第238話
「へぇ、次の舞台は魔法学院か。順調に異世界ライフを楽しんでるってところかな?」
トモは、またケンを観ていた。
何もない空間で、トモはたまにこうやってケンを観ているわけだが、自分から干渉するケースは少ない。
神がらみの事案などの特殊な場面でしか出てこない。
「僕が与えた知恵はちゃんと役立ってるみたいだね。やっぱりあの子にはぴったりの能力だったよ」
何かを懐かしむような目で何処かを眺めるトモ。
どこを見ているわけでもなく、ただ遠くをぼーっと見つめる。
まるで人間のように。
「神の知恵、か。ケンくんが最初からあれほどまでの知識を受け止められるとは思っていなかったなぁ。まだ完全からは遠いけど、人が何億年と生きて得られる知識が詰め込まれているし、僕の知恵が入っているからね。やはりモノが違う。君の言う通りだったよ」
瞳を閉じ、誰かを思い浮かべている。
また、人間くさい行動だ。
「ふふ、“神の仔”は順調に育っているよ。シューメイ」
今、ここにいない誰かに向けてそう言った。
「トモ、ちょっといいかイ?」
「おや、力の。どうしたんだい?」
このガタイのいい男は力の神。
度々トモのところにやってきて雑談をしている。
「お前さんのとこの特異点と命の神の特異点が接触したって聞いたぞ。何もなかったのか?」
「とりあえずはね。向こうの子は共鳴がなんなのかわかってなかったし、ケンくんが特異点だって気がついていないんじゃないかなぁ」
「そうかァ………」
「それで、どうしたの?」
「いや、最近特異点同士の接触が度々起きているだろう? そろそろ始まるのかと思ってな」
力の神は心なしかそわそわしていた。
「残念ながら、まだだと思うよ。だから少し落ち着きなって」
「おう」
力の神は少し落ち着けた。
「でも、」
「?」
「もういよいよいつ起きてもおかしくないね………ふふふ………あはは!」
トモは高らかに笑った。
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「姫………本気ですか?」
騎士はなんとか姫の暴走を止めようとするが、一切止まる様子はない。
「本気」
「そんな事をすれば、二度と戻ってこられませぬぞ! それをわかって仰られているのかッッ!!」
姫がやろうとしている事を実行すれば、間違いなくここにはいられない。
だから騎士は必死に止めている。
だが、
「ごめんね。でも、決めたんだよ。私ね、もうこんなところ出て行くんだ。そして——————」
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「………んん………ん」
ウルクは目を覚ました。
「今の………一体いつの夢だっけ?」
ぼやけた目を擦って起き上がる。
まだ寝ぼけているので、足をカクカク揺らしながら着替える。
「バルド〜、ご飯………………そーだった。バルドは別の場所だったねー」
ようやく目が覚めてきたので、扉を開けて深呼吸をする。
「嫌な夢も、 ここの景色を見れば吹き飛ぶよ〜」
外を眺めながら、先日レトが作った朝食を食べる。
「む、そろそろ実習だ………あ、着替えてってこっちじゃない」
ウルクは棚を開けて、その服を取り出した。
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運命とはいつだって数奇な物だ。
まさかこれが、という大きな出来事が起きたり、こんなものだろうと小さな出来事起きたりして、それが複雑に絡み合い、一つの運命を定める。
それは、誰も知り得ない。
この先に、聖 賢に大きな運命の分岐路が待っている事を彼は知らない。
それに今のトモが関わることも、ウルクが関わることも、ケンは知らない。
どれほど知恵があろうとも、人も神も、未来を見る事は叶わなのだ。
これから動き出す大きな運命に一体ケンはどんな風に左右されるのか。
神のみぞ知る?
いや、違う。
神すらも、この運命に巻き込まれる。




