ?」


 ゴクリと唾を飲み込む。

 ミレアの中には恐怖心もあったが、それ以上に試してみたいという欲求があった。


 「じゃ、じゃあ、一度だけ………」


 「お前、魔力吸引出来るのか?」


 「あ、そういえば………魔力吸引が必要でしたね。出来るには出来ますが、ここじゃあまり使えそうにありませんね……」


 「仕方ねーな。ほら」


 俺は手を差し出した。

 ミレアは訳がわからずキョトンしている。


 「その手は?」


 「手を繋がないと魔力の受け渡しが出来ねーから、ほら、掴まれよ」



 葛藤。


 ミレアの中で魔力を得るか、男と手を繋ぐかが天秤にかけられていた。

 しかも、手に関しては初めて男と手を繋ぐと言う重大な点がある。


 「どうする」


 そしてミレアは——————








 「やめます」


 後者が勝利した。

 やはり男と手を繋ぐのは自分にとって荷が重すぎると思ったのだ。


 「賢明な判断だ。あれに纏わり付いてる代償はデカすぎる。少なくとも、俺レベルになるには死ぬより辛い目に遭い続けなけりゃいけねーしな」


 「そんな大げさな………」


 ミレアは俺の表情をみてハッとした。

 これが冗談でもなんでもないと言うことが伝わったのだろう。


 「………まず、全身の感覚が消える。と思ったら、一瞬にして激痛が走る。足の先から頭の先まで、骨も、臓器も、血管も、神経も全部だ。一ヶ所一ヶ所が感じたことのないような痛みを感じるのに、それが全身だ。正直シャレにならん」


 「………」


 「その上、体感時間は何百倍にも引き延ばされる。これがまた地獄だ。そしたら徐々に気が狂い、思考が不安定になる。それでも、不快感や恐怖、痛覚だけははっきりしている。そりゃあ、気も狂うわな」


 ぶっちゃけ、言葉では伝わりにくいだろう。

 体感するのが一番早いが、おそらく俺がやったレベルまでするとなると、1発で廃人だ。


 「一つ、聞いても?」


 「おう」


 「そこまでのものなのに、何故貴方はそれを耐え切れたのですか? 一回きりで廃人になるような行為を何度も何度もやっているというのに」


 「あー………それはな」


 少し目を逸らして額をかく。

 なんて言おうか。

 いや、一つしか言いようがない。


 

 「俺が、狂ってるから」




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