第24話
「よし、じゃあ………ほいっ」
俺は土三級魔法の【グランドウォール】で壁を作り、そこから横方向に【グランドウォール】を使い、直方体の簡易住居を作った。
「凄いですね。あっという間にお家が出来ました」
「なんのひねりもない四角の家だけどな」
「そうですね」
「そうですねってお前………」
少し包み隠せよ。オブラートに。
俺は簡易ドアと窓を建てつけて一応家っぽくしてみた。
「見てみろ。ちゃんと家っぽいだろ」
「あ、ちょうちょ」
「聞けよ。つーか、ちょうちょってベタだな」
俺はリンフィアを引っ張って屋内に入った。
「後はベッドとテーブルと椅子を出すか」
俺は【アイテムボックス】からベッドを2台とテーブルを1台、椅子を2脚取り出した。
「これでよし」
「わぁ、いいですねその魔法」
「お前にはまだ早い」
これは一級魔法なのだ。
そうやすやすと覚えられる魔法ではない。
「むぅ、そうですか。じゃあもっと修行しないとですね」
グッとガッツポーズを取るリンフィア。
「そうだ。お前はかなり伸び代がある。そのうちめちゃくちゃ強い魔法が使えるようになる筈だ。だから明日からも頑張れよ」
「はいっ」
素直でよろしい。
「そんじゃあ、晩飯にするか」
「ご飯ですか!」
目をキラキラさせている。
無理もない。
まともな飯はこいつにとっては何年か振りだろう。
「今日のご飯はなんですか?」
おや?
この反応、まさかとは思うが………
「それはご飯を待つ奴のセリフだぞ?」
「そうですよ?」
なるほど、もうわかった。
こいつ料理できない系女子だ。
「オーケー、理解した。折角だから沢山作ってやる」
「やったー! 嬉しいです!」
こいつ見た目は俺より少し年上だが、中身はそうでもないらしい。
なんとなく豪華な感じにしようと思ったので、とりあえず作れる和食を作った。
食材は使えそうなやつのが売っていたのでそれを買った。
「よし、食え」
「じゃあ遠慮なくいただきますね」
一応味見はしたが変ではなかった。
こいつの口にも合うと思う。
「どうだ?」
自分の料理を他人に食わせるのはかなり久しぶりなので少し気になる。
「見たことない料理ですけどすごく美味しいです!」
「そうか。よかったな」
内心ホッとしながら飯を食った。
天ぷらを口に運ぶ。
「………お、わりと上手くできてた」
俺の料理もまだまだ捨てたもんじゃない。
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「じゃあ、散歩してくるから先に寝てろよ」
俺は身軽な格好に着替えて外に出る準備をした。
「散歩ですか? こんな時間に」
「ああ、体が鈍ってんだ」
「そうなんですか。いってらっしゃい」
俺はひらひらと手を振って、簡易ドアをバタンと閉めた。
「………さて、あの辺でいいか」
俺は少し外れたところにある岩場へ向かった。
行きがけ偶然見つけた運動にうってつけの場所だ。
移動に時間をかけたくないので一気に跳ぶ。
「フッ!」
ギュンっと風を切って進む。
辺りに誰も居ない事を確認して着地した。
「到着っと」
ここなら多少ズタボロになっても困るやつはいないだろう。
「それじゃあまずは防音と流れ弾防止の壁だな」
俺は地面に手を置いた。
範囲を定め、イメージする。
どのくらいの広さと高さを求めるのか事細かく頭の中に思い描く。
「………このくらい、だ!」
土二級魔法【グランドランパート】を発動。
先程家を建てるのに使った【グランドウォール】と比べ、耐久力がかなり高い魔法だ。
俺は魔法で10×10×20のドームを作る。
「よし、後はあれを設置して………」
俺は【アイテムボックス】から鏡のようなものを100枚ほど取り出す。
「反射魔鏡を使うのも1ヶ月振りくらいか」
これは反射魔鏡と言って、俺が作った重力操作で、ものを跳ね返す魔法具だ。
かなり強めの重力魔法で作っているので反射時は物凄い速さで物が飛ぶ上に同じ鏡のいずれかを狙って反射する。
石ころでも銃を超えるスピードが出ることが可能だ。
もっともその前に石は砕けてしまうが。
俺は鏡をセットして専用のボールを数球用意し、腰にいざという時用の木刀を下げた。
「行くぜ………プレイボールだ!」
それぞれの鏡に向かって3球ボールを投げる。
「【クインテットブースト】でいくか」
俺は持ちうる最高の機動力を使うことにした。
ボールはいよいよ鏡の前に到達した。
「………………!」
右足に目掛けてボールが一球。
足を上げて躱すと、そこもう一球。
跳びながら右前と後ろから来ているボールを目で追いながらボールを躱す。
久々だ。まだまだ余裕だ。
ボールは跳ね返り、さらに加速する。
今度は3球時間差でボールが飛んで来た。
「………下、左、上」
すとっとしゃがみながら上体を倒す。
これで顔と腹を狙ったボールを流し、
「それッ」
手を使って起き上がり、足を狙っていたボールを躱す。
「いいぞ、もっと速く!」
加速する。
そろそろ避けるだけでは足りなくなるので。
俺は木刀を抜いた。
ここでボールを一気に十球追加。
「こっからはちょっと本気だ………」
ヒュンっと顔の前を一球。
躱しつつ、正面のボールに目をやる。
鋒でボールを滑らせながら上へ流す。
流したボールが後ろのボールと衝突。
突いた木刀を軸に回り、四方からのボールを叩き落とす。
「あ、やべ」
つい叩き落としてしまった。
まあいい感じの時間なので50球追加。
俺は少し外れて速度が魔法具の許容速度ギリギリになるまで待ち、設定をスピードの加速ではなくスピードの持続に変える。
「よーし、全部撃ち落として今日はあがるか」
一見隙間のないこの弾幕も、一応理論上では全て捌ききれる。
じっと見てタイミングを図る。
数秒後、隙間のできるタイミングを発見。
「ここ……ここ……ここ……ここだ!」
一気に滑り込みギリギリ当たらなかった。
すかさず俺を襲うボール。
場所を把握、順番は………決定、受け流す場所は左斜め下方。
一瞬で対策をして実行する。
「シィッ!」
体を曲げ跳びながら6球、反らせて4球、体をねじりつつ5球飛ばしたところで、
「グッ……」
背中に1球当たってしまった。
同じ箇所に7球。
今度は全て弾き、残りは28球。
ここまで来たら後は落ち着いて弾くだけだった。
「あー、クソッ。せっかく記録更新だったのによォ」
終わらせた後反省をする。
やはり、死角はなるべく対処できるようにしておきたい。
一応反応はできたので次は絶対躱そうと思った。
「それにしてもやっぱり岩場がボロボロだな」
クインテットブーストの余波は凄まじく地面はボコボコになっている。
「………じゃあ、帰るか!」
片付けは面倒だ。
鏡をしまうと、ドームを放置したまま簡易小屋に帰った。




