第220話
「出番です!」
ダグラスは待機室で、いつものダガー手入れと準備運動をしていた。
「んー、りょーかい」
手入れは最後までキッチリ終わらせる。
刃こぼれを確認して、よし、と一言。
ダガーをホルダーに収め、汗を拭いて着替えた。
「最近公務ばっかりだったし、久々に楽しむとするか」
装備は、いつもの冒険者の装備ではない。
いつも軽めの装備だが、今回装備しているのはそれより更に軽い防具だ。
10対1なので、軽くしておこうと言う考えである。
ダグラスはダガーを回したり投げたりして最終調整をした。
「うっし、行くか」
ポケットからあるものを取り出す。
そしてダグラスはそれを被って入場門に立った。
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「お、まずは相手の10人が出てきたぞ」
俺たちが見ていた方とは逆の門から10人の冒険者が入場した。
「なかなかの猛者だ。装備品も良いやつ使ってんな」
「これは………対小型モンスターの本格的なレイドパーティだな。これは流石にマズイんじゃないのか?」
蓮はちゃんと見るべきところを見ている。
そう、これは小型のモンスター戦で組まれるレイドパーティと配置が同じである。
タンク役を削って近距離戦闘員を増やしている。
支援魔法使いが攻撃役を援護し、遠距離攻撃役が相手の動きを封じる。
逃げたり回復したりを防ぐのだ。
「特におっさんは派手な一撃と言うより手数勝負な戦い方だしな。対策としては良いんじゃねーの?」
だが、と俺は付け足した。
「タンクはもう一人くらい必要だ」
「なんでだ? ダグラスさんは短剣使いだろう?」
「だからだ。持久戦になったらおっさんが不利だ。タンクに攻撃を防がせてじわじわ戦った方がいい。援護役の守護にも必要だしな」
なるほど、と蓮は相槌を打った。
「それに、アレほどの男が近距離しか戦えないわけねーだろ」
俺はニヤリと笑った。
その瞬間だった。
「!」
妙な圧迫感を感じた。
ダグラスのいる門の方からだ。
「おっさん気合入ってんな」
闘気がここまで伝わってくる。
「現在無敗!! 突如現れた謎の短剣使い! 目にも止まらぬ早業を今日も見られるか!?」
戦士紹介が入った。
「謎の?」
みんな首を傾げた。
「なーなーししょう。おじさんってゆうめいじんだよなー。なんでなぞのなんだ?」
「多分覆面か仮面でも付けてるんだろ。顔バレ防止だ」
「なんで?」
「マイにバレたら大目玉だから」
俺がそういうと、リンフィアとニールは納得していた。
「ま、見ればわかる。特にお前は同じ武器種なんだから勉強しとけ」
「わかった!」
「我らがマスクマン、スラグダァァァアアッッ!!!!」
観客達が一気に湧いた。
ここでもダグラスは大人気らしい。
「つーかスラグダって。手抜きなネーミングだな」
門から覆面を被った男が現れた。
目、鼻、口を出した派手な覆面。
そして真っ赤な衣装とマント。
その姿はまるで、
「「レスラーじゃん!!」」
勇者達のうちの何人かが同時にそう突っ込んだ。
本物のレスラーはもっとカッコいいのでレスラーに失礼だ。
そのくらい強烈なダサさとおっさん臭が溢れ出ている。
一方ダグラスはここからでもわかるくらい得意げな顔で立っていた
「いいぞスラグダ!!」
「今日もダサいぞ! スラグダーーッ!!」
「ダサいけど今日も楽しみだぞスラグダ!!」
「チックショォ………一体これのどこがダサいっつーんだよ。イカすじゃねーかよォ。ま、いいや。今日の相手はアイツらか………」
ダグラス………もといスラグダは目の前の相手を凝視した。
相手は観客のように笑っていられる状況ではなかった。
刺すような圧に脂汗をかき、手は微かに震えている。
ふざけた格好でも強いことは見抜いているのだ。
「こいつがスラグダ………物凄い圧だ」
「噂に違わないダサさだな………」
「でも油断は出来ないよ」
「ああ、よくわかってる………」
10人が相手だ。
だが、スラグダは全く気圧されていない。
むしろ余裕の表情だ。
「あー、なんだ。ここで戦うのも何かの縁だ。同じ戦い好き同士——————」
ゾワッ!!
冒険者達は一気に警戒を強め、 上で見ていた観客や勇者達も若干気圧されていた。
「仲良くしようや」
「ウチ、今なんかゾワっと来た………」
「私も………」
「俺もなんか背筋がゾワっと来たわ………」
相手の圧を感じられるようになっている。
勇者達もちゃんと成長していた。
「お前らもわかるようになったじゃねーか」
さて、おっさん。
どう戦う?
「試合ッ、開始ィィィィイイ!!!!」




