第227話
「貴重な話を聞けたと思う。礼を言うよ、坊や」
「ああ」
賭けに勝ったので、約束通り白金貨100枚を貰った。
ギルファルドのいう権利と言うのは、鉱山の自由発掘権や、自由商業権、第三特等階級………つまり、貴族の権利を行使可能というわけだ。
第二級は、王族と同等で、 第一級は、国際会議や国会への参加が可能となり、発言権もそこそこ強い。
「使うも使わぬも君次第だ」
「サンキュー。ありがたく使わせてもらうぜ。多分3特はあまり使わんと思うけどな」
というのも、貴族の権利は大まかにいうと、土地を収める権限や、奴隷の所持だ。
「奴隷制があまり好きじゃねぇんだ。奴隷制廃止とまでは言わねーが、悪人だけにしとけって話だ」
「ほう、私も同じ考えだ。誰しも適材適所というものがある。無辜な民はそういう場所に居るべきでは無いが、クズはクズらしくボロ雑巾になるまで使い倒すのがお似合いだ」
少し意外だった。
こういう根っからの商人気質な人間は奴隷制は必要だという物だとばかり思っていたのだ。
確かに、合理的な制度だ。
自分達さえ落ちなければ、誰だろうが使い倒す。
それは自分の利益につながる。
だから、商人たちは奴隷制を支持しているのだが、この男は違うらしい。
「私の古参の職員の大半は元奴隷だ。私は彼らの技術を買い、手元に置いた。そして奴隷を買って我々の元で労働させる。奴隷以外の者達と等しくな」
なるほど、道理でここのスタッフのギルファルドを見る目が輝いているわけだ。
畏怖の中に一際大きな尊敬の念を感じる視線だ。
この男は、皆に尊敬されるトップなのだろう。
「こういう権利は利用すべき時に利用しなさい。言わずともわかるだろうが」
「いや、助言感謝するぜ。肝に命じておくよ」
「では、私は仕事に戻るよ」
「アンタ仕事中だったのかよ」
「今日ここに君が遊びに来るだろうと踏んで張っていたのだよ。今回は完全に損をさせられてしまったが、機会があれば、また」
ギルファルドはそう言って去っていった。
「………」
「ケンちゃーん!」
「ん、琴葉」
野次馬がどこかへ行ったタイミングで琴葉がやってきた。
「どうしたのケンちゃん? あんなに人に囲まれて」
「ギルファルドのおっさんと勝負してた。ほれ」
俺は白金貨を琴葉に見せたら、目を白黒させていた。
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「結果発表ォー」
俺はやる気のない声でそう言った。
「ハイまず高橋」
「金貨20枚!」
「ショボい! 次ッ!」
ショボいと言われて心なしかショックを受ける高橋。
今度は美咲だった。
「金貨80枚になったよ」
「おぉ、そこそこ増えてんな」
「颯太くんにあげてなかったら100枚だったんだけどね………」
「おまっ、バッキャロォ! それは言わねぇ約束じゃん!」
俺は高橋にデコピンを入れ、次に回した。
というか、美咲はしれっと10倍に増やしていたようだ。
「かわんなかった!」
「10なのです」
「デフォルトって逆にすげーな」
エルとラビは変わらず10枚だ。
「次」
「私たちは………」
たち?
チラッと蓮を見ていると、琴葉と目配せをしていた。
あの感じだと出資させられていたらしい。
「0ですわ」
「減っとんのかい!!」
「ギリギリまでニールさんと勝負してたんだよ。ケンちゃんがいない間こっちは大変だったんだよ。ね、リンフィアちゃん!」
「はい………すごい大変でした」
この様子から、かなりガチで戦っていたことを察する。
「お陰で私は1000だ」
「お前もお前で何ケンカ買ってんだよ。俺の金だぞ」
「うるさい、チンピラ」
「理不尽ッ!?」
図星を突かれて俺に当たるなよ。
プラマイゼロだからいいものの。
「綾瀬は?」
「500よ」
「マジか!? あんだけギャンブル反対な感じだったのにな。思わぬ才能ってやつか」
「フン! これくらい造作もないわよ」
こんな感じでツンツンしているが、一番楽しんでいたのは、実は綾瀬である。
一通りのゲームを行い、殆ど勝っていた。
駆け引きがうまく、ポーカーやブラックジャックで大きく稼いだらしい。
「七海は?」
「………」
七海は露骨に目を逸らした。
見ればわかる。
やらかしたらしい。
目が泳ぎまくって手遊びが………手遊びすげぇな!?
ものすごいスピードで指が器用に動いている。
すると、
「ななみん、借金した」
涼子が俺にボソッとそう言った。
額はなんと金貨1500枚分らしい。
「ぎ、ギクリンコ」
「こっ、こいつはガチで………!」
「返した」
俺はバッと涼子の方を向いた。
「え、マジで?」
「ん」
涼子はどうやら七海の借金を立て替えたらしい。
つまり、単独で金貨1500枚稼いだという事だ。
「よくやった涼子! マジで!」
頭をポンポン叩くと、喜んだ。
こいつはなぜかこれをすると喜ぶのだ。
「ぶー、ウチもワザとやったわけじゃないのに〜」
「うるせー、ムクれんな」
「じゃあ、ケンくんはいくら稼いだんですか?」
「そーだそーだ! ウチらばっか責めるのはずるいぞ!」
俺はフッと含みのある笑いをした。
そして、懐から先ほどの報酬を取り出す。
「じゃん」
「「………………は?」」
しばらく呆然とした後、さっき見た琴葉以外の、ここにいる全員の絶叫がカジノに響き渡った。
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カジノは楽しかったらしい。
俺もだいぶ稼げたので満足だ。
という事で、
「じゃあ、軍資金も集まったし、今度は闇市に向かうか!」
「違法なものを扱ったりはしてないわよね?」
「多少はあぶねールートを渡ってきてるだろうが、違法ってまでじゃねーし、 基本的に危険なもんは置いてない筈だ。闇ってついてても、目立たないとか隠れたって言うニュアンスの闇だからな」
それなら綾瀬的にもオーケーらしい。
やはり堅物だが、少しは柔軟になったようだ。
「俺も今ちょうど欲しいもんがあったし、いい機会だ。お前らもあそこでなら珍しい装備とか手に入るぞ。それじゃあ、出発!」
俺たちは東区にある闇市へ向かった。




