第223話
着地の寸前で重力魔法を放ち、ゆっくりを地面に着地する。
そんな様子の俺を見て、観客達は何故か静まり返った。
「お………おぉっと!? ここで謎の乱入者が現れたぞ!! ギルドマスターに挑むこの勇気のある戦士は一体何者なのかーーッッッ!!!」
その声と同時に会場がザワつき始める。
「誰だあれ?」
「仮面?」
「装備薄っす!!」
「ギルドマスターってわかって挑もうとするバカがいるとはな………」
「しかも1人じゃん!」
「でも、ギルドマスター直々の指名っぽいし、めちゃくちゃ強いんじゃないかな?」
「わからん。わからんが、なんかヤバそうな感じはするな………」
俺はゆっくりダグラスの元に近づいた。
ダグラスは俺の格好を凝視している。
「どうしたボウズ。オシャレにでも目覚めたか? なんだよ、ソレ」
ダグラスは俺の仮面に指をさした。
俺は今、仮面をかぶっている。
色は基本的に銀と黒だ。
アイマスクの仮面で、先端が尖っており横に伸びている。
頰のあたりに大きな牙を模したパーツがあり、口元にも先ほどの牙より少し小さめの牙が付いている。
「わかってんだろ。俺が変装なんかしてる理由」
ニヤリと俺は笑った。
「仮にもギルドマスターであるダグラスさんが、Gランクのガキに負けたとあっちゃあマズイだろ?」
「このクソガキ………ッッ!!!」
ダグラスが飛び出してきた。
割と沸点低いなと思いつつ応戦する事にした。
「おぉっと!? いきなり試合が始まったぞ!!」
と、言いながら慌てて席に戻っていった。
「フッ………ッッ!!!」
とりあえず回避に努めている。
上下右左下下上左右右………
頭の中で呟きながら攻撃を躱していく。
前回あったズレは修正されていた。
流石だ。
「アンタ鍛えてンだな」
「ったりめーよォ! まだまだ俺ァ現役じゃァアアアア!!!」
「そうかよッ………と」
俺はダガーを指で挟んで攻撃を止めた。
一応これは強化してある。
ピタッと動きが止まったタイミングでダグラスが話しかけてきた。
「ボウズ。お前の言う通り、俺にはギルドマスターっつー重い看板背負ってる。でもな、手加減されることは、その看板に泥を塗られるくらい屈辱なんだヨ………!!」
「へぇ………そうか」
俺はダガーを離して、 一歩下がった。
「じゃあ、本気出してやるよ」
複合:強化一級魔法【クインテットブースト・ダブル】
白のオーラが俺の身に纏わって、周囲に黒い稲妻が発生した。
魔力は漏らしていない。
しかし、その驚異的なまでの魔力コントロールと、この状態の俺から放たれる異様なまでの圧に、会場はざわついていた。
「なんだアレ………」
「強化魔法? 白って一級だよな!?」
「アイツ今無詠唱じゃなかったか!?」
「何あの黒いの………」
「あれ? 手が勝手に震えて………」
当然、上にいた勇者達もそれを見ていた。
「アレ、無敵じゃない?」
七海がサラッとそんな事を言った。
実際、俺に勝ち得る者を、誰も知らなかった。
「うおお………なんだアレ? カッケー。つーか誰もあんなのに勝てないよ。聖の最強ヤンキー説がいよいよホンマモンになり出したな」
高橋がそう言った。
「無能と言われていたのが嘘みたいね………」
「ケンちゃんすごいね!」
「ああ………」
蓮は、みんなと違い、少し憂鬱そうな顔をしていた。
「………無理したんだろうな」
蓮は誰にも聞こえない声でそう言った。
「ご主人様強そうなのです!」
「つよそうじゃなくて、つよいぞ。ししょうは。なー、ねーちゃんたち」
「うん。ケンくんはすっごく強いよ」
「ああ。アイツは私が知り得る最強の男だ」
ダグラスはいざ対面して脂汗をかいていた。
「クッソー………なんなんだよオメーは………あのバケモンどもよりずっとバケモンじゃねぇか………ゾクゾクしやがる………」
「生憎、人の領域なんつーモンはとっくの昔に捨て去って来た」
俺は低く構え、脚に力を込めた。
「おっさん、後悔すんなよ」
「誰がするか。ゼッテー止めちゃるぜ」
バタン
会話が終わった数秒後。
ダグラスは倒れた。
「え?」
「何、何が起きたの?」
「倒れたぞ!?」
突然倒れた、と思いきや、そうではない。
俺が倒したのだ。
「恐ろしいやつ………」
唯一反応していたニールはそうこぼした。
「ニール、今のが見えたんですか?」
「はい、少しだけですが。ケンはダグラス殿に接近して、顔と胴体にある急所に10発攻撃をして元の位置に戻りました。リンフィア様も、動きだしは見えたでしょう?」
「うん………でも、攻撃したところは見えませんでした。出だしの一歩目だけです。ダグラスさんは反応していましたか?」
「ダグラス殿は………」
俺はダグラスの頰と叩いた。
「おーい。起きろおっさん」
「ぐっ………何もできなかったか………」
第一声がそれか。
流石に悔しかっただろうな。
「いや、反応しただけ流石だ。さっきの連中なら5,60回殺しても気づかねーだろうよ」
「ケッ、イヤなヤローだぜ。まったくよォ」
俺はダグラスの手を引っ張り上げた。




