第23話
街を出て東を歩いていた。
あたりは一本道で周辺は原っぱがずっと続いている。
ピクニックするにはちょうど良さそうだ。
「のどかですね」
「そうだな」
「私2年振りに街を出れたので、やっぱりこんな道でもいいなって思います」
リンフィアはついこの前までヨルドという暴力領主の奴隷だった。
今まで自由が制限されていた分こういうところで目一杯楽しんでほしい。
「あっ、あれって冒険者さんですか?」
見ると、装備を整えた4人のパーティが歩いていた。
「らしいな。こんなとこに来てまで受けるクエストがあるのか」
「いいなぁ、私もやってみたいです」
「そういえば道具屋のおっさんが今向かってる街にギルドがあるって言ってたな。あって困るもんでも無いし、登録するか」
すると、リンフィアの表情がパアッと晴れた。
喋り方はちゃんとしているのに所々幼さが見える。
本人には言えないが可愛らしいので見ていて飽きない。
「その前にお前は戦えるようになっとかねーとな」
「頑張ります!」
俺はリンフィアの頭をポンっと叩いた。
「もう少し歩いたら休憩してそこでまず基本を教える」
「はい!」
「いいか、まず強くなる方法は大きく分けて2つある。まず一つ経験を積んで徐々にステータスを上げる方法。戦闘や、技の練習などを行う事でゆっくりだが確実に強くなる」
これは殆ど、いや、全ての冒険者はこの方法で強くなっていると思う。
経験以外ではもう才能ぐらいしか無いが、それも経験は必要だ。
では、何故2つと言ったのか。
「そして2つ目。強制的に強くなる。これはやらない。なのでお前は1つ目の経験を積む方をやってもらう」
「はい」
こっちはさせらんねーからな。
2つ目の修行法、これは俺がやった修行法だ。
ステータスは運動をしながら延々と回復魔法を掛け続けると、飛躍的に上昇する。
しかし、死にかけギリギリを最低でも3時間以上保つのが最低条件だ。
尤も、この調節が出来る奴も限られる。
これに必須な条件。
それは、鑑定だ。
限られるというのは異世界人しか鑑定を持っていないからだ。
鑑定石だとこの先で出来ないことがあるのでだめだ。
鑑定をしながら疲れ果てるまでトレーニングを行う。
そのままし続けると、徐々にHPが減り始める。
それを我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢するとHPが1になる。
だが、まだ攻める。
するとHPが小数点以下になる。
この少数を見るのに肉眼での鑑定がいるのだ。
小数点第二位まで言ったら、小数第一位に戻る程度にかなり弱くヒールをかける。
そのあともう一度小数第二位まで行ったら小数第一位までヒール。
あとはひたすら繰り返す。
普通これを行うことは出来ない。
何故ならあまりの辛さに耐えられるのは拷問などで痛み慣れした奴だけだからだ。
その上その状態で剣を振り回したり、アクロバットしたりするのでもう地獄だった。
「っといかんいかん、リンフィアの修行だったな」
続きはまた今度だ。
「?」
とにかくこんなことをリンフィアにさせるわけにはいかない。
なので、
「お前には、裏技を使う」
「おお、なんか凄そうですね」
「特別な修行法だ。知られたくないから内密に頼む」
しーっと指を立てる。
「はい」
緊張したのかリンフィアはゴクリと唾を飲んだ。
「目ェ瞑れ」
リンフィアは言う通り目を瞑った。
「集中しろ、何も考えないように……深く、より深く」
「深く………」
だんだんと意識が沈むように思えてくる。
感覚は鈍感になると思いきや、実は感覚は鋭くなっている。
「そう、もっとだ」
「………」
この時に強く触られたり、大きな声で呼ばれたりすると、かなりビックリする。
今回はそれを利用して魔力を増やす。
「そろそろか………」
丁度集中がピークに達する頃だ。
「………すまん」
俺はゆっくりと顔を近づけて、
フッ、と耳に息を吹きかけた。
「?………?? 、??? 、???! 、??!! 、!!!?!?」
バッと目が開いた。
同時にツノも生え、背中がググッと強張る。
全エネルギーが溜まり、悲鳴に変わる直前。
来た。
今、ここだ!
「い—————」
「ハァッ!!」
リンフィアに魔力を注ぎ込んだ。
「!」
リンフィアは直感する。
自分の体内の魔力量が大きく変化していることを。
「これは………!」
あまりの変化に目を見張っている。
これは1回きりの魔力の底上げ法だ。
1回限定というのもあり、成功するとその上がり方は尋常ではない。
「ビックリしただろ。あとで謝るから聞け。今極限まで集中していたお前は、急に驚かされて声をあげようとしたろ。その瞬間、お前の魔髄と呼ばれる魔力の源も大きく開いたんだ。そこに俺が魔力を送って吸収させる。わかるだろ? 今物凄い魔力が充満してるのが」
「確かに………決定的に魔力が足りなかった私の体とは思えません。怒るのは後にするとして、ありがとうございました」
やっぱり怒るのか。
「すまんかった。容赦してくれ」
俺は怒られる前にリンフィアのステータスをもう一度確認した。
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リンフィア・ベル・イヴィリア
半魔族
HP:50
MP:2000
攻撃力:30
守備力:40
機動力:20
運:10
スキル:無し
アビリティ:無し
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「………ヤバっ」
想像以上の成長だ。
俺のクラスメイトよりずっと高くなっている。
これはいい誤算だった。
一気に四級魔法くらいまでなら連発出来るようになるだろう。
「魔族ってのもあるがここまでとはな」
「さーて、ケンくん」
ビクッとした。
なんだこの悪寒は。
「ゆっくり話しましょうか?」
俺は久し振りに説教を食らった。
「まったくもうっ。私だって一応女の子なんですから、耳にフッてするのはダメですよ! わかりましたね?」
「ごメンゴ」
ごめん×メンゴ。
謝罪を二重にかけた高等テク………と言うわけでもなく適当に謝罪した。
ともあれこれで魔力は十分得られた。
「じゃあ続きをしましょう」
「そうだな、今度は魔力操作だ。全身を使って魔力を張り巡らせてみろ」
「それなら出来ます。一応これでも魔族なので」
リンフィアは滞りなく魔力を操作する。
魔族の長所の1つはこの魔力コントロールだ。
魔族は全員、魔力の細かい操作が生まれつき出来る。
それはハーフでも変わらない。
「そうか………うん、今日はこれで終いだ。そこまで出来るなら明日は五級魔法を覚えような」
「そうします。そろそろ日も落ちちゃいそうですしね」
気がついたらもう夕方だった。
「この辺で夜営の準備をするか」
このまま街まで行くことは可能だがそれでは旅が台無しだ。
俺たちはこの辺りで野宿をすることにした。




