第236話
「ケンちゃん買い終わった?」
「ああ。琴葉はこの店で買っときたいもんは無いか?」
「ないよ。鉱石のことはよくわかんないし、宝石とかもあんまし興味ないかな」
確かに派手派手な宝石をつけるようなイメージはないな。
宝石なんぞ、現役のJKがつけるもんじゃない。
「俺の買い物は終わったし、後はお前らの好きなもんを見て回るか」
「ケンちゃん奢って!」
「こいつついに開き直ったか。まぁいい、買いすぎんなよ」
「やたー!」
「リフィもしばらく自由に買い物出来るかわかんねーんだから、今のうちに欲しいもん買っとけ」
「はい!」
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それから、2人を連れて闇市を回った。
やはり女子なので、買い物は楽しいらしい。
買いたいもんを買ったら出るのが俺のスタンスなので、正直長い間同じ場所に固まって、似たようなもんを見る楽しみはよくわからん。
まぁ、楽しめたなら良かった。
「そろそろ時間か………」
集合時間は7時にしていたので、そろそろ行った方が良いだろう。
「わっ、もうこんな時間ですか。この中は明るさとか変わらないから気づきませんでした」
「えー、もう時間なの?」
「そうですね。ちょっと帰るには物足りないです」
「いや、まだ帰らねーよ」
「「え?」」
最後に連れて行きたい場所があるのだ。
そこは、闇市を抜けて行ける、俺のお気に入りスポットである。
「行きたい場所があるからな。お前たちには見せてやりたい」
「ははぁ? 絶景スポイトってやつですな」
「スポットな。相変わらずバカだなオメーは」
「キーッ! 何さ!」
「あ、もう後5分ですよケンくん!」
時計を見たらもうそんな時間になっていた。
「マジか! よし、じゃあ急ぐぞ」
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「おーし、ギリギリセーフ」
急ぐと言いつつそこそこタラタラと歩いて来たので、残り1分弱くらいで滑り込む形になった。
「ギリギリだなぁ。その時間にルーズなところ直したら?」
「小言言うなよ蓮。いいじゃねーか、いつもと違って間に合ってるんだからよぉ。それに1分そこらじゃ予定に支障はないし」
「もうちょっと意識しろって話だよ。全く………お前はここでもこのままなんだな」
「「?」」
その蓮の言い回しに、大半のやつは違和感を覚えていた。
だが、俺と琴葉と蓮だけは、その意味を知っている。
俺はこう返した。
「ああ。このまんま、だ」
内容不明の会話に待たされて、しびれを切らしたフィリアが俺に尋ねてきた。
「それで、もう帰るんですの?」
「お、そうだ忘れてた。まだ帰らねーよ。今から俺のお気に入りの場所に連れて行ってやる。運のいいことに今日は雲ひとつない快晴だ。ここ最近で一番いいのが見られるだろうぜ」
「星でも見るのか? なんか聖の趣味とは思えないな」
「星じゃねーよ。洞窟を見に行くんだ」
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闇市は地下の洞窟を改造して作られた施設だ。
だから、未開発の洞窟に所々繋がっている。
ちなみに、俺が闇市の通行証を持っているのは、この未開発の洞窟の調査を依頼した期間限定のクエストを受けたからである。
有力な商人がこの洞窟に宝があると言う噂を聞きつけてギルドに依頼した結果、誰も宝を発見できず、ランクを落として誰でも受注可能になったところを受けたのだ。
その時の報酬がこの通行証。
宝は見つからなかったが、この景色に満足した商人は、どう言う気まぐれか俺に報酬を支払ったのだ。
「またこんな狭いところ………本当にいいものが見れるんですの?」
「ああ。しっかり目に焼き付けとけ」
整備されていない足場の悪い洞窟だ。
そりゃあ、外を歩き慣れていないであろう姫さまはストレスが溜まるだろう。
だが、この先の景色を見れば、ストレスなんて小さなもんは簡単に消えて無くなる。
「お、湖がある」
洞窟の最奥地には大きな湖があった。
月明かりに照らされて水面が薄っすらと光っている。
「これ?」
「これっちゃこれだが、まだ違う」
完全な状態ではない。
ここの景色はある期間のみ美しい絶景へと姿を変えるのだ。
「5分間限定の超絶景だ」
俺は時計を見て時間を確認した。
「………時間だな」
このさらに奥に、少し穴の空いたところがある。
その穴には、グリームル鉱石と言う微量の光属性を含んだ鉱石から生成された魔力が微量に溜まっていて、空間を少しだけ歪める。
本当に少しだ。
触れてもわからないし、視認もできない。
しかし、そこに光が差せば光は通常より増幅し、乱反射し始める。
「わぁ!」
「幻想的だ………」
「すっげぇ………」
「絶景じゃん!」
「ん」
「これは素敵ね」
「ふぁあ………」
「キラキラしてるのです」
「おー、ひかってる!」
「これは確かに絶景ですわ………!」
「凄いな………」
「わぁ………綺麗」
そして光は水中を照らし、穢れのない透き通った湖から、なんとも幻想的な景色を映し出す。
壁にはゆらゆらと水面の様子が映り出されていて、それがこの景色を一層美しく映えさせる。
「いいところだろ? 俺もここを初めて見たときはうっかり見とれてた。こんな幻想的な景色を見られるなんて思ってなかったからな」
それから、5分間みんなはこの景色を楽しんだ。
行きがけ愚痴ってたフィリアも大喜びだった。
俺たちは明日この街を離れる。
琴葉たちも、城へ帰るのだ。
しばらく会うこともないだろう。
だから、思い出を作れてよかったと思う。
「よし、帰るか」
そして翌日。
出発の日を迎えた。




