第245話
ボールが迫ってくる。
避ける方法はない。
隙間は一切なく、どれかを受けなければならない。
ぶっちゃけ、受けても余裕で生き残る事は可能だ。
だが、それでは完勝したとは言えない。
「………」
こういう女には、一度決定的な挫折が必要だ。
こっ酷く負け無ければ向上しない。
なので、俺は無傷で勝たなければならない。
上には上がいるという事実を突きつけるのだ。
(避けない? いえ、当然ですね。あそこまで隙がなければ当たるのは必至。元はといえば彼が忠告を聞かなかったのが悪い。しかし、これで多少は更生するでしょう)
ミレアは終わったと思い。少し気を緩めた。
だが、終わらない。
避ける方法はない。
でも、
「避けさせる方法なら、ある」
そして、ボールは俺の方へ向かい——————
「なっ——————!」
全て俺を避けて地面に落ちた。
ミレアは訳がわからず呆気にとられている。
「はい、無傷ー」
無事生還した。
「な、何故………!」
当たったと確信していた分、このショックは大きい。
ミレアは空いた口が塞がらなかった。
「簡単な話、俺もマグネティクスを使った」
「!」
「通常時なら、魔法具だしボールが密集してて結合が強いからマグネティクスを挟む余地は(本気を出さなければ)ないンだが、あそこまでバラバラになれば、多少は干渉出来る。必要な場所でズラせばあら不思議。ボールの軌道は逸れ、俺には一切当たらない」
そして、テストはここまでだ。
おそらく今の攻撃が切り札。
後は力技か、今の攻撃よりランクを落とした攻撃しか残っていないだろう。
だから、
「こっからは俺のターンだ」
「いいえ、まだですッ!!」
ミレアはステッキを上に振るう。
ボールは超スピードで浮上してくるが、それもマグネティクスで回避。
「凝りねぇ女だ」
降ってくるボールにマグネティクスを掛け、ボール同士を衝突させる。
ボールは大きな音を響かせながら、お互いにお互いを弾き合った。
もちろん俺には当たらない。
しかし、
「っ!?」
数個のボールはミレアに向かって飛んで行った。
それを止めるためにマグネティクスを使い、逆方向へ行くようにした。
バラバラになったボールは、もうさっきほど結合が強くない。
魔法具としての効力を失いつつある。
「ダメ押しだ」
俺もマグネティクスを放ち、ボールをより遠くに飛ばした。
ここまでバラバラになれば、ある程度なら俺でも干渉出来る。
そして、ボールの7割以上は接続が切れた。
「ちっ………まだまだ!!」
ミレアは直接レールガンでボールを放った。
俺は半身になってそれを避ける。
完全にネタ切れだな。
「もういい」
「もういい? まだ勝負は………」
「終わらせる」
俺は魔力を集中させた。
「そうはさ、せな………い………」
ミレアは足を止める。
自分の土俵で大敗を喫した者は大きく挫折する。
ミレアはおそらく雷魔法では絶対の自信を誇っていた。
おそらく負けるとしても、ファリスくらいだと思っていただろう。
だから、俺はあえて雷魔法を使う。
雷一級魔法【雷神ノ激昂】×100
ミレアは詠唱ありでも、この魔法をまともに使う事は難しかった。
だが、俺はそれを無詠唱で、それも100個も用意してみせた。
ただでさえ難しい無詠唱を並立して100個行いつつ、それを完璧に操作する。
ミレアは自分にそれが出来るだろうか、出来るようになるだろうかと、自問自答するが、答えは当然出来ない、だ。
そして、ようやく認める事になる。
あちらが格上だと。
ミレアは立ち尽くしていた。
「今度は俺が言う番だ」
ミレアの身体が、ビクッと震えた。
そして、俺はこう言う。
「降参しろ」
「………」
——————勝てない
ミレアは膝から崩れ落ちた。
———————————————————————————
「おーい。いつまでそうしてるつもりだ?」
よほどショックだったのか、蹲って起き上がる気配がない。
「拗ねてんのか? おいおい、一回負けたくらいでそんな気にすんなよ。あれだ、俺じゃなけりゃやられていたって奴だ」
まぁ、嘘だが。
「………」
「ったく、何がそんなに気に入らねンだよ」
ちなみに、ミレアには敗北よりもショックな事が頭でぐるぐる回っていた。
(負けた、私が負けた………つまり、この男は入学。そして、住むのは私達の部屋………私が、この男と………女好きの男と………同居? ???!? 待って待って待ってそんなの、嘘、そんな、だってそんなの!!)
バっと顔をあげて、いきなり叫び出した。
「いぃぃぃやあああああああアアアアアアアア!!!」
「うおぉ!?」
落ちていたボールに魔力を込めて投げてくる。
「そんなのいやあああ!!! 破廉恥! ケダモノ!! どうせ私を襲うのでしょう!? ゆゆ、許せません!! まだ手だって繋いだ事ないのに!!! 同居? 馬鹿言っちゃいけませんよ!!!」
「落ち着け! 全部誤解だ!」
「黙りなさい! 変態!!」
「誰が変態だクソ女!! さっきから好き勝手言いやがって! 誰がテメェみてぇな女襲うか! 馬鹿じゃねーの!?」
ピタリ動きが止まった。
理解したのか?
………いや、これは、
「私に魅力がないって言いたいんですか!? これでも一応毎週毎週告白されるくらいにはモテてるんですよ!?」
もう訳がわからん。
「テメェ何なんだよ! 男嫌いのくせに色気付いてんじゃねぇよ!」
「男嫌い? 違います! 私は男が怖いだけです!」
「ハァ!?」




