第230話
「ケンちゃんどうしたの?」
琴葉がひょっこり顔を出した。
チラッと指輪を一瞥する。
指輪は向こうでもたまにつけていたので、あまり違和感は持たれていない。
「ケンちゃんまたヤンキーっぽいアクセつけてるの?」
「黒が全部ヤンキーアイテムと思うなよ。まぁ見てろって。これ結構便利だぜ?」
「聖くんの嵌めてる指輪、魔法具じゃない。えっと………【プロジェクションリング】か………へぇ、面白い魔法具ね」
綾瀬は鑑定を使い、名称と効果を知ったようだ。
綾瀬は鑑定を使った場合、自動的に【超鑑定】となるので、より細かい情報が得られている筈だ。
「何か面白い情報あるか?」
「それ、録画もできるっぽいわよ」
「お? マジか。ラッキー」
当たりだ。
なかなかいい道具じゃないか。
「結局なんなのだそれは」
「あー、綾瀬が説明したほうがいいだろ。タッチ」
「アンタ自分でも出来るくせに………仕方ないわね………オホン。この魔法具、所有者が持つ三日以内の記憶を映像化して流す事ができるの。その上、50時間分は保存が可能」
「スッゲェ! ビデオみたいじゃん!」
高橋が興奮気味にそう言った。
「試しに聖くんの記憶でも見せたら?」
「じゃあ、料理してるところでいいか」
指輪に魔力を通すと、頭の中に情報が入ってきた。
これの使い方だ。
まず、上映したい記憶をイメージする。
そのまま再び魔力を流すと、
「お」
爪からスクリーンが浮かび上がってきた。
少し薄いが、ちゃんとカラーだ。
「おー、ケンケンじゃん」
「ホログラムみたいな感じかなぁ?」
「わぁっ、凄いですね!」
「ご主人様が二人なのです!」
「ちっちゃいししょうだ!」
「むぅ………便利そうな魔法具だな」
みんなそれぞれリアクションしていたが、テレビなどの映像機器を知らないリンフィア達は特に驚いていた。
俺は一通り映像を流した。
これは使える。
【現像】と組み合わせるのもいいかもしれない。
「映像には多少ツッコミどころはあったけど、便利なのはわかったね」
「あの一瞬で具材斬るやつ漫画だけかと思ったのにまさか現実で見られるとは………」
「あんなもんコツさえつかめばお前らのステータスでも出来るぞ。まぁ、強化すればだけど」
今の勇者のステータスでは、宙に浮いているカレーの具材を落下前に全て切る俺の早業は真似できまい。
せいぜい玉ねぎ一個くらいだ。
「俺は効率を上げるためにやった結果ああなった」
「ものすごい時間余るだろうがな」
無駄話をしていたら、綾瀬がパンと手を叩いて話を切った。
「この指輪の効果は確認できたわ。次の場所にむかいましょ」
「お、買い物には前向きか? JK?」
「アンタも高校生でしょ。闇市は物騒だけど、売ってるものが危なくないのなら、私は何も言うつもりはないわ。私だって普通に買い物はしたいもの。早く行きましょ」
何だかんだ買い物が楽しみなようだ。
「あ、ケンケン。ウチあの武具屋見たいんだけど、寄ってもいい?」
「構わねーぞ。じゃ、早速行こうぜ」
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七海が見つけた武具屋は結構品揃えも良さそうだった。
見た感じ質もいい。
「いらっしゃい。見てくかい?」
「ああ」
剣、鎧、盾などのメジャーな武具はもちろん、地上じゃ数の少ないチャクラムや鉄扇、鎌なども品揃えがきちっとしている。
「うおっ! 死神だ!」
高橋が鎌を手にとってそう言った。
その側で、琴葉が珍しいものを見るように鎌を鑑賞している。
「なんか………鎌って扱い難しそうだよね」
「変に長いもんな」
「手裏剣もあるじゃん。なんかイメージしてたのと形は違うけど」
綾瀬は真剣な目で弓矢を見ていた。
「この弓………」
そういえば、綾瀬は弓道部だった。
弓の名手で、全国にも出ていた。
蓮と綾瀬はうちの学年では有名な文武両道の生徒だと言われていた記憶がある。
この世界に来て、蓮の太刀筋は以前よりも洗練されていて、綾瀬の弓も、より正確になっていた。
まだまだ成長しそうだ。
「気に入ったのでもあったか?」
「私、そろそろ魔法弓を使おうと思ってるのよ」
魔法弓。
特定の属性しか撃てないが、矢をセットした弓に魔力を込めると、詠唱なしで魔法の効果を帯びた弓が撃てる。
しかし、魔法に比べてダメージも小さいというデメリットもある。
正直スペック的には連写可能なリンフィアの銃の方が上だ。
それでも、使う奴の腕が良ければ普通に戦力としては大きい。
「へー、いいじゃねぇか。魔法弓は癖つえーから気をつけろよ」
「ええ、心に留めておくわ。そういえば、以前教官からもそう言われたわね」
「教官………ルドルフか。あいつはちゃんと教えてるんだな。安心した」
「へぇ、アンタも誰かの心配なんてするんだ。七峰さん? 獅子島くん?」
「両方だし、七海も涼子も寺島もだ。今までは気にしてなかったが、高橋もいい奴だったし気にはする」
「そ」
なんか素っ気ない態度だったので、俺は付け加えてこう言った。
「何人ごとみたいに言ってんだ。俺はお前も気にかけてンだぞ? 綾瀬」
俺がサラッと言った言葉に、綾瀬は一瞬ビクリと体を震わせた。
「っ………!」
「ははは、照れんな照れんな。お前は向こうにいた頃も普通に接してくれてたからな。感謝はしてるし、結構好感はある」
「ふ、ふん! 何をほざいてるのかしらこのヤンキーは!」
「おお? いつものキレがねーな」
「うっさい!」
「あっはっは——————」
見える。
女だ。
日本人これは、まさか、また、
「はッ………ぐ、ぅッ、ぁあッ!」
突然の激しい頭痛。
唐突に起こったが、この感覚には覚えがある。
この頭痛が指し示す意味は、俺にとってはかなり大きい。
「どうしたの!?」
「い、いや………ちょっと頭痛がしただけだ」
額にくっきり青筋を浮かべ、苦悶の表情を浮かべている俺を綾瀬は心配そうに見ていた。
「黙って、ろよ………余計な心配………かけたくねぇ………」
「………わかった」
まさか、こんなところに居やがるのか………一体どこの神の“特異点”だ?
共鳴による痛みを噛み殺し、俺は特異点を探した。




