第237話
「来たか、少年」
街の門の外に、ファリスが待機していた。
琴葉たちの王都行きの馬車も偶然そこにある。
「お? 学院長自ら送ってくれんのか?」
「お前の編入は少々特殊なケースだからな。私自ら迎えに来る事にしたのだ」
「なるほど」
国王も絡んだ問題だ。
特殊なケースに違いない。
「ヒジリ・ケン」
ルドルフが話しかけてきた。
「よ、教官サン」
「お前の教官になったつもりはない、と言いたいところだが、本来はお前もこちら側だったな」
「ついたところで、俺はアンタから学ぶことは一切ねーけどな。ケケケ」
「………」
言い返してこねーな。
ま、いいか。
「あいつらの事、 よろしく頼む」
「む………」
ルドルフは視線をこっちに向けた。
「俺の大事なツレだからな」
ルドルフはこう返した。
「俺は彼らの教官だ。教官として、彼らを先導する義務がある。それに、俺自身、彼らを教え子として大切にするつもりだ」
そう言うルドルフの目は真剣なものだった。
これは、信用に値する目だ。
「そんなら、安心だ」
話終えるころ、みんな門の外にゾロゾロと出て来始めた。
「すみません、ちょっと準備に遅れました!」
「ん、わかってる。蓮たちの準備を手伝ってたんだろ」
「わかってるなら手伝ってくれればよかったのに」
「メンドイ」
「………」
そんな目で見るなよ。
準備してないそいつらが悪いんだろうが。
「おっす、ボウズ。いよいよ出発だな」
「お、覆面オヤジだ」
「ばっ………!! それは………」
「覆面? なんの話ですか?」
近くで聞いていたマイは、俺に尋ねてきた。
「このおっさん裏格闘技場で覆面戦士になって戦ってたんだよ。しかもギャンブルまでしてる」
「何故それを………はっ!!」
「マスター。帰ったら少々お話があります」
ダグラスが恨めしそうな顔でこちらを見ていたので無視を通した。
「ケンくんも悪い人ですね。マスターこの後姉さんにかなり絞られるでしょうから」
「はっはっは、そりゃあいい………お?」
街の方から馬車がやってきた。
そのまま進んでいく様子なので、俺たちとは関係ないかなと思ったが、よく見るとギルファルドが乗っていた。
目が合ったので、とりあえず手を振ってみると、向こうも手をヒラヒラと軽く振った。
「ギルファルド様はもうご出発されたのですね」
「だな」
「ケンくん」
メイは改まって俺の名前を呼んだ。
「今日まで楽しかったです。またいつでもいらしてください」
「ああ、そうする。世話ンなった。ありがとな、メイ」
俺は横にいたダグラスとマイに声をかけた。
「おっさん、マイ」
「はい?」
「ん?」
「色々助けられた。サンキューな。またここ街に来たら世話ンなるだろうから、そんときはよろしく」
「おう」
「ええ」
挨拶を済ましていると、先に蓮たちの出発の時間がやってきた。
これで、 しばしのお別れだ。
「殿下、そろそろお時間です」
「ええ、わかりました。皆さん、出発ですわ」
「ちょっと待って!」
「ええ、わかっていますわ」
琴葉は俺のところまで走ってくると、手を広げて飛び込んできた。
「うおっと」
とりあえずキャッチ。
すると、腕に力を入れてさらに強く抱き締められた。
「………うん、これでいいや」
パッと手を離して俺に向かっていつも通りの笑顔を向けた。
「またね!」
「またな」
琴葉は真っ先に馬車に乗り込んだ。
「ケンケンしばらく会えないけど、絶対死んじゃったりしちゃダメだからな!」
「………ダメ」
七海と涼子がそう言って詰め寄ってきた。
「大丈夫だ。俺を殺せるやつなんざそういねーから。お前らも怪我とかすんな………っつーのは無理があるか。まあ、元気で過ごせ。そんだけだ。またな、七海、涼子」
「う「ん」!」
七海と涼子も馬車へ入っていった。
今度は綾瀬と高橋だ。
「正直、お前らとこんな絡むとは思ってなかったが、まあ絡んでみると結構楽しかったぜ」
「ええ、そうね。私もこんなヤンキーと一緒に過ごすなんて思ってなかったわ」
「最後まで口が減らねーな」
「まーまー、落ち着いて。俺も楽しかった。遅くなったが、今まで誤解してたことは謝る。すまん」
「謝らなくていいつったんだけどなぁ。ま、でも素直に聞いておく。じゃあな、高橋、綾瀬」
「ああ、またな」
「じゃあね、聖くん」
高橋と綾瀬との挨拶を終え、今度は寺島だ。
「お前はもうちょいしっかりするべきだなぁ」
「そ、そうかなぁ?」
「そんなおっとりしたところだよ。でも、いいところでもあるけどな。じゃ、元気でな、寺島」
「わ、私も………」
途中どもってなんて言ったか聞こえなかったので、もう一度耳を近づけて聞いてみた。
「他の女の子みたいに名前で呼んでほしい、な」
「はぁ、よくわからんが、わかったよ。じゃあな、美咲」
「名前………ふふ、じゃあねひじ………」
「お前も名前だろ。じゃなきゃ対等じゃない」
「そ、そう? じゃ、じゃあまたね、けけ………ケンくん!」
美咲は足早に馬車に乗り込んでいった。
「あら、蓮は行かないんですか?」
「俺は最後ですよ」
「だからなんで………」
「お前にも声かけるつもりだからな」
「わっ!? もう、いきなり話しかけられるとびっくりしますわ!」
フィリアは振り向くと、リスみたいに頰を膨らませて怒っていた。
「怒んな怒んな。最後に顔見ときたいなと思ってな」
「へ?」
俺はじーっとフィリアの顔をみた。
やっぱり、愛菜に似ている。
でも、こいつはフィリアだ。
「な、なんですの」
「いや、もういい。達者でな、フィリア」
「貴方も、お元気で」
フィリアは個別の馬車に乗り込んだ。
最後だ。
「蓮」
「ああ」
俺達は拳をぶつけあった。
「………へへっ」
「………ははっ」
そして、何も言わずに馬車へ行った。
俺たちの間に余計な言葉はいらない。
拳を合わせてそれで終わり。
それで俺たちは十分だ。
だって俺たちは、親友なのだから。
そして、馬車は出発した。
この数日間、楽しかった。
また、会おう。
そして、今度はもっとたくさん遊ぼう。
俺は、そう決めた。
「少年、出発だ」
「ああ」
馬車に乗り込み、出迎えてくれた人たちに手を振ったり、返事をしたりする。
街がどんどん小さくなっていく感じがする。
見慣れた光景だが、クエストの時とはまた違う感覚。
少しだけさみしかったりする感じだ。
楽しかったな、フェルナンキア。
また、いつか。
こうして、俺たちはフェルナンキアを後にし、次なる目的地、マギアーナへ向かった。




