第224話
ダグラスとの試合後、闘技場内のスタッフに詰められそうになったので、急いで身を隠して、観客席に戻った。
お手製の仮面は急ごしらえだったので、換装魔法をかけ忘れていたが、今度からはすぐに使えるようにした。
見た目は完全に厨二マスクだが、自分で作ったのもあり、結構気に入っている。
「ただいま」
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「一瞬で終わっちまったからなぁ」
「嫌味か」
「そんなんじゃねぇよ。ただ、思いっきり戦える相手がいないってのも考えものだなって思ってな」
強すぎると言うのも困り者だ。
少なくとも試合という形でだが、ケンカするのが好きな俺にとっては結構しんどい。
「いちいち鼻に着く言動だな。まぁ、言いたいことはわかるが。お前に敵いそうなやつなんてこの世にいるのか?」
「期待できそうなやつは一人」
「何!? 居るのか!?」
「居るには居るが………」
俺が煮え切らない様子でいると、ニールが訝しんできた。
「何だ、はっきりしないな」
「素養はあるし、伸び代は恐ろしいほどあるンだよ。ただ、ぶっちゃけそいつとは戦いたくねぇ」
「ほぅ………」
勘ぐるような眼で見ていたが、結局誰なのかは見当が付けられなかったらしい。
「ほら、次の試合始まるぞ。メインは終わったが、まだ面白ぇ試合は残ってるからな」
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俺たちはあの後3つほど試合を観戦した。
最初はブーイングが多かった女子連中も、闘技場を出る頃には満足そうな顔をしていた。
「面白かったー!」
「最初はグロいイメージだったけど、試合はちゃんとしてたし、楽しそうに戦ってるのを見てるとこっちも楽しくなるよね」
「最後から二番目のモンスター対モンスター凄かったよな!?」
大絶賛である。
今日回る予定のある場所は、あとカジノと闇市だな。
「次はどこに行くんですか?」
「カジノだ。多分まだギルファルドのおっさんがいるだろうし、顔出しとこうかなと思ってな。それに、カジノで稼いだ後に闇市に行きたいじゃん」
「なるほど。私、この前ケンくんからカジノのお話を聞いてから行ってみたいと思ってたんです!」
リンフィアは目をキラキラさせながらそう言った。
カジノならブーイングはされまい。
「おおおおお! カジノ! 未成年のうちにカジノに行ける日が来るとは!!」
「ダッシュくん! 一緒に億万長者になろうぜ!」
「おうとも!」
高橋と七海は異様にテンションが高い。
「颯太くんも七海ちゃんもはしゃぎ過ぎたら痛い目みちゃうよ?」
「いいじゃん美咲。人生楽しめる時に楽しむべきだぞ?」
もっともな事を言うが、俺には一つ確認しておきたいことがあった。
「で、勇者ども。お前ら軍資金はいくらだ?」
「「 」」
はしゃいでいた連中はまるで石になったかのように固まった。
蓮と綾瀬はやれやれとため息をついている。
「フィリアは?」
「一応白金貨一枚………」
「よし、それはマズイからしまっとけ」
何て女だと俺は思った。
白金貨を持ち歩く。
つまり、懐に一億円忍ばせる行為である。
流石王族。
「仕方ねーな」
俺がアイテムボックスから金貨80枚を取り出した。
「一人10枚だ」
「「センパイあざーっす!」」
調子のいい奴らだ。
「私は結構よ」
「お前なぁ、こんなところでまで委員長しなくていいって。息抜きは大切だぜ?」
「むぅ………」
綾瀬はそっぽを向いたが、チラチラとこちらを向いている。
仕方ないので、俺は綾瀬に見えないスピードでポケットに金貨を入れた。
「ほい」
「え? あれ………あっ! ちょっ、聖くん!?」
「ムリは禁物だ。覚えとけ」
俺は押し付けたままカジノに向かった。
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「こんなところにカジノが?」
俺たちはカジノの入り口前の階段を下っていた。
狭い地下階段を通るので、みんな疑っている。
たしかに、 俺たちが持つカジノのイメージはもっと入り口から派手な感じだから仕方がないとは思う。
そんなこんなで説明していると、扉の前まで来ていた。
「開けるぞ」
俺は入り口のドアを開いた。
暗い階段を下った先の扉の先にあるのは、イメージ通りの紛う事なきカジノだ。
勇者たちは目にした瞬間、感嘆の声を漏らしていた。
「うわっ、本当にカジノだ………」
さてと、何処にいるかな………
俺は辺りを見回して、目的に人物を探した。
すると、
「………お、いた」
ギルファルドは、奥の方で人に囲まれていた。
丁度いい。
俺は、みんなを置いてギルファルドのところに足を運んだ。
「おっす」
俺が適当な挨拶をすると、周りのスタッフはギョッとした顔で俺をみた。
よもや世界的な富豪である自分のオーナーにこんな口の聞き方をする小僧がいるとは思っていなかったのだろう。
「おや、坊やじゃないか。出発前に遊びにきたのかね?」
「そんなとこだ。勇者たちを連れてきたから、タキシードとドレス借りれるか? 流石にあのカッコだと目立つしな」
「ふむ。わかった。すぐに手配しよう」
「助かる」
スタッフたちはこのやり取りを唖然として見ていた。




